ネコショカ

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夏に読みたい京極夏彦の「妖怪えほん」全五作


夏になると読みたくなるの怪談噺である。怪談とは少し違うかもしれないが、本日ご紹介するのは、「京極夏彦の妖怪えほん」シリーズの全五作である。

「京極夏彦の妖怪えほん」って?

「京極夏彦の妖怪えほん」は、2013年から2015年にかけて岩崎書店から刊行された一連の作品群である。全五冊。全体のコンセプトやテキスト部分は京極夏彦が担当するが、絵本の描き手は五冊で全て異なる。更に、監修として怪談ジャンルに精通した東雅夫が入っている。

京極夏彦の妖怪えほん(全5)

岩崎書店からは「妖怪えほん」以前に、2011年からスタートした「怪談えほん」シリーズが刊行されている(現在三期が刊行中)。こちらは宮部みゆき、皆川博子、綾辻行人、小野不由美、恩田陸など錚々たるメンバーを書き手として揃えた豪華シリーズである。この中のラインナップとして、京極夏彦も『いるのいないの』を2012年に上梓している。

怪談えほん (3) いるの いないの (怪談えほん3)

怪談えほん (3) いるの いないの (怪談えほん3)

 

今回紹介する「妖怪えほん」は「怪談えほん」からの派生、もしくはスピンアウト的な企画と考えることが出来るだろう。

「京極夏彦の妖怪えほん」全五作を紹介

それでは、「京極夏彦の妖怪えほん」全五作を刊行順に紹介していこう。このシリーズでは、各作品に副次的な要素として「悲」「楽」「怖」「笑」「妖」の五つの要素が、それぞれ割り振られている。そのため先行する「怪談えほん」が、もっぱら恐怖を中心とした作品構成であったのに対して、「妖怪えほん」は笑いや楽しさ、悲しみなど、幅の広いテーマを網羅した作品群となっている。

 

「うぶめ」作品紹介

2013年刊行作品。「妖怪えほん」のラインナップでは「悲」を割り当てられている。

 

うぶめ (京極夏彦の妖怪えほん)

「うぶめ」の挿画は井上洋介

絵は大ベテランの井上洋介が担当。井上洋介は1931年生まれの絵本作家であり挿画家。『ぶんぶくちゃがま』『でんしゃえほん』『月夜のじどうしゃ』など多数の作品を世に出しており、挿画家としての実績では『くまの子ウーフ』が特に名高いだろう。本作刊行の三年後、2016年に他界されている。

「うぶめ」ネタバレ感想

「うぶめ」とは「姑獲鳥」「産女」であり、むろん京極夏彦のあまりに衝撃的なデビュー作『姑獲鳥の夏』に連なる作品と捉えることが出来る。

産褥によって亡くなった母親を想う、残された子供の視点視点から描かれる物語である。母親のくやしさ、無念、残された父と子の哀しみがとりわけ胸に残る一作である。

『姑獲鳥の夏』同様に、中国系の妖怪である「姑獲鳥」が、日本古来の妖怪である「産女」と習合しているのではないかと思われる描写も取り込まれており、僅かなページ数ながら密度の高い作品に仕上がっている。

うぶめ (京極夏彦の妖怪えほん)

うぶめ (京極夏彦の妖怪えほん)

 

「つくもがみ」作品紹介

2013年刊行作品。「妖怪えほん」のラインナップでは「楽」を割り当てられている。

つくもがみ (京極夏彦の妖怪えほん)

「つくもがみ」の挿画は城芽ハヤト

本作の絵は城芽ハヤトが担当している。城芽ハヤトは1955年生まれのイラストレータ。挿画や商業イラスト等の分野で、幅広く活躍されている作家だが、ミステリファン的には島田荘司の『完全改訂総ルビ版"漱石と倫敦ミイラ殺人事件"』のイラストが、比較的なじみ深いところだろうか。

