ブリュンヒルド の物語「第二部」
2022年刊行作品。デビュー作であった『竜殺しのブリュンヒルド』に続く、東崎惟子(あがりざきゆいこ)の第二作。タイトルから予想がつくけれども「竜殺しのブリュンヒルド 」シリーズの二作目でもある。前作に引き続き、イラストはあおあそが担当している。
ラノベニュースオンラインにインタビュー記事があったのでリンク。『竜殺しのブリュンヒルド』の内容も踏まえた内容なのでその点はご注意を。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★(最大★5つ)
東崎惟子の『竜殺しのブリュンヒルド』を読んで、世界観にハマった方。関連作品を読んでみたいと思っている方。国産のファンタジー小説に興味のある方におススメ。
ちなみに『竜殺しのブリュンヒルド』よりも過去の時代の物語となってはいるもののの、あくまでも『竜殺しのブリュンヒルド』を先に読んでから『竜の姫ブリュンヒルド』を読まれることをお薦めしたい。
あらすじ
小国ノーヴェルラント。この国では神竜を祀ることで邪竜の脅威を除き、繁栄を維持してきた。ブリュンヒルドは先祖代々神竜に仕える「竜の巫女」の血統の少女。ただひとり神竜の言葉を理解し、日々、その傍らに立ち、生きた少女らを贄として捧げる。そんな慣習に疑念を覚えたブリュンヒルドは、王子シグルズと共に、王国の歴史に潜む闇の部分に迫っていくのだが……。
ここからネタバレ
主要登場人物
ブリュンヒルド:本作のヒロイン。ノーヴェルラント王国を守護する神竜を祀る「竜の巫女」だが、神竜に生きた人間を捧げなければならないことに葛藤を覚えている。竜の言霊を理解し意思疎通が出来る無二の存在
シグルズ:ノーヴェルラント王国の王子。ブリュンヒルドとは幼馴染。神竜の存在意義に疑念を抱き、その存在を亡きものにしようとしている
ファーヴニル:瀕死のところをブリュンヒルドに救われ従者となった。被差別階級の出身。凄惨な過去から他者への共感能力が欠如している
スヴェン:シグルズに絶対の忠誠を誓う従者。王国屈指の槍の遣い手
神竜:ノーヴェルラント王国を守護する竜。代償として生きた人間の命を贄として求める
前作より700年前の物語
前作『竜殺しのブリュンヒルド』は完璧なほどに単巻で完結してる物語であっただけに、続篇が出ると聞いた時はいったいどうするつもりなのだろうと疑問に思っていた。そんな読み手側の思惑に対して、作者は舞台設定を700年前に設定することで切り返してきた。なるほど確かに『竜殺しのブリュンヒルド』の続きは書きにくいかもしれないけど、過去の話であれば書けるというわけだ。
作者インタビューを読む限り、この結論に至るまでにはいろいろと紆余曲折があったみたい。たしかに読んでいて苦労して書いているなという印象は受けた。
私も未だに、第一部で終わることが正しかっただろうなと思うことがあります。それでも、どうしてもブリュンヒルドの世界観を書き続けたいと思ってしまいました。他の新作にも手を付けようとしましたが、筆が乗らず、一番筆の乗った物語がブリュンヒルドの世界でした。どう続けるべきかと考えるのに多くの時間を要し、そうして受賞の直後から模索を続けて約1年、辿り着いたのが「過去の物語」だったんです。
独占インタビュー「ラノベの素」 東崎惟子先生『竜殺しのブリュンヒルド』&『竜の姫ブリュンヒルド』 - ラノベニュースオンラインより
物語の舞台となるのがノーヴェルラント王国である点は変わらない。ただ『竜殺しのブリュンヒルド』の時代では大陸屈指の列強にまで成長しているノーヴェルラントも、『竜の姫ブリュンヒルド』の時代では、邪竜の脅威に怯える小国に過ぎない。
ブリュンヒルドとシグルズの物語
『竜殺しのブリュンヒルド』に登場したブリュンヒルドとシグルズは実の兄妹として描かれていた。一方『竜の姫ブリュンヒルド』に登場するブリュンヒルドとシグルズは、血縁関係の無い、竜の巫女と一国の王子として描かれる。前作では互いを想いあいながらも悲劇的な結末に至った二人だが、作者はこのペアをまた別のかたちで捉え直している。このあたり、インタビュー記事を読む限り、作者もかなり意識しているっぽい。
はい。これはブリュンヒルドとシグルズ、二人の仲の良い姿を描きたいと思うようになったからこそ生まれたアイデアでもありました。これなら読者のみなさんをがっかりさせずに、ブリュンヒルドの世界をシリーズ化できるのではないかと。第二部の二人は別人でこそありますが、ブリュンヒルドとシグルズという名前を冠して登場しています。そこには同じ名前の運命のようなものを強く意識しながら執筆しました。
独占インタビュー「ラノベの素」 東崎惟子先生『竜殺しのブリュンヒルド』&『竜の姫ブリュンヒルド』 - ラノベニュースオンラインより
といっても、ブリュンヒルドとシグルズの関係性は、今回も決してハッピーエンドに終わらないのではあるけれど……。
竜殺しの力「バルムンク」誕生の物語
そして本作は竜殺しの力「バルムンク」が、いかにして生まれたかを描いた物語でもある。王国の竜の力は、ブリュンヒルドの生涯を賭した働きで滅ぼされた。しかしその力は、いつか起こるかもしれない王国の危機の際に必要になるかもしれない。であれば、ブリュンヒルドの後継者だけが使える力として遺せばよいのではないか。
「バルムンク」の力が、人の心を持たない男ファーヴニルによって世に遺されたことは救いでもあるようで、なんとも皮肉な結末にも思える。他者への共感能力を欠損している男が、唯一ブリュンヒルドの優しさを汲んで神の力を後世に伝えることにした。が、ファーヴニルが王国に伝承させた「バルムンク」は、やがて竜を滅ぼす力として行使され王国に新たな危機をもたらすことになる。
前作『竜殺しのブリュンヒルド』の感想を読む