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『こちら、郵政省特別配達課!』小川一水 郵政民営化前に書かれたお仕事小説!


本日は小川一水の『こちら、郵政省特別配達課!』シリーズ、全二巻をまとめてご紹介したい。1999年~2001年にかけて、まだ郵政民営化が行われる前に世に出た作品。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

公務員の主人公が、内外のさまざまな壁を乗り越えながら仕事を頑張る!系のお話が好きな方。いつもは喧嘩ばかりしている二人だけど、実は……系の作品がお好きな方。最初期の小川一水作品を読んでみたい方におススメ。

『こちら、郵政省特別配達課!1』

1999年刊行作品。もともとは今は亡きライトノベルレーベル、ソノラマ文庫からの登場だった。この時の作品タイトルは『こちら郵政省特配課』。カバー、本文イラストはこいでたくが担当。『アース・ガード』と同じ方だね。

その後、2005年にソノラマノベルス版が登場。こちらは続巻の『追伸・こちら特別配達課』と合本化され、タイトルも『こちら、郵政省特別配達課!』に改められた。イラストはソノラマ文庫版と同じくこいでたくが担当。ノベルス版ではイラストが全て新規で描き起こされた(贅沢だな)。

更に、2014年に新潮文庫NEX版が登場。こちらでは再度分冊されてタイトルは『こちら、郵政省特別配達課!1』となった。カバーイラストは平沢下戸(ひらさわげこ)が担当。

こちら、郵政省特別配達課(1) (新潮文庫nex)

『こちら、郵政省特別配達課!1』あらすじ

民間業者との熾烈なシェア争いに一石を投ずべく、郵政省は画期的なサービスを開始した。法に抵触しない限り、どんな荷物でも採算度外視かつ最速で配達する。かくて、新設された特配課には一癖も二癖もありそうな人物ばかりが集められた。スーパーカーから、航空機、専用新幹線に至るまで、最強の装備を駆使して郵政業務に邁進する課員たちの活躍を描く。

郵政民営化前、郵政省最後の輝きを描く

このシリーズが刊行された1999年~2001年は郵政省激動の時代で、行政改革の進行、小泉内閣による民営化の強行と、めまぐるしく状況が変わっていた頃だ。それだけにフィクションよりも、現実の時代の流れの方が速かったりして、今読むと「???」と思ってしまう描写が所々で散見される。

それでもまあ、一冊目の『こちら、郵政省特別配達課!1』』では、勢いで乗り切った側面が強く、深く考えずに、無茶な展開を楽しむべきかな。

ここからネタバレ

以下、各編ごとにコメント

郵便配達はサイレンを鳴らす

郵政省本省での勤務を命じられた八橋鳳一(やつはしほういち)は、ド派手な赤のスーツを着こなす謎の女、桜田美鳥(さくらだみどり)に命じられ、奇妙な現場に赴くことになる。そこは依頼があればどんなものでも配達する、郵政省の特別配達課。最初の仕事は、なんと一軒家をまるごと動かし配達するものだった。

シリーズ第一話。地方の配達局員でしかなかった主人公、八橋鳳一がいきなり郵政省本省に異動。栄転かと思い喜び勇んでやってきたら、泥臭い現場仕事で、上司は美人だけど滅法気の強いヒロイン桜田美鳥、昼行灯っぽいけど実はやり手上司の和光正造(わこうしょうぞう)みたいなキャラも居てと、ライトノベルっぽいドタバタ展開がいい感じ。

真っ赤なカウンタックに郵政省の「〒」マークをつけて走らせるのは、人型ロボットに桜の代紋をつけて動かせて見せた『機動警察パトレイバー』の影響を感じないでもない。

郵駿

JRAから舞い込んだ特配課への依頼は、日本ダービー競走馬の運搬。しかも今回は同業他社との競争に。更には謎の組織による妨害工作まで入る始末。栗東から府中まで。果たして鳳一と美鳥はレース開始までに、配達を終えることが出来るのか。

