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『飛蝗の農場』 ジェレミー・ドロンフィールド 2003年このミス海外部門第1位

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ジェレミー・ドロンフィールドのデビュー作

オリジナルの英国版は1998年刊行。日本での刊行は2002年となっている。「このミステリーがすごい!」2003年版海外部門で一位を獲得している作品である。

飛蝗の農場 (創元推理文庫)

作者のジェレミー・ドロンフィールドは1965年生まれのイギリス人。本作はCWA処女長編賞の候補作品にもなっている。本国では相応の数の作品を送り出しているようだが、邦訳されている作品は少なく、2005年刊行の『サルバドールの復活』があるのみである。テイスト的に日本人受けしないのかな。。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

『飛蝗の農場』 というタイトルが気になった方。「このミス」第一位の海外ミステリ作品を読んでみたい方。展開が全く読めない、どこに連れていかれるかわからないタイプの物語がお好きな方におススメ。

あらすじ

イギリス。ヨークシャーで農場を経営するキャロルの元に現れた一人の男。見るからにみすぼらしく怪しい風体に、動揺したキャロルは発砲、男に怪我を負わせてしまう。負傷した男はやがて意識を取り戻すが、それまでの記憶を全て無くしていることが判明する。やがて二人の奇妙な共同生活が始まるが、それは大いなる恐怖の始まりだった。

ここからネタバレ

逃亡者と追う男

荒野の農場で一人暮らしをするキャロルと、正体不明の流れ者スティーブン。二人のやりとりと平行して、スティーブンと思われる男のかつての逃避行の模様が交互に語られていく。名を変え、職を変え、住処を変え逃亡を続けるスティーブン。しかしどこに逃げても執拗に追いすがってくる正体不明の追跡者「汚水溝の渉猟者」。果てなき逃亡の日々は、遂には現時点でのキャロルとの生活にまでたどり着き、ラストのカタストロフへと雪崩れ込む。

予想のできない結末へ

妄想なのか現実なのか、一向に落ち着くことのない暗澹としたスティーブンの逃亡の日々が読者を惑わせる。やがてキャロルのトラウマとなっている、連続殺人事件との関連が明かされ、事件の概要が見え始めてくるのだが、最後の最後まで物語の着地点は見えない。どこに連れて行かれるかわからない、不安に終始つきまとわれながら、読み手は物語の思わぬ終着点へと誘われる。

自分的には「汚水溝の渉猟者」=スティーブンの脳内妄想だと思っていたのだが、まるで大ハズレ。この結末は意外だった。思いっきり後味の悪いエンディングだが、この話のトーンには相応しい幕の引き方なのではないだろうか。

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