ネコショカ

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江戸時代に空を飛んだ男、鳥人幸吉の一代記『始祖鳥記』


江戸時代に空を飛んだ男がいた

2000年刊行作品。飯嶋和一(かずいち)としては、四作目の作品。

始祖鳥記

2002年に小学館文庫より文庫版がリリースされている。

始祖鳥記 (小学館文庫)

始祖鳥記 (小学館文庫)

 

飯嶋和一は数少ない、わたしがハードカバーの新刊をデフォルト買いする作家である。この作家にはハズレなしなのである。

ただ、数年に1冊という昨今の作家にしては信じられないローペースでしか作品が出ない為、購入してからももったいなくてなかなか読めないのが難点。ちなみに本作は、前作の『神無き月十番目の夜』より三年ぶりの新刊であった。

あらすじ

度重なる天候不順。空前の大凶作。貧困と飢餓に人々の心が暗闇に覆われていた江戸時代天明期。そんな時代に、飛ぶことに憑かれ、ただひたすら空を目指した男がいた。人々は彼を鳥人幸吉と呼んだ。そのひたむきな姿、鮮烈な生き様は各地に語り伝えられ、多くの人々に生きる勇気を与えていく。

読み終えたくない物語がある

魅力的な物語には、先を知りたくて次から次へとページを繰らずにはいられないタイプの作品と、その世界が閉じられてしまうのが惜しくて読み終えたくないと思ってしまうタイプの作品と両方があると思うのだが、この作品はあきらかに後者に属している。読みながら無意識のうちに左手で残りのページの厚みを確認してしまうのである。

緻密に構築された骨太な世界観

いつもながら史書に残された僅かばかりの歴史的事柄から、豊穣な物語世界を作り上げ、骨太な物語を紡ぎあげるその手腕には感服させられる。丁寧な取材による緻密な時代描写も圧巻で、表具匠の仕事から、江戸時代の海運業、塩の流通の実情に至るまで、積みあげられたディティールの確かさにも脱帽なのだ。

空を飛んだ男、幸吉を軸に男たちの物語が展開されていくのだが、第二部では物語の軸が巴屋伊兵衛編に切り替わってしまい、かと思うと第三部で再度幸吉中心の展開に戻るなど、どちらも若干中途半端に終ってしまった感がある。視点が落ち着かないところが、いささか気になるのだけれど、この作品にとっては僅かな瑕疵だと言い切ってしまおう。熱い男たちの物語を堪能したい方にはおススメの一冊である。

ともあれ前作『神無き月十番目の夜』があまりに哀しい物語だっただけに、本作の力強い人間賛歌ぶりには、ホッとさせられた記憶がある。自分自身も励まされるところ大なのであった。

始祖鳥記

始祖鳥記