ネコショカ

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高野史緒『アイオーン』古代ローマが残した核汚染?暗黒の中世を描く歴史改変エスエフ


古代ローマが残した核汚染、暗黒の中世を生きる人々

 2002年刊行。高野史緒の六作目。ベストSF2002の国内部門で13位に入った作品。「SFマガジン」に1999年から2002年にかけて散発的に掲載された作品五編に書き下ろし一編、そしてプロローグとエピローグを加筆したのが本書。

ハヤカワSFシリーズのJコレクションの一冊として刊行されているが、残念ながら文庫化されておらず、やや入手困難かもしれない。

アイオーン (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

アイオーン (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

 

滅亡したローマ帝国は現代文明に匹敵する高度な科学文明を持っていたとする設定で、ローマの残した核汚染の中、暗黒の中世を生きていく人々の姿を描いた連作小説集。

あらすじ

キリスト紀元121X年。フランス、トゥールーズ。医師のファビアンはアルフォンスと名乗る科学者に出会う。先進的な思想を持つアルフォンスに惹かれるファビアンだったが、キリスト教万能の時代にあって、その思想はあまりに異端であり過ぎた。コンスタンティノープル、ローマと世界各地を旅してゆくファビアンは、やがて世界の真の姿を見ることになる。

歴史改変エスエフの魅力

高野史緒は素敵な設定を考えさせたら日本エスエフ界屈指の存在なんじゃないかと思われる作家の一人だ。絶対王政期のヨーロッパで電話線を使ったハッキングバトルが繰り広げられた『カント・アンジェリコ』、19世紀のウィーンに自動音楽機械をもたらした『ムジカ・マキーナ』。どちらも歴史フェチには燃え死にしそうな程魅力的な設定だった。

古代ローマで核汚染?何言ってんの?と、突っ込みたくなるかもしれないが、この類の歴史改変エスエフ作品は、この作家のお家芸なのである。本作でも期待は高まるところだが、作者は期待を裏切らない。

この世界では、ローマ時代の負の遺産として、放射能がそこいら中に残っているので一般民衆は不具者だらけ。古代文明の遺産は教皇庁(なぜかグノーシス主義)が隠匿。よく見える星が実は人工衛星だったり、実は東方世界にはまだ科学力が残っていたりして、、と萌える設定が盛りだくさん。虚と実の織り交ぜ方の見事さはさすがと言うしかない。

虚実の入り混じり方が世界史好きには堪らん感じ

取り上げている歴史的事件のチョイスがこれまたマニアックで、始まりは13世紀初頭のトゥールーズから。シモン=ド=モンフォールに包囲されているトゥールーズって、それはまさかアルビジョワ十字軍!いきなり通好みな事件から始めるあたりセンスを感じずには居られない。

自分的な歴史上最愛都市の一つ、コンスタンティノープルが出てくるのもポイントの高いところ。ラテン帝国とかボードワン1世とか出てくるわけですよ!そして彷徨を続けるファビアンが、生涯の最後でアヴィニョン!でどのような運命を受け入れたのか。これは世界史好き(特に中世キリスト教史)にはたまらないオチ。素敵だ。素敵過ぎる。

歴史苦手な方にはちょっとハードル高めだけど、頑張って読んでほしい!

世界史愛好家としての視点からばかり書いてしまったが、もちろん世界史的な知識が無くても十分楽しめる作品ではある。けれども独特の世界観があるので、その中に入り込めるまでは少々しんどいかもしれない。一番最初の「エクス・オペレ・オペラート」は多少苦しくても頑張って読み切って欲しい。とっつきの悪さはあると思うけど、これが読めればあとは一気にいけると思う。

デジタルな事象をアナログ的に表現するのが大好きなのも高野史緒作品の特徴の一つで、今回は匿名チャットと匿名掲示板を中世のローマで再現している。なりすましや自作自演のアナログな表現には笑った。こんな公会議なら出てみたいけど、こんな枢機卿ばかりのバチカンは嫌だろうな(笑)。ローマ編の「S.P.Q.R.」は必見だ。

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