ライバルの民間企業、大東運輸の出水修平(いでみずしゅうへい)が登場。鳳一、美鳥、更に出水修平、この三人実は全員東大出身で(鳳一は留年した挙句に中退してるけど)、本当は超エリートのはずなのだけど、いずれも反骨精神が旺盛すぎてデスクワークが肌に合わないタイプ。美鳥なんて普通にキャリア官僚なのに。

最後は間に合わないと見るや、なんと美鳥が競争馬にまたがりレースに乱入するという、ハチャメチャな終わり方。これ始末書どころじゃすまないような……。

Fly mail to the moon

いかにも胡散臭そうな男から、中田島砂丘で預かった依頼物は謎の試料金属。これを長崎まで配達せよ。いわくありげな積み荷を運ぶ過程で、さまざまなトラブルが出来。積み荷の正体は?そして依頼人は何者なのか?

信楽(しがらき)郵政大臣や、水無川(みながわ)事務次官と、省庁トップレベルのキャラクター登場して、ハチャメチャな特配課が存在を許されている理由が次第に明らかになってくる。

本書が刊行されたのは1999年なので、まだこの時点で、郵政省は民営化されていない。ただ省庁再編の動きは強まっていて、行政改革の波が各方面に及ぼうとしていた時代だった。それだけに、こういう話もありなのかな。

死の赤い香り

ライバルの大東運輸に取られた仕事。しかし、突然の大雪で交通網は麻痺。ここで特配課の秘密兵器が姿を現すことになる。積み荷に秘められた真の秘密。緊急事態に至っての官民共同での配達作業は実を結ぶのか?

JRが旅客輸送をしていない、深夜帯にだけ稼働する郵便専用新幹線が登場。「〒」マークのついてる新幹線とか、実際に存在したらマニア垂涎の存在だろうなあ。積み荷は、実は流行し始めた伝染病ポンティアック熱の特効薬。いがみあっていた郵政省と大東運輸が、最後には手を握り共闘して決死の配達を続ける展開は、王道ながら胸が熱くなる。

いつもは喧嘩ばかりしているのに、実はお互いに意識しあっている。鳳一と美鳥の関係性も、ラストでちょっとだけ進展。続きは次巻に!といったところだろうか。

『こちら、郵政省特別配達課!2』

続いてシリーズ二冊目。こちらは2001年刊行。1999年に刊行された『こちら郵政省特配課』の続編。最初に刊行されたソノラマ文庫版でのタイトルは『追伸・こちら特別配達課』だった。

2005年のソノラマノベルス版で『こちら郵政省特配課』と合本化された事情は、冒頭に述べた通り。

2014年には新潮文庫NEX版が登場。再度分冊されてタイトルは『こちら、郵政省特別配達課!2』となった。新潮文庫NEX版では、特別編の「暁のリエゾン」が追加収録されている。

こちら、郵政省特別配達課(2) (新潮文庫nex)

『追伸・こちら特別配達課』あらすじ

あの特配課が帰ってきた。過剰な配達設備で迅速丁寧な配達業務に邁進する彼らに危機が訪れる。郵政省が無くなり、新たに郵政事業庁の長官となった水無川統一は機械化を促進することで郵便業務の省力化を計ろうとしていた。行革の波に晒された特配課は最新システムG-NETとの対決を余儀なくされる。圧倒的に不利な状況の中で彼らが最後に選んだ道とは……。

郵政省がなくなってしまうとは!

物語世界よりも、よもや現実世界の方が進行が早くなってしまうとは。郵政省は無くなって、日本郵政公社だし(刊行当時)、更なる組織改革をするとかしないとか揉めている最中。目の付け所としては慧眼と呼ぶべきなのだろうが、書きにくかっただろうな、この話。こんな地味なネタで続編を書かせてくれるソノラマも偉かったなあ。

以下、各編ごとにコメント

エスケープは配達で

郵政省改め、郵政事業庁の傘下となった特配課。長官となった水無川統一は、無人の高速配達システムG-NETを切り札に、現場の合理化、人員の削減を進めようとしていた。金のかかる特配課はもう必要ない。特配休止命令が出る中、鳳一たちが選んだ道とは?

