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『掘割で笑う女 浪人左門あやかし指南』輪渡颯介 怪談仕立てのミステリ、第38回メフィスト賞作品

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メフィスト賞初の時代小説

2008年刊行。第38回メフィスト賞受賞作。メフィスト賞としては初の時代小説である。

掘割で笑う女 浪人左門あやかし指南 (講談社ノベルス)

2010年に文庫版が刊行されている。

筆者の輪渡颯介は1972年生まれ。当初は「わわたりそうすけ」と読んでいたが、その後「わたり そうすけ」に読みを変えている。言いにくかったのか?それとも姓名判断的に不味かったのか?

いずれにしても、五十音順にした時に絶対最後になりそうなペンネームだよね、というかそれを狙ってたのかな?

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

怪談がお好きな方。時代小説ファン。江戸時代を舞台としたミステリ作品に興味がある方。ちょっと毛色の変わったミステリを読んでみたい方。メフィスト賞作品に関心がある方におススメ。

あらすじ

とある城下町で出現する女幽霊。掘割に出るその幽霊を見た者には必ず死が訪れるのだと云う。龍神沼の動く死体。商家に現れた後ろに立つ女。鶴北寺の裏山に出る上半身だけの女。相次ぐ幽霊騒ぎの中、次席家老の檜山織部が何者かによって暗殺される。殺害現場は奇しくも、件の掘割の傍だった。大の幽霊嫌い、臆病者の甚十郎は怪談好きの浪人平松左門と謎を解く羽目に陥るのだが。

ここからネタバレ

怪談パートがかなり怖い

見た人間は死ぬと噂される女の幽霊。とある藩の城下町で起きた怪異と、お家騒動にまつわる謎。冒頭から怪談四発。「耳袋」風味のこれがけっこう怖い。怪談の雰囲気作りは上手い。が、その反面で時代小説としての雰囲気作りはまだまだ。時代モノは習慣や言葉、歴史的考証の約束事が多いから、やはり書くのが大変だ。資料を見て書いていますよってのが、透けてみるのは要改善ポイントだろう。

江戸時代で無ければ成立しないミステリになっている

木を隠すなら森に。人殺しを隠すなら怪談の中に。その発想は面白い。虚実入り乱れ、どれが真実なのか判らなくなる。超自然的現象を巧みに取り入れながら、現実的解法も示して見せる。ちゃんと江戸時代で無ければ成立しないミステリにしているところが偉い。周到に張り巡らされた伏線がきれいに回収される鮮やかさは、これがデビュー作とは思えない出来。最後に平仄がピタリと合う面白さを堪能した。

2019年現在も作家として健在

なお、本作から始まる「浪人左門あやかし指南」シリーズは第4作まで。その後、得意な怪談噺を活かした、「古道具屋 皆塵堂」シリーズ、「溝猫長屋祠之怪」シリーズ、「怪談飯屋古狸」を上梓。消えてしまうメフィスト賞作家も多い中で、しっかり生き残っている模様。

時代小説を書ける作家は、常に供給不足だと言うし、けっこう重宝されているのかもしれないね。

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