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『ロボット』カレル・チャペック 人によって作られた存在が反乱を起こしたら?

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作者のカレル・チャペック(Karel Čapek)は1890年生まれのチェコスロバキア人(当時)作家、劇作家。1938年没。

本作は1920年に発表され、初演は1920年。『ロボット』のタイトルで知られているが、もともとのタイトルは『R.U.R.(Rossumovi univerzální roboti)』で、岩波文庫版では「R.U.R.(エル・ウー・エル)ロッスムのユニバーサル・ロボット」と副題になっている。

岩波文庫版は1989年に登場していて、訳者は千野栄一(ちのえいいち)。

ロボット(R.U.R) (岩波文庫)

最初の日本語版は宇賀伊津緒(うがいつお)の訳で『人造人間』のタイトルで1923年に刊行されている。最近では2006年、八月舎から刊行された、田才益夫による『チャペック戯曲全集』に収録。

また、阿部賢一(あべけんいち)による中公文庫が2020年に発売されており、現在読むならこちらが読みやすいかも(岩波版は字が小さいのが難点なのだ)。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★★(最大★5つ)

「ロボット」という用語のルーツに迫ってみたい方。人造人間、人工的に作り出された生命の意義について考えてみたい方。人間にとって労働とは何なのか考えてみたい方。カレル・チャペック作品に興味があって、どれか一作読んでみたいと思っていた方におススメ!

あらすじ

ロボットの登場により人類社会は一変した。低コストで長時間、従順に働いてくれるロボットたち。しかし働く必要がなくなった人類には、とある深刻な異変が訪れる。そして従順だったはずのロボットたちは、ある日突然、人間たちに反乱を起こす。次第に追いつめられていく人類。人類は滅びてしまうのか?そしてロボットたちを待つ運命とは。

ここからネタバレ

「ロボット」発祥の作品

現在では「ロボット」という単語は当たり前のように使われている。これ、実はこのカレル・チャペックの作品で初めて使われた造語だったりする。

戯曲『ロボット』(R.U.R.)において、「労働」を意味するチェコ語「robotaロボタ」(もともとは古代教会スラヴ語での「隷属」の意)から ロボット という言葉を作ったと言われるが、彼自身は兄ヨゼフが作った言葉だと主張している。

カレル・チャペック - Wikipediaより

岩波版『ロボット』の巻末には、カレル・チャペック自身による「ロボットという言葉はどのように生れたか」が収録されており、この言葉が兄ヨゼフの発案であることが明かされている。

ちなみに、カレル・チャペックの兄ヨゼフは画家で、中公文庫などの表紙絵となっているユーモラスなロボットのイラストは彼によるもの。岩波版でも200頁にイラストが掲載されている。ヨゼフは後に、第二次世界大戦中にナチス・ドイツの強制収容所に収監され死去している。

ロボットという言葉からはメカニカルな印象を強く受けるが、カレル・チャペックで描かれている「ロボット」たちは有機物で作られた人造人間、アンドロイド的な存在である。

労働の意義と人類の未来

二人のロッスムによって創造されたロボットは人間の労働を代替する。ロッスムはロボットを創るにあたって、労働に不要である感情を取り除いた。ロボットには魂がない。彼らの寿命は長く30年程度。生殖能力はない。

人間はロボットによって永遠の課題であった労働から解放される。しかし皮肉なことに働かなくなった人類からは次第に生殖能力が喪われていく。減り続けるこどもたち。やがて、ロボットたちは人間こそが不要なものであるとして、人間を殺し始める。だが、生殖能力を持たないロボットたちにも、やがて滅亡の危機が訪れる。

本作は書かれてから既に100年が経過する、もはや古典とも呼ぶべき作品だが、描かれているテーマは現代でも通用する、というか、いまだからこそ読むべき内容が網羅されている。人間にとって働くとはいかなることなのか。人間が生きるために、下位の存在を生み出したとして、彼らの生きる権利はどう保障されるべきなのか。人とは、命とは何なのか?僅か200頁足らずのボリュームに、これだけ深遠なテーマが詰め込まれているのだからすごい。

物語の終盤、魂を持たない存在であったはずのロボットに感情が生まれる。他者を愛おしく思う気持ちが生まれる。最後の人間となったアルクビストは、ロボットのカップルであるプリムスとヘレナを祝福する。ただそんな彼らも、滅びの運命からは逃れられないのでは?とも思ったのだけど、本作の冒頭の部分にこんな記載が……。

あの人はいろいろな腺を一本残らず何もかも人間の身体にあるように作ろうと考えたのです。盲腸も、扁桃腺も、おへそも、むだなものだらけです。そして、それにーーウムーー生殖腺までです。

カレル・チャペック『ロボット』p22より

ロボットにもどうやら生殖腺は備わっているようなので、これまでその必要(男女間の愛情的なもの)がなかったから使われなかっただけってことなのか?となると確かにアルクビストの最後のセリフ「愛による主の救い」「生命は死に絶えることはありません!」も感慨深いものになってくる。人類は滅びても生命は不滅なのだから。

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