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『永遠の出口』森絵都 多感な十代の少女の日々を描く

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「永遠」に惹かれた少女時代を描く

2003年刊行作品。集英社の小説誌『小説すばる』に、1999年~2002年にかけて掲載されていた作品をまとめたもの。

永遠の出口

集英社文庫版は2006年に登場している。

永遠の出口 (集英社文庫(日本))

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★★(最大★5つ)

作者(1968年生まれ)と世代が近い方。小学校時代たのきんトリオにハマっていた方。小学生時代が1970年代だった方。ちかごろ生活に疲れて来たなと思っている方。読むと元気になれる作品を探している方におススメ!

あらすじ

少女時代、「永遠」という言葉に無性に惹かれたわたし。お誕生日会。嫌なクラス担任。ほのかな初恋とあっけない幕切れ。なじめない部活動。無断外泊、そして万引き。奇妙な家族旅行と両親の不和。レストランでのアルバイト。気持ちがすれ違う初めての彼氏。小学生から、中学、そして高校へと駆け抜けていく多感な十代の少女の日々を描く。

ココからネタバレ

初の大人向け作品

これまでは児童文学の書き手として知られていた森絵都が、はじめて書いた大人向けの小説作品。小学五年生であった十歳の頃から高校卒業まで。主人公紀子の十代の日々を一年ごとに一編ずつ綴っていく連作短編形式。『つきのふね』『DIVE!!』と読んできて、決して悪くは無いんだけど、自分の好みじゃないかなと思っていたのだけど、本作は違った。今のところ、この話が一番好きだな。

小学校時代のエピソードがいい

小学校の頃の話って、何故にしてここまでザクザク心に刺さってくるのだろう。つかみの第一章はこんなあらすじだ。友人の好恵はひょうきんで明るいクラスの人気者女子なのだけど、親が誕生日会をやらない教育方針。誕生日に友人たちを家に呼んでおきながら何のもてなしも出来なかった好恵に対して、主人公のグループは復讐のため、自分たちの誕生会には好恵を呼ばないことを誓い合う。そして、グループ内で最初に誕生日を迎えるのは主人公だった。なんという切なさ炸裂な設定。まずこのエピソードで一気この物語の世界に持って行かれた。

1970年代に小学生だった人向け

作者と年代が被るので、たのきんトリオとか、サンリオネタとか、登場する時事ネタがことごとく自分にシンクロしてくるので余計に感情移入出来てしまったのかもしれない。偶然とはいえ、家族旅行の行き先(別府)まで一緒なんだぜ。

携帯が無いあの時代、好きな女の子の家に電話をかけることがどれほどの一大事だったかも、今の子たちは理解出来ないだろうなあ。1960年代後半から1970年代前半に生まれた世代に一番ジャストミートする作品だと思う。って、書いてしまうと問題があるか。

時代の流行や、アイテムは違えど、どの世代の読み手にもシンパシーを持って受け止めて貰える普遍的な内容となっているので、書店で見かけたら是非手にとって欲しいもの。

ちょっと疲れてきている人に読んで欲しい

エピローグ(大人になった自分目線)の元気さにハッとさせられる。過去へ向けるいとおしいまなざしと、今を生き抜く図太さ。祈りにも似た、同世代人へのエールに、思わず落涙しそうになった。子供の頃に思い描いた大人にはなれなかったかもしれないけど、それでもまだ前に進める。燃料も尽きてない。たとえ燃料が尽きても、どこかで補充して躓いても笑っていられますように。自分のヒットポイントの上限値が最近減り気味だなと思った人に是非とも読んで貰いたい一冊。

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