三津田信三のサ行シリーズ
2007年刊行。わたし的には本作がファースト三津田信三作品だった。
三津田信三は2001年にデビュー。作家本人と同姓同名の三津田信三が登場するシリーズと、作家刀城言耶が活躍するシリーズ、そして探偵の弦矢俊一郎が活躍する死相学探偵シリーズ等が著作の過半を占めているが、本作はそのいずれにも該当しない。
wikipediaを見ると『シェルター 終末の殺人』と共に、サ行シリーズに分類されている。
ちなみに作者曰く、講談社文庫から出ている三津田作品中、重版がかかっていないのは、本作と『シェルター 終末の殺人』だけらしい(笑)。三津田作品の中では、とりわけ影の薄い一作と言える。
『厭魅の如き憑くもの』と『作者不詳(下)』(講談社文庫)の重版が決まりました。前者は14刷、後者は3刷です。ちなみに同文庫で重版が掛かっていないのは『シェルター 終末の殺人』と『スラッシャー 廃園の殺人』だけかもしれない。道理で続きを書かせてくれないわけです(爆 pic.twitter.com/gtb2EMslok
— 三津田信三 (@shinsangenya) October 24, 2018
講談社文庫版は2012年に登場している。
あらすじ
狂気のホラー作家廻数回一藍が残した廃墟庭園<魔庭>。しかし作家は奇怪な状況の中で失踪を遂げてしまい、興味本位で忍び込んだ学生カップルは惨殺体となって発見される。そして数年後。この地へ怪奇ビデオ撮影のために訪れた一行を悪夢が襲う。際限の無い悪意が凝縮された庭内。解き放たれた殺人鬼。犯人の目的は何なのか。最後に残された者が知る戦慄の真相とは。
「スラッシャーモノ」の世界
ホラー映画を全く見ないので恥ずかしながら知らなかったのだが、ホラー映画の世界には「スラッシャーモノ」というジャンルが存在するらしい。謎の殺人鬼によって登場人物が一人ずつ順番に殺害されていくスタイルを指す。
そんなのミステリの世界でも沢山あるじゃんと言いたくなるが、ミステリのそれが犯人特定、殺害方法、殺害理由などに論理的な解法が求められ、犯人捜しが物語の主体となるのに対して、ホラーの世界ではいかにして残虐な形で登場人物を殺害するかに重きが置かれ、必ずしも論理的な解法は必要とされない。『13日の金曜日』が判りやすい例だろうか。
本書は狂気の作家が残した廃墟庭園に乗り込んだ撮影班が、殺人鬼によってギッタギッタに殺されていくホラーミステリーとなっている。グロ描写NGな人は避けた方が賢明。
ホラーに見せかけてミステリ
露骨に怪しい説明口調の台詞が連続したり、稚拙としか思えない表現が頻出したりと、そりゃあんた叙述トリック疑って下さいと言わんばかりでしょうと。ホラー作品のように見せながらも、ミステリとしての仕掛けはきっちりと仕込んであるのは悪くない。「映画撮影」という観点からの仕掛けも評価すべきだとは思うけど、いかんせん仕掛けの文章が明快過ぎて少々物足りない。
なお、凄惨な死亡シーンが頻出する本作だが、殺害描写は意外にマイルド。おかげで内容のわりにはあっさり読めてしまう。これで綾辻行人の『殺人鬼』レベルのぐちょぐちょな描写がなされていたら、かなりトラウマを残す作品になっていたかもしれない。この辺は好き好きかな。