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『誰か Somebody』宮部みゆき 「杉村三郎シリーズ」の一作目

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「杉村三郎シリーズ」はこの作品から

2003年刊行作品。その後シリーズ化される「杉村三郎シリーズ」の最初の作品である。

最初の単行本版は実業之日本社から。

誰か ----Somebody

誰か ----Somebody

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続いてノベルス版は光文社から2005年に登場。

そして何故か文庫版は光文社からは出ないで、文春文庫から2007年に出ている。

誰か―Somebody (文春文庫)

ちなみに、本シリーズ第二作の『名もなき毒』では幻冬舎(単行本)→光文社(ノベルス)→文春(文庫)、第三作の『ペテロの葬列』では、集英社(単行本)→文春(文庫)と、いずれも別の版元から刊行されており、ちょっと面白い。なにかの協定でもあるのだろうか。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

人間関係の「影」の部分を見つめなおしてみたい方。人の心の中の「毒」について考えてみたいと思っている方。宮部みゆきの「杉村三郎シリーズ」を最初からキチンと読んでおきたいと思っている方におススメ。

あらすじ

今多コンツェルン会長今多義親の専属運転手梶田信夫が事故死する。自転車との接触によるものだったが依然犯人は不明。遺された梶田の娘二人は、父の無念を晴らすべく、今多に相談を持ちかける。今多は、義理の息子である広報部の杉村三郎にこの件を委ねる。杉村は事件を調べていくうちに、梶田の過去にまつわるとある秘密にたどりつく。

ココからネタバレ

逆玉には乗れたけど

主人公の妻は、大企業今多コンツェルンの会長義規が、かつて愛人に産ませた子。彼女と結婚するために、彼は絵本編集者の職を捨て、会長直下の閑職で半ば飼い殺されながら生きることを決意する。というのが、本編以前の基本設定。本来であればごくごく普通の人間の彼なのだけれども、分不相応な妻を娶るために、少し背伸びをして無理をしながら生きている。

宮部作品らしい「毒」はもちろん健在

この主人公に限らないけど、宮部作品はキャラクターの作り込みがホントに巧くて惚れ惚れする。特に奇を衒った設定を用意するわけではなく、ごく普通の人間をちょっとだけ特殊な環境に放り込んでみて、その結果として生じてくる歪みを浮き彫りにしていく手腕が職人芸なんだよなあ。

単なるハートウォーミングな人情話かと思わせておいて、やっぱり宮部作品なりの「毒」は健在。この苦い結末は賛否両論別れそうだ。大作では無い、地味な長編でここまで読み手を惹き付けるのだから凄い。

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