まさかの箱根街道バトル編。走り屋の舞島(まいじま)ちはるが操るロードスターVS桜田美鳥のカウンタック。思いっきり脱線しているように見せて、ちゃんとその後の本編の進展にも貢献しているという筋立てはさすが。

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現場を追われ、鳳一の実家にまで撤退を強いられた特配課。それでもG-NETに対抗すべく、配達魂をかけての挑戦が続く。民間企業との提携。白ナンバートラックのドライバーたちとの共闘。まさかの劣勢を強いられたG-NET側は、更に布石を打ってくるのだが……。

本作で描かれるG-NETは、高速道路網に間借りとした無人高速配達システム。高速道路に沿って、郵便物が通る程度の細い運搬システムを通す。その中を高速で郵便物が通る仕組み。スピードは申し分ないものの、人の手を経ない輸送は粗雑で様々な問題を孕んでいるという設定。

郵便は人の手で届けられるべきもの。そう信じる特配課メンバーの配達魂が燃える。とはいえ、それなら別に国がやらないで民間に託してもいいんじゃないという視点があるのも事実。このあたり、公務員としての主人公たちの葛藤が良い。

京の赤い流星

G-NETに対抗すべく、政界の大立者、多加良の力を借りようと、京都を訪れた鳳一たち。水無川配下の灘(なだ)竜也と出くわしたことで、二人は、郵便配達で競うことになる。京都を舞台とした配達合戦で、鳳一は勝利することが出来るのか。

通りの名前?東入ル、西入ル、上ル、下ルって何?と、部外者には何がなんだかよくわからない、きわめて特殊な京都ならでは郵便事情が面白い。

こちらの記事を読むとわかりやすいかな。

白き便り来る峰

郵政民営化を食い止めたい。G-NETを強引に推し進めようとする水無川の次の狙いは、首都移転計画。しかし、水無川を載せたヘリが冬の北アルプスで墜落。折悪しく、現地の救助隊は全てが出払っており、特配課に救助の任が下る。仇敵を救うべく、鳳一と美鳥は立ち上がるのだが……。

最終エピソード。いくらなんでも登山未経験者が、冬の北アルプスに挑んじゃだめでしょ。郵便配達員に人命救助させるのもどうなのよ。作者も、さすがにこれは無理があると思ったのが「本書一番のフィクション」と、あとがきで記している。

「時間をかけて歩かなければ本当の成功にはたどり着くことはできない」という、この物語のテーマっぽい部分にたどり着くためには、このエピソードが必要だったのだとは思うけど。自分でものを届ける喜び、物を届けることの意味を噛み締めながらも、配達を郵政だけにこだわることは自らのエゴだと気づいていく展開は、上手くまとめた印象。主人公カップルもようやく進展しそうだしね。

暁のリエゾン

2011年3月。三陸海岸。ただ一人残された、12歳の早水津鷹野(さみずたかの)は絶望の中にあった。生きる気力もなく立ちすくむ彼の前に、一組の男女が現れる。それは災害ボランティアとして派遣された八橋鳳一と桜田美鳥の姿だった。

新潮文庫NEX版のみに収録されている、追加エピソード。舞台は2011年3月、東日本大震災直後の三陸海岸、架空の自治体である九間崎(くまざき)。既に特配課は解体されており、ボランティアとして志願した鳳一と美鳥が現地を訪れる設定。既に二人は三十歳を超えていると思われるが、まだ結婚してないのね。

ソノラマ文庫時代の小川一水だったら書けなかったし、書かなかったと思われる、デリケートな題材を扱った作品。被災者の内面に踏み込み過ぎない。それでも静かに見守る。大人になった鳳一と美鳥の姿が見られるのは嬉しい。

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