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『ブルー・ハイドレード』海原零、未完の第二作

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海原零の第二作

2004年刊行。熱血スポ魂フィギュアスケート小説『銀盤カレイドスコープ』が有名な海原零(かいばられい)の二つ目の作品。第一巻のサブタイトルは「融合」である。

ブルー・ハイドレード―融合 (集英社スーパーダッシュ文庫)

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

『銀盤カレイドスコープ』以外の海原零作品を読んでみたい方。海、特に海中を舞台としたライトノベル作品を読みたい方。潜水艦モノ、特に戦記要素の強い作品を探している方、完結しておらず途中で終わってしまってもめげない方(笑)におススメ。

『ブルー・ハイドレード~融合~』あらすじ

そのとき、士官候補生ソリカ・ハイレンはサザンテトラの戦艦アルファレスの艦内にいた。敵国カソレイア戦艦との遭遇は不幸な偶然と無能な上官の存在故に、最悪の展開をたどる。両艦の交戦は暗転する歴史の転換点となってしまうのか。絶体絶命の死地に立たされたとき、ソリカは重大な決断を迫られる。生き残るために彼女が選んだ手段とは……。

ここからネタバレ

海中で暮らす人類たち

舞台は惑星マム。この星は全体の81%が海。この世界では致命的な伝染病「Uデンジー」が蔓延しており、大気の中では人類は生存が許されず、発病を防ぐには海の中に潜むしかない。地上に住めなくなった人類は海中にドーム型都市やら、地下都市を作って細々と延命。一時は激減した人類だったが、辛うじて持ち直し、現在はサザンテトラとカソレイアの二大国と、小国ブラッカステイツが存在する。というのが基本的な世界設定。

潜水艦モノである

地上の空気に触れると即発病なので、戦争は潜水艦戦がメインとなる(この世界では潜水艦を戦艦と呼ぶ)。主人公は大国サザンテトラの士官候補生。サザンテトラでは長きにわたる軍閥による支配が続いており、能力よりも家柄重視で人材登用がなされている。必然的に上官は無能ばかり。大戦勃発につながりかねない緊急事態に際して、頼りになるのは同期の士官候補生たちのみ。絶望的な状況下でいかにして危地を逃れるのか。うーん、燃える展開ではないか。

戦記モノでもある

設定的には田中芳樹っぽいというか、『銀河英雄伝説』の香りがする。限定条件下の戦闘という側面を考えると『七都市物語』っぽい雰囲気もするな。戦記モノ系のライトノベル作品。

『銀盤カレイドスコープ』が一人称だったのに対して、今回は三人称を用いている。序盤では主人公が誰なのかも明確になりきらないうちに、三人称の視点がコロコロ切り替わるものだから状況が掴みにくくて閉口した。ちょっとまだ作者的に三人称に慣れていないのか。

戦闘描写がわかりにくい……

そして戦況がこれまた判りにくい。潜水艦バトルの描き方が今ひとつ。いちいち用語を説明していてはキリが無いのだろうけど、これ予備知識ないと判らないぞ。『沈黙の艦隊』を読んでおいて良かった。海中での戦闘では直接敵の姿が見えない。頼れるのは音だけ。そして双方の攻撃がなされてから、結果が出る(敵or自分が死ぬまで!)までに何分ものタイムラグがある。ここいら辺の潜水艦戦ならではの緊張感をもう少し上手く出して欲しかった。

キャラクター的には主人公らしき人物のキャラがちょっと弱いかな。どうしてもタズサのような超強気キャラを期待してしまうのが悪いのかもしれない。あれ、でも真の主人公はトパーズなのかな。最初から登場人物が多すぎるのも難点だろうか。

残念ながら第二巻で打ち切りに……

続いて第二巻は2005年の刊行。サブタイトルは『転移』。

謎の超人類トパーズちゃんを仲間に加えて、士官候補生たちの逃避行は続く……かに思えたのだが、結局第三巻は出なかったのだ。『銀盤カレイドスコープ』の実績を持つ作者の第二作にしても、結果が出なければ容赦くな打ち切りなのである。厳しい。

ブルー・ハイドレード 〜転移〜 (スーパーダッシュ文庫)

『ブルー・ハイドレード~転移~』あらすじ

故国サザンテトラに叛旗を翻し、ブラッカステイツの戦艦デッカートを強奪したソリカたちであったが、最初に彼らを見舞った災厄は深刻な食料不足だった。思案に暮れた彼らはブラッカステイツ麾下のザルツバリカ要塞へと進路を向ける。最新鋭戦艦ペルセキュートの奪取を画策するトパーズ。しかしそこには歴戦の勇者カイン・リッチーが待ちかまえていた。

面白くなってきたところなのに

指揮官のポジションに収まったトパーズちゃんの作戦がけっこうエグい。捕虜の命は使い捨てだし、協力者すら利用した末に見殺し。なんという13歳。だが、それがイイ。圧倒的に不利な状況の中から、知略(というよりは狡猾の域だが)と各メンバーの特殊技能を活かして、劣勢を跳ね返して勝利するという展開は、王道ながらもやはり気持ちがいい。潜水艦バトルの描写も慣れてきたのか、前巻より格段に読みやすくなっている。

それだけに、続篇が出ることなく終わってしまったのは実に残念。

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