「つくもがみ」ネタバレ感想

「つくもがみ」とは「付喪神」であり、長い年月をかけて使われてきた道具には魂が宿るとされる。

古い日本家屋に住む少年と、祖父の視点を通じて描かれる物語である。時代背景的には

1970年代くらいの暮らしになるのだろうか(野球盤で遊んでいる描写がある)。丁寧に書き込まれた背景のそこかしこに、昔ながらの「もの」が潜んでおり、眺めているだけでも楽しい。

百年使われた道具たちはやがて意思を持ち踊り出す。慌てふためく少年と祖父の表情の豊かさ。百年の思い出を解き放ち踊り狂う道具たちの、溢れんばかりの喜びが躍動感たっぷりに描かれた一作である。特にノリノリのおじいちゃんがカワイイ。こういう爺になりたいものである。

つくもがみ (京極夏彦の妖怪えほん)

つくもがみ (京極夏彦の妖怪えほん)

 

「あずきとぎ」作品紹介

2015年刊行作品。「妖怪えほん」のラインナップでは「怖」を割り当てられている。

京極夏彦の妖怪えほん (3) あずきとぎ (京極夏彦の妖怪えほん3)

「つくもがみ」の挿画は町田尚子

絵は町田尚子が担当している。町田尚子は1968年生まれの画家、イラストレータ。挿画としては『ペギー・スー』が特に知られているところだろうか。「妖怪えほん」シリーズの前身である「怪談えほん」で京極夏彦が担当した『いるのいないの』の絵を描いたのも町田尚子である。連続して起用されていることもあり、京極夏彦的には特に信頼の持てる描き手なのかもしれない。

「あずきとぎ」ネタバレ感想

「あずきとぎ」は「小豆とぎ」であり、別名「小豆洗い」。川に出る怪異である。日本各地に伝承が残るが、本作では子どもを川に引きずり込んで殺してしまう妖怪として描かれる。

夏休みに田舎の祖父の家で過ごすことになった少年の物語である。極限までに削ぎ落とされたテキスト、雄弁に書き込まれた田舎の風景。そして「しょきしょきしょきしょき」と聞こえる不思議な音。

本作の怖ろしいところは、最後まで肝心のあずきとぎが登場しない点であろう。怪異が登場する瞬間はあえて省略されており、悲劇的な結末だけが描かれる。描かないことで、最大の恐怖を表現することに成功しているのである。乱舞するウスバカゲロウと、もの悲しげな犬の表情が、残酷な物語の幕引きに静かな余韻を添えている。

ちなみに、本筋には全く関わらないが、画面の各所にネコが描かれていて、探してみるのが結構楽しい。

京極夏彦の妖怪えほん (3) あずきとぎ (京極夏彦の妖怪えほん3)

京極夏彦の妖怪えほん (3) あずきとぎ (京極夏彦の妖怪えほん3)

 

「とうふこぞう」作品紹介

2015年刊行作品。「妖怪えほん」のラインナップでは「笑」を割り当てられている。

京極夏彦の妖怪えほん (4) とうふこぞう (京極夏彦の妖怪えほん4)

「とうふこぞう」の挿画は石黒亜矢子

本作の絵は石黒亜矢子が担当している。石黒亜矢子は1971年生まれのイラストレータ、絵本作家。作品として『平成物の怪図録』『おおきなねことちいさなねこ』などがある。特徴的なねこの絵柄は、ご覧になったことがある方も多いのではないだろうか。

京極夏彦の『豆腐小僧』シリーズでは、以前よりイラストを担当しており、「とうふこぞう」を描くのであればこの人しかいないということなのだろう。

「とうふこぞう」ネタバレ感想

「とうふこぞう」は「豆腐小僧」である。豆腐を供する童子の姿として登場するが、特に害をなすわけでもない、日本妖怪界のゆるキャラとも言える存在である。

本作は少年の視点から見た、夜の恐怖とその解放の物語である。

子ども時代、夜は恐怖ではなかっただろうか。あらゆる闇に何かが潜んでいるかに見える、隙間が怖い、壁や天井のシミが化物に見える。その多くは自身の恐怖心が生み出した幻想であるのだが、子どもの想像力はいつしか自らを恐怖で縛り上げてしまう。

