ネコショカ

小説以外の書籍感想はこちら!
2023年に読んで面白かった新書・一般書10選

『嫉妬と階級の『源氏物語』』大塚ひかり

『冷たい校舎の時は止まる』辻村深月 第31回メフィスト賞受賞作

本ページはプロモーションが含まれています


辻村深月のデビュー作

2004年刊行。第31回メフィスト賞受賞作品。同賞では、初の試みとして上・中・下の3分冊で6月~8月の三か月にかけて連続刊行された。

冷たい校舎の時は止まる (上) (講談社ノベルズ)  冷たい校舎の時は止まる (中) (講談社ノベルズ)  冷たい校舎の時は止まる (下) (講談社ノベルス) 

2007年の文庫化に際して、上下巻の二巻構成に改められている。

冷たい校舎の時は止まる(上) (講談社文庫)  冷たい校舎の時は止まる(下) (講談社文庫)

作者の辻村深月(つじむらみづき)は1980年生まれで本作がデビュー作となる。本作のメフィスト賞から始まって、8年後の2012年には『鍵のない夢を見る』で直木賞を受賞。あっという間に、人気作家になってしまった印象がある。凄いよね。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★★(最大★5つ)

辻村深月の原点を知りたい方。辻村深月がメフィスト賞出身だったと知らなかった方。学園を舞台としたミステリ作品を読んでみたい方。自分で謎解きをするのが好きな方におススメ!

あらすじ

私立青南学院の生徒、男女8名が校舎の内部に取り残される。朝から降りしきる雪の中、完全に密閉された校舎からは外部に出ることも、電話で連絡を取ることも出来なくなっていた。次第に疑心暗鬼に陥る8人。事件の背後には文化祭最終日に自殺した、あるクラスメイトの存在があるようなのだが。彼らを閉じこめたのは一体誰なのか。

ここからネタバレ

ヒロインの名前が作家本人と同じ

読み始めてまず気づくのが、ヒロインの名前が作家本人と同じということ。いきなりショックを受けるのだが、これは

同作のヒロインに自分と同じ「辻村深月」と付けたのは、多くのミステリ作家に倣ったためである

辻村深月 - Wikipedia より

ということらしい。確かにミステリ作品では、過去にエラリー・クィーンや、有栖川有栖のように、多くの先行例があるわけだが、作中の「辻村深月」が、名探偵系(ワトソン系にも)のキャラクターに見えなかったので、かなり意外に感じた。

閉じ込められた8人の高校生

男子は優等生(静)、優等生(明)、ワイルド系、パシリの4人。女子はハカナゲ系(深月ちゃん)、ギャル、委員長、アーティスト系の4人。デビュー作だけあって、この頃はキャラクターの書き分けがいま一つ弱く、たびたび戻って確認しないとどれがどの人物だか判らなくなってしまうのがやや難点。

どこに話が向かっていくのかが分からない面白さ

天候が雪で、場所が学校で、内部に閉じこめられてって設定を考えると、数々の学園密室殺人モノを想起させられてしまうのだが、本作に関しては立ち上がりは至ってスロースタート。学校への閉じこめられ方が超自然的で、どうやらこの話、ミステリというよりはホラーの方向に向かう予感すらしてしまう。どの方向に物語が展開していくのか、全く読めないのだが、この判らないところが逆に面白い。

キャラクターの内面が出てきてから物語が加速

物語が1/3を過ぎたあたりで、ようやくキャラクターそれぞれの個人的事情が判明してくる。このあたりから俄然、話が面白くなってくる。

半分の人間が消えて、残りは四人。普通に考えれば鷹野と深月が最後に残ると思うのだが、この二人意外に直接会話するシーンが少ないので、仲がいいのかどうかよくわからない。一向に現れないサカキクンの存在も気になる。オチがまるで予想がつかないので、読み手としては気になってページをめくる手が止まらなくなるのだ。

残されたものたちの物語

終盤に入ると、残された四人のうち、まず景子編がスタート。プライドの高さ故に素直に人を好きと言えない不器用さんを描いて、これがわりとよく書けてる。メインでない登場人物の生徒会長君もいい味を出している。

続いて菅原編。これがどうして?って、激しく突っ込みたくなるくらい長い。景子編の40頁弱に比べてなんと80頁強。倍だ。でも、その分すごくいい話。どうして菅原がこんなお気軽君に育ってしまったのか、中学時代の哀しいエピソードが丁寧に描き込まれていて好感度アップ。本当は、この不自然な長さも疑わないといけないところなのだが、読みの甘い読者はあっさりこれを見過ごしてその先へ進んでしまうのである。

綺麗に物語が収束する

そして予想もしていなかった「読者への挑戦」がいきなり登場。えええ、この話って本格ミステリだったのか!(←気づくのが遅い人)。この話の謎って、論理的に考えて予想が付くものなのだろうか?提示された回答も、あまりに予想外だったので、正直驚かされた。

意外な真相に呆気にとられている読者なのだが、更に謎解き編は進んでいく。ここで妙に長すぎた菅原編の意味が明らかになり、これで無理矢理ながらも、感動的な力業で綺麗に物語が収束していくのである。この伏線に全然気付かなかったのはわたしだけ?最後に全ての感動を持ち逃げしてしまったサカキ君には感服した。

超自然現象を逆手に取ってのなんでもアリがこの作品の特徴なのだが、よもやこんな着地点を用意していたとは。驚きの結末と言う意味では、見事なデビュー作なのであった。青春ミステリとして、ベタベタしすぎない温度感も程よい感じで、過ぎ去りし学生時代に対しての慈愛に満ちた目線に、本作に込められた作者の愛情を感じずにはいられないのであった。良作!

冷たい校舎の時は止まる(上) (講談社文庫)

冷たい校舎の時は止まる(上) (講談社文庫)

 
冷たい校舎の時は止まる(下) (講談社文庫)

冷たい校舎の時は止まる(下) (講談社文庫)

 

コミカライズ版は新川直司のデビュー作!

実は『四月は君の嘘』でブレイクした新川直司のデビュー作が、実は『冷たい校舎の時は止まる』のコミカライズなのである。ちょっと意外と言えば意外。

青春ミステリという本作の属性を考えると、新川直司のタッチは悪くない組み合わせではないかと思うのだが、残念ながら、まだこの頃は、画風が定まっていなかったというか、安定していなかったというか、全体を通しての絵のクオリティが落ち着かず、小説版の物語性に乗っかることでなんとか形を成しているという状態なのである。

冷たい校舎の時は止まる(1) (月刊少年マガジンコミックス)

冷たい校舎の時は止まる(1) (月刊少年マガジンコミックス)

 

とはいえ、新川直司は第二作の『さよならフットボール』も面白かったし、『四月は君の嘘』の名作ぶりは語るまでもないだろう。しっかりと成長して、結果を残してきているのだから凄いよね。