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『歌の翼に ピアノ教室は謎だらけ』菅浩江の日常の謎系ミステリ作品

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菅浩江による日常の謎系ミステリ

2003年刊行。祥伝社の「小説NON」に2001年~2003年にかけて掲載されていた作品群をまとめた連作短編集。祥伝社の新書レーベル、ノンノベルからのリリースである。表紙と扉絵のイラストは加藤龍勇(かとうりょうゆう、旧名加藤洋之)が担当している。

歌の翼に―ピアノ教室は謎だらけ (ノン・ノベル)

残念ながら文庫化はされておらず、電子化もされていないので、現在では、新刊として入手するのは困難な作品となっている。図書館で探すか、Amazonのマーケットプレイスを頼るのが良いかと思われる。

1990年代後半から、ゼロ年代に刊行された菅浩江(すがひろえ)作品は、本作のように文庫化されていないものが多く、ファン的には非常に悲しい。いずれももっと読まれて欲しい作品群なのだが……。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

音楽をテーマとした日常の謎系ミステリに興味のある方。菅浩江作品で、日常の謎系作品を読んでみたいと思っている方。やさしいだけではない、ちょっとスパイスの効いたタイプのミステリ作品がお好きな方におススメ。

あらすじ

ひなびた商店街の楽器店の二階にそのピアノ教室はあった。有名音大のピアノ科を主席で卒業しながらも子供相手のピアノ講師として日々を過ごしている杉原亮子。おっとりとしたお嬢様然としたイメージとは裏腹に、人並み外れた彼女の観察力と推理力は生徒たちの悩みを次々と解決していく。しかし誰にも言えない心の傷が亮子には……。全九話構成の連作短編集。

ここからネタバレ

作者の経歴が活かされた作品

本作をカテゴライズするとしたら、2000年代の後半あたりから流行りはじめた、日常の謎系のミステリ作品と捉えると判りやすいかと思われる。

ピアノ教室の講師を主人公としているが、これは作者自身の元電子オルガン講師という過去から来る体験が多分に盛り込まれているのだろう。ぽわわんとした容貌に似合わず、鋭い推理でまったりと生徒たちが直面する問題を片づけていく、ヒロインの亮子先生がとても魅力的なのである。

ちょっと毒のある短編集

本作には九つの短編が収録されているが、各編ごとに視点となる人物が変わるの特徴的である。華々しい経歴の割には地味な仕事をしている謎めいた主人公を、複数のキャラクターの視点で追いかけることで人物像を浮かび上がらせようとする趣向となっているのである。

日常の謎系とはいえ、書いているのが菅浩江なので毒分はやや多め。それでも適度な毒素がいい感じのスパイスとなって、ハートウォーミングなストーリーに傾きがちなこの作品をキリッと引き締めている。難を挙げるとしたら、謎の設定に無理がありすぎる作品がちらほらあるのが気になったかな。

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