光原百合の第三作
初出は「小説推理」。2002年刊行作品。このミス2003年版で国内6位にランクインしている。1998年の『時計を忘れて森へいこう』、2001年の『遠い約束』に続く、光原百合(みつはらゆり)の第三作品となる。
最初の双葉文庫版は2004年に登場。
2016年には双葉社より、文庫の新装版が刊行されており、現在読むならこちらの版になるだろう。
表題作にもなっている「十八の夏」は第55回日本推理作家協会賞を受賞している。
四編の作品が収録されているがそれぞれの話につながりは無い。唯一共通するのは、花をモチーフにした作品集だということだけ。ミステリ色はそれほど強くなく、恋愛小説として読んでも十分楽しめると思う。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★(最大★5つ)
心がほんわかするような、ハートフルな短編集を読んでみたい方。恋愛要素が多めのミステリ作品を読んでみたい方。光原百合作品に興味があって、いちど読んでみたいと思っていた方におススメ。
あらすじ
浪人生の三浦信也が出逢った年上の女性。オンボロアパートの上階に住む彼女に心惹かれていく信也。十八歳の時にしか体験出来ない切ない片想いを描いた表題作をはじめ、不器用な男の愚直なまでに一途な恋心を描く「兄貴の純情」。家族を全て失ったかつての教え子が心の奥底にしまいこんでいた秘密「イノセント・デイズ」。四編を収録した短編集。
ここからネタバレ
以下、各編ごとにコメント。
十八の夏
まずは表題作から。当初主人公の心理描写が一切なく、彼のストーカーじみた不自然すぎる行動に疑問符が一杯状態だったのだけれども最後まで読んでみて納得。丁寧に伏線もしっかり貼ってあった。日本推理作家協会賞も納得。前半の心理描写を省いた分、ややもすると恋愛モノとしてのインパクトが弱まってしまったのは残念。話の構造上仕方ないのだろうけど。
ささやかな奇跡
二作目「ささやかな奇跡」。薄幸を絵に描いたような女性が、細々とひとりで書店を切り回しているなんて設定は本読み男子のストライクゾーンを的確に抉りすぎ。オレだったら毎日通っちゃう。なんだか上手く行き過ぎて、ひねくれモノとしては受け入れたくないハートフルな展開だけどヒロインが素敵なのでオッケー。
兄貴の純情
三作目の「兄貴の純情」は自分的にはちょっと微妙。カラっと明るく笑えて、ちょっとだけしんみりさせてくれる内容。兄貴の人の性格付けがマンガ的というか、紋切り型に過ぎるというか類型的なキャラ設定で感情移入の妨げとなってしまった。オチも見えやすかった感がある。
イノセント・デイズ
四作目の「イノセント・デイズ」は唯一サスペンスタッチのシリアスな作品。他三編が比較的平和な内容だっただけに、ラストを引き締めるには丁度良かったかなと思える話だった。ミステリ色はこれが一番濃厚。殺されてしまった、不倫カップルの方がよっぽど好感が持てた自分は少数派だろうか??