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『タイム・リープ あしたはきのう』高畑京一郎 平成の名作が新装版で再文庫化!


平成の名作が復刊

作者の高畑京一郎(たかはたきょういちろう)は1967年生まれのライトノベル作家。第1回電撃ゲーム小説大賞の金賞を受賞した、1994年の『クリス・クロス 混沌の魔王』がデビュー作。電撃ゲーム小説大賞系の作品でありながら、いきなり文庫ではなく単行本で作品が刊行されたことで当時注目を集めた(同年の大賞受賞作『五霊闘士オーキ伝』は文庫でリリースされていたのに)。

『タイム・リープ あしたはきのう』は1995年刊行の、高畑京一郎の第二作である。『クリス・クロス』同様に、まずは単行本形態でリリースされた。それだけ、当時の電撃編集部が自信をもって世に送り出したということなのだろう。イラストは衣谷遊(きぬたにゆう)によるもの。

翌、1996年には電撃文庫版が登場した。文庫化に際して上下巻に分冊されている。分冊されているのに、表紙イラストが単行本からの使いまわしなのがちょっとショック。

本作はその名のとおり「タイムリープ」モノの名作、定番として一定の評価を保ち続けてきていたが、近年、入手困難な状況が続いていた。しかし、2022年になって、メディアワークス文庫にて「新装版」が登場し、四半世紀ぶりに再文庫化された。表紙イラストはジワタネホが担当している。また、巻末には「『タイム・リープ』の思い出」として、作者自身の回想録が新たに収録されている。

新装版 タイム・リープ〈上〉 あしたはきのう (メディアワークス文庫) 新装版 タイム・リープ〈下〉 あしたはきのう (メディアワークス文庫)

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★★(最大★5つ)

『時をかける少女』のような、時間をテーマとしたエスエフ作品に興味がある方。特に「タイムリープ」系がお好きな方。学園を舞台としたエスエフ作品がお好きな方。往年の名作ライトノベル作品を読んでみたいと思っていたかにおススメ!

ここからネタバレ

キャラクター名は『みゆき』から?

いきなり余談から入る。主人公カップルの姓から想像がついてしまうかもしれないが、本作のキャラクター名はあだち充の『みゆき』に準拠するものと思われる。

  • 『みゆき』の主人公:若松真人
  • 『みゆき』の主人公の彼女:鹿島みゆき

姓が『タイム・リープ』と一致している。『タイム・リープ』の若松和彦の妹の名前が「美幸」あること。他にも、『みゆき』の登場人物である「中田」「香坂」「村木」と同姓のキャラクターが多数登場することからも、ほぼ確定ではないかと思われる。

あらすじ

高校二年生の鹿島翔香(かしましょうか)は、ある日、前日の記憶がすっぽり抜け落ちていることに気付く。自分は意識だけが時間跳躍しているのではないか?クラスきっての秀才男子、若松和彦(わかまつかずひこ)の協力を得て、翔香は奇妙な「タイム・リープ 」現象の謎に迫っていく。彼らは「タイム・リープ 」に一定の法則性があることに気付くのだが……。

ロジカルに構築されたタイムリープの古典

タイムリープ、タイムトラベル、ループもの。時間をあつかった小説群にはさまざまな種類や特徴がある。『タイム・リープ』の特徴は以下の通り。

  • リープするのは「精神だけ」
  • 同一人物が同じ時間、同じ場所に存在する事象は発生しない
  • 主人公の意識の上で、同じ時間は繰り返されない
  • 未来の事象を想定した行動を取ってしまうと時間が「再構成される」
  • 予備知識がないままの行動なら時間は「再構成」されない

といった、あたりだろうか。同じ時間を繰り返すことはできないので、本作はいわゆる「ループモノ」とは異なる。失敗したらやりなおしがきかないことで、物語の緊張感を高めることに本作は成功している。

翔香自身に起きる「トラブル」はなんとしてでも回避しなくてはならない。しかし、「再構成」が発生すると未来は変わってしまう可能性がある。相反する要素のバランスを取りながら、いかにして一度しかない時間を確定させるか。これが本作のキモとなってくる。

随所にちりばめられた膨大な伏線の数々と、それを最後まで綺麗に拾って完結させる手腕がお見事。久しぶりに再読してみたけれど、その構成の巧みさには本当に唸らされる。

なお、翔香の「タイム・リープ 」の軌跡については、こちらのレビューが神レベルで細かに分析されているので、気になる方は参照のこと。複雑すぎる!

昭和のジュブナイルを感じさせる文体

『タイム・リープ』を一読して気づくのは、その文体から漂ってくる「懐かしさ」だ。これは、四半世紀前の作品を令和の現在に読んでいるから、というわけではない。『タイム・リープ』の文体は、1990年代の刊行当時ですら「懐かしく」感じたのだ。当時の電撃文庫のラインナップでも、『タイム・リープ』の文体は異彩を放っていたのではないかと思う。

まるで昭和のジュブナイル小説を読んでいるかのような気持ちにさせられるのだ。筒井康隆の『時をかける少女』を読んでいる感覚に近い。ライトノベルレーベルでは省略されがちな、家族についての描写がしっかり入るのも、なんとなく昭和っぽくはないだろうか。これは意図的に狙ってやっているのか?なんとも判断のつきにくいところだが、この物語の魅力の一つともなっている。

映画版は佐藤藍子主演

『タイム・リープ』には実写映画版が存在する。公開は1997年。監督は今関あきよし、大林宣彦が監修としてスタッフに名を連ねている。また、映画化に際して、メインキャスト二名の名前が変更となっている。「かしましょうか(貸しましょうか?)」の音の響きが好きだったので、これは少々残念に感じた記憶がある。

  • 原作:鹿島翔香 ⇔ 映画:池内翔香(佐藤藍子)
  • 原作:若松和彦 ⇔ 映画:星野彰彦(川岡大次郎)
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