ネコショカ

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完結に20年かかった新井素子の『ブラック・キャット』シリーズを振り返る


今日は昭和の作品(後半は平成だけど)の登場である。既にコラムとして『ネリマ大好き』の感想をお届けしているが、小説作品を紹介するのがこれが初めてになる。新井素子は十代の自分がもっとも影響を受けた作家のひとりなのである。

本ブログの存在意義の一つに、昔読んで魂に刺さった物語群の感想を、デジタル世界にとどめておくこと、というものがある。そのため、今後、新井作品については、全作品の感想を書いていくつもりなのでお楽しみに(若い皆さん、古い本の話でゴメンね)。

『ブラックキャット』

1984年作品。新井素子としては十二冊目の作品。シリーズ一作目。

ブラック キャット 1 (ブラック・キャットシリーズ) (コバルト文庫)

ブラック キャット 1 (ブラック・キャットシリーズ) (コバルト文庫)

 

ショック、なんと35年前の作品である。表紙から漂う濃厚な昭和感よ。せめて三作目、四作目が出たあたりでテイスト揃えてほしかったな。

ちなみに矢吹健太朗の『BLACK CAT』とは全く関係ないよ。

あらすじ

広瀬千秋は天涯孤独の身の上。荒んだ環境の中で育った彼女は、ようやくにして得た義父母も飛行機事故で亡くしてしまう。生きていくためにと始めたスリ稼業だったが、「仕事」の最中に自らをキャットと名乗る奇妙な女に出会うことになる。しかし、それは信じられない大事件に巻き込まれていく前触れに過ぎなかった。

三重苦の怪盗団の物語がスタート!

運動のできない泥棒、天才的に不器用なスリ、虫も殺せぬ殺し屋。泥棒家業をやっていくには、あまりに無理がありすぎる設定の三人が織り成す、ドタバタ劇を描いていく。

各巻のタイトルにはチェス用語のサブタイトルがついていて、ちなみに第一巻の本作は「アンパッサン」である。

さすがに、今の感覚で読むと古さは否めないし、書き手の若さも歴然。お話としても、長大なシリーズの序章といった趣で、物足りなさが否めないか。まあ、この頃は続巻がすぐに出たので、それほど気にならなかったのではあるが。

『ナイト・フォーク(ブラック・キャット2)』

ブラック・キャットシリーズ第二作。1985年刊行。新井素子としては14作目の作品。

ナイト・フォーク(ブラック・キャット2) (集英社文庫―コバルト・シリーズ)

ナイト・フォーク(ブラック・キャット2) (集英社文庫―コバルト・シリーズ)

 

34年前の作品。作者がこれを書いた年齢が24歳らしいので、自分がその年齢よりも遙かに年を取ってしまったことを考えると暗澹たる気持ちになるな。しょんぼり。

あらすじ

不器用なスリ、広瀬千秋。虫も殺せぬ殺し屋、黒木明拓。走れない泥棒、キャット。それぞれに致命的なハンディを背負った怪盗団ブラック・キャットの面々が次に狙う獲物は前代未聞の代物だった。超能力少年、南勝博の持つサイコキネシス(PK)を奪おうというのだ。しかも、全国放映番組がオンエアされている最中に!驚天動地の大作戦は成功するのか。そしてその背後に隠された真の狙いとは。

ようやく物語が動き出す

あまりに短すぎてプロローグにしかなっていなかった一作目と比べると、さすがにこちらはそれなりにまとまったエピソードになっている。登場人物の台詞や、主人公の語りの部分に古さを感じてしまうのは致し方ないにしても、まあ読めると思う。計画の適当さ加減も、山崎ひろふみが刑事やっているような世界なんだと思えば許せるし。

ちなみに本作に登場するドジッコ刑事山崎(やまさき)ひろふみは、別シリーズ『星へ行く船』のメインキャラ山崎太一郎の遠いご先祖であり、新井素子ワールドをつなぐ、地味に重要なキャラクターである。

『キャスリング(ブラック・キャット3)』

ブラックキャットシリーズ第三作。1994年刊行。

この段階で前作からなんと9年が経過である(作中時間ではなく刊行間隔の話ね)。時代は平成の世となり、第一巻刊行当時は十代前半だったわたしも、大学生になってしまっていた。この時点で主人公の年齢を読者の方が上回ってしまっていたのである。

キャスリング〈前編〉―ブラック・キャット〈3〉 (コバルト文庫))

キャスリング〈前編〉―ブラック・キャット〈3〉 (コバルト文庫))

 
キャスリング〈後編〉―ブラック・キャット〈3〉 (コバルト文庫)

キャスリング〈後編〉―ブラック・キャット〈3〉 (コバルト文庫)

 

久しぶりの新作ということで、気合を入れて上下巻構成となっている。注目すべきは表紙イラストで、ようやくライトノベルレーベルらしい絵師さんが起用された模様。出来れば、この時点で1巻、2巻のイラストも揃えてほしかったな。

あらすじ

怪盗ブラック・キャットの新たなるターゲットはサティ王国、ララベス王妃のネックレス"海の涙"。明拓の指導の下、厳しい訓練に耐える千秋は周囲の予想を遙かに超えた成長を遂げていく。宿縁浅からぬ様子のキャットと王妃。見えてきた最強の敵の存在。厳重警戒の中、遂に作戦は敢行された。三人を待ち受ける運命は。

キャットの秘密が判明

本巻で、遂にキャットの秘密が明かされる。ライトノベルというよりは、一昔前のジュニア小説と呼んだ方がしっくりくるような、どこか懐かしい雰囲気が漂うお話である。一言で書いちゃうとユーモアサスペンスとでも言うべきだろうか。

ちなみに、下巻の半分は別シリーズ『星へ行く船』の外伝「αだより」になっていて、すっかり存在を忘れてたオールドファンを喜ばせてくれていた。おっそろしい程の多幸感に満ちあふれた、甘々な作品に仕上がっているので要注意である。

『チェックメイト(ブラック・キャット4)』

ブラックキャットシリーズ最終作。2004年刊行。前作から更に10年が経過。とうとう21世紀になってしまった。読み手のわたしは、既におっさんである。

チェックメイト 前編 ブラック・キャット(4) (ブラック・キャットシリーズ) (コバルト文庫)

チェックメイト 前編 ブラック・キャット(4) (ブラック・キャットシリーズ) (コバルト文庫)

 
チェックメイト〈後編〉―ブラック・キャット〈4〉 (コバルト文庫 あ 2-17)

チェックメイト〈後編〉―ブラック・キャット〈4〉 (コバルト文庫 あ 2-17)

 

2巻から3巻が出るまでに9年。そしてこの最終巻を待つこと更に10年。1巻が出たのが1984年だから、なんと完結に至るまでに20年である!コバルト文庫的にも、ライトノベル的にも、いや一般的な小説としても、凡そありえない状況である(と、当時は思ったものだが、田中芳樹みたいな例もあるし、そうでもないかもね)。

あらすじ

怪盗ブラックキャットの引き起こした"海の涙"強奪事件は、微妙な波紋を世界に及ぼしていた。キャットの挑戦を受け、ついにあの男が日本に降り立とうとしていた。なんとかして