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『セリヌンティウスの舟』石持浅海 人を信じるということは……

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石持浅海の六作目

2005年刊行作品。石持浅海(いしもちあさみ)作品としては、『アイルランドの薔薇』『月の扉』『水の迷宮』『BG、あるいは死せるカイニス』『扉は閉ざされたまま』に続く第六作となる。

光文社文庫版は2008年に刊行されている。

セリヌンティウスの舟 (光文社文庫)

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

セリヌンティウスと聞いてピン!と来た方。『走れメロス』を愛読している方。初期の石持浅海作品を読んでみたい方。ちょっと変わったミステリ作品を読んでみたい方におススメ。

あらすじ

ダイビング仲間だった六人は嵐の海で遭難しかけ、九死に一生を得て生還した。生命の危機を共に乗り越えることで、固い絆によって結ばれた彼らは、それから折に触れて行動を共にするようになる。しかし仲間の一人、米村美月はダイビングの後の飲み会の夜に服毒自殺を遂げる。彼女は何故死を選んだのか。そしてどうして毒薬の瓶の蓋は閉まっていたのか。残された五人は疑心暗鬼に陥る。

ココからネタバレ

セリヌンティウス?

本作のタイトルを聞いて、まず思うのは「セリヌンティウス」とは何者か?という点であろう。

セリヌンティウスとは、太宰治の『走れメロス』に登場するメロスの友人である。王の怒りを買い、死刑を命じられたメロスだが、妹の結婚式に参加するために三日間の猶予を貰う。その際、メロスの身代わりとなったのがセリヌンティウスである。

メロスが帰らなければセリヌンティウスは替わりに死刑となってしまう。人を信じるとはいかなることであるのか。本作『セリヌンティウスの舟』では、そんなセリヌンティウスの葛藤が描かれる。

石持作品独特の「動機」

限定された環境下で進行するミステリは珍しくもなんともないけど、相変わらずこの作家は変化球を投げてくる。既に自殺してしまった仲間の死について、残された五人が延々ああでもないこうでもないと議論をめぐらす「だけ」の作品。

『扉は閉ざされたまま』『月の扉』でも思ったけど、石持浅海の書くミステリ作品は動機が本当に独特。一般人としてはこれがもう全然理解出来ない。ってまあ、犯罪を犯すような人間の心境は一般人とは違うのかもしれないけど、それにしても毎回毎回、予想の斜め上を衝いてくるのは凄い。今回の真相もなんなのよそれ、って感じの読後感の悪さである。

机上の空論というか、作品として成立させるために無理矢理論議しているようで、現実味が薄いのもマイナスかな。嵐の海から生還するくらいの劇的な体験が無いと、この物語には共感が出来ないのかもしれない。なんだか、気高さのカケラも無い読者で申し訳ない。

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