北川恵海のデビュー作
2015年刊行作品。作者の北川恵海(きたがわえみ)は1981年生まれ。本作が第21回電撃大賞の電撃小説大賞部門〈メディアワークス文庫賞〉を受賞し、作家デビューを果たしている。マイナビの記事によると2019年1月の時点で70万部!の大ベストセラー作品となっている。凄い!
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★(最大★5つ)
仕事や人間関係に疲れたなと思った時に。ちょっと心がザワザワした時に。会社辞めようかなと思って、背中を押して欲しいと思った時に。心が清々しくなる小説を読みたいなと思った時におススメ。
あらすじ
毎日繰り返されるパワハラ。劣悪な職場環境。疲弊し絶望した青山隆は、吸い込まれるように駅のホームに身を投げ出そうとする。しかし、ギリギリのところで「ヤマモト」と名乗る男に命を救われる。小学校の同級生だと男は言うが、隆には身に覚えがない。誘われるままに「ヤマモト」と飲みに行った隆だったが、それは人生の大切な分岐点だった。
シンプルだけど熱い!
200頁少々の分量。空行や余白部分も多いので、普通の文庫の感覚ならもっと短いだろう。ストーリーは至ってシンプルで、直球勝負。という剛速球しか投げてこない。サクッと読めてしまうが、その分、作品のメッセージがストレートに伝わってくる熱量のある物語である。全ての仕事や、生活に疲れた人たちに読んでいただきたい一作。
ココからネタバレ
全ての人に「ヤマモト」が居てくれますように
主人公を助ける「ヤマモト」は、とにかく陽気で明るく、抜群のコミュニケーション能力を持つ。負のオーラを漂わせて生きてきた主人公、青山隆にとっては、真逆のようなキャラクターである。
「ヤマモト」はどん底に落ちて自分が見えなくなっている隆に対して、視野を広げてくれる、選択肢は他にもあるんだよと示してくれる。暖かな目線で、客観的なアドバイスを送ってくれる人間は貴重である。
辛いとき、苦しいとき、楽しいことをして過ごせる、別の世界を持っておくことはホントに大事。自分の近くにも「ヤマモト」が居てくれたらと願う人間は多いのではないだろうか。
あなたも誰かの「ヤマモト」になれる
そして『ちょっと今から仕事やめてくる』は「ヤマモト」の物語でもある。「ヤマモト」は双子の兄弟を、自殺で失っている。取り返しのつかない悔恨の中、彼は自分にしかできないことを見つけていく。本作では、「ヤマモト」の内面はほとんど描かれないが、彼が「ヤマモト」になるまでの苦悩は相当に深かった筈である。
深い苦悩の中に居た人間、地獄を味わった人間だからこそできることがある。そして今度は「ヤマモト」に救われた隆が、別の誰かの心を救っていく。隆ももう一人の「ヤマモト」になることで、想いの連鎖は繋がっていくのである。
なお続篇の『ちょっと今から人生かえてくる』も刊行されているので、いずれ読んでみるつもり。
映画版は工藤阿須加と福士蒼汰が出演
本作は2017年に映画化されている。監督は成島出。キャストは以下の通り。
ヤマモト:福士蒼汰
青山隆:工藤阿須加
五十嵐美紀:黒木華
大場玲子:小池栄子
山上守:吉田鋼太郎
青山容子:森口瑤子
青山晴彦:池田成志
役者の格からなのか福士蒼汰の映画になってるっぽい?そして五十嵐先輩が、黒木華になっている!女性の少ない作品だから、性別を変えられちゃったかな。吉田鋼太郎のブラック上司は、ホントに居たらガチで病みそう。
Amazon Primeビデオ対象作品なので、Prime会員は無料で見られる。後で見てみよっと。
Audible版もあった!
Audible(オーディブル)は、Amazon系列のオーディオブックサービス。文字ではなくて音で聞く読書体験が得られる。
Audible版『ちょっと今から仕事やめてくる』の語り手は三宅貴大が務めている。無料トライアルもやっているので興味がある方はどうぞ。