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『ラットマン』道尾秀介 最後まで気が抜けないミステリ作品

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道尾秀介、初期の代表作

2008年刊行作品。光文社のミステリ専門誌『ジャーロ』の2007年夏号、秋号に掲載されていたものを単行本化したもの。作者の道尾秀介(みちおしゅうすけ)は1975年生まれの小説家。2005年の『背の眼』デビュー作で、本作が8作目になる。わたし的には、最初に読んだ道尾作品だった。

この年の、週刊文春ミステリーベスト10で4位、このミステリーがすごい!で10位、本格ミステリ・ベスト10で2位にランクインしている。

光文社文庫版は2010年に登場している。

ラットマン (光文社文庫)

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

青春小説的な側面を持つミステリ作品を読んでみたい方。道尾秀介をとにかく、まずは一冊読んでみたいと思っている方。あっと驚く、意外なオチが待っているミステリを読みたい方におススメ。

あらすじ

姫川亮は三十歳になる。高校時代のバンド仲間とは時々集まってセッションを持つ。かつてのドラムス担当は小野木ひかりとは恋人関係にある。現在のドラムはひかりの妹の桂が担当している。しかし姫川はいつしか、ひかりではなく妹の桂に心惹かれていく。平穏な日常ににふと訪れた魔の瞬間。一瞬の逡巡と決断。果たして完全犯罪は成立するのか。 

ここからネタバレ

ビターテイストのミステリ

高校時代のバンド仲間。若き日を共に過ごした友人たちも、卒業後十年経ったらこんな風になっちゃいましたという、かなりアイロニー入ったほろ苦テイストの物語。

タイトルの「ラットマン」とは同じネズミの絵でも動物の中に混ざっていればちゃんとネズミに見えるのに、人の顔の中にまざっているとそれがネズミではなく人の顔に見えてくるという現象を指す。人間の知覚は、前後の刺激によっていくらでも変化してしまうのだ(←はい、これ大事、よく覚えておかないと!)。

ウンチクが出てきたら身構えるのがミステリファン

本編に直接は関係がないあからさまなウンチク話が出てくるからには、これは間違いなく伏線ですね。あー、はいはい、そうですかとスレたミステリ読みとしては当然身構える。しかしそれでいて、その裏の裏を突いてくるサービス精神が素晴らしい。

思いこみ、先入観、第一印象の何と怖ろしいことか。あーあ、クソ野郎が主人公の酷い話読んじゃったなとガッカリ思わせておいて、最後に見事な大逆転が待っている。この年のミステリ各賞で善戦したのも納得のクオリティなのである。

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