そんな極限の恐怖に追い詰められたところで登場するのが「とうふこぞう」である。緊張から、一気に脱力、そして笑いへと転じる作品の構成、石黒亜矢子の画力の賜物であろう。「こわくないおばけ」も居るのだということは、多くの子どもたちにとって救いになるのかもしれない。

なお、少年と一緒に寝てくれる白黒のみっしりした猫が超カワイイ。

京極夏彦の妖怪えほん (4) とうふこぞう (京極夏彦の妖怪えほん4)

京極夏彦の妖怪えほん (4) とうふこぞう (京極夏彦の妖怪えほん4)

 

「ことりぞ」作品紹介

2015年刊行作品。シリーズ最終巻である。「妖怪えほん」のラインナップでは「妖」を割り当てられている。

京極夏彦の妖怪えほん (5) ことりぞ (京極夏彦の妖怪えほん5)

 「ことりぞ」の挿画は山科理絵

絵は山科理絵が担当している。山科理絵は1977年生まれの絵師。挿画家としては東雅夫編による、文豪ノ怪談ジュニア・セレクション『夢』や、『私は幽霊を見た 現代怪談実話傑作選』などでの実績がある。

「ことりぞ」ネタバレ感想

「ことりぞ」は「子取りぞ」であり、夕暮れ時に子どもをさらう怪異である。子どもの神隠しにまつわる現象は、日本各地にさまざまな名を持つ妖怪として伝承が残されている。本作では「隠す神」にまつわる怪異が描かれる。

本作は幼い少女の視点から見た、「ことりぞ」の妖しさ、恐怖を描いた物語である。

祖母の部屋、古びた御堂、お墓の奥にある無数のお地蔵さん、大きな木、廃屋、家と家の細い隙間、そこには何かが潜んでいるのではないか。誰もいない夕暮れ時、ひとり歩く少女が感じる何者かの気配。

丹念に書き込まれた古き良き日本の風景の中に潜む妖(あやかし)の眷属。昼と夜の間に一瞬だけ存在する黄昏の世界の光と陰が美しい。

ちなみに、黒い子猫が、いざという時に役に立たないところも含めて、超カワイイ。

京極夏彦の妖怪えほん (5) ことりぞ (京極夏彦の妖怪えほん5)

京極夏彦の妖怪えほん (5) ことりぞ (京極夏彦の妖怪えほん5)

 

京極夏彦の「妖怪えほん」まとめ

以上、京極夏彦の「妖怪えほん」シリーズ全五作をご紹介した。

本シリーズは怖い話ばかりでなく、楽しさ、笑い、そして悲しさや妖しさまでもが描かれた、バラエティに富んだ作品集となっている。それぞれに程度の差はあるものの、教訓的な要素が含まれており、子どもたちと共に読むことで、一定の学びを得ることできる。そして、絵本というと、どうしても子ども向けの物と考えてしまいがちだが、本シリーズはむしろ大人の読者をターゲットして想定しているのではないかと思われる。

絵本という特性上、京極夏彦のテキストは単独で書かれる小説の時とは異なり、限りなく表現を抑えた、研ぎ澄まされた分量に抑えられている。それは、独自の個性を持った五人の描き手の濃密な世界観と一体となった時に、最大限の効果を発揮するようにしっかりと計算されたものなのだろう。新しい京極夏彦の魅力を堪能できるシリーズと言える。

なお、京極夏彦の「妖怪えほん」は五冊セットで購入すると特製のケースが付いてくるようなので、ファンの方であればこちらの方が断然おススメである。

京極夏彦の妖怪えほん(全5)

京極夏彦の妖怪えほん(全5)

  • 作者: 京極夏彦,東雅夫,井上洋介,城芽ハヤト,町田尚子,石黒亜矢子,山科理絵
  • 出版社/メーカー: 岩崎書店
  • 発売日: 2015/03/02
  • メディア: 大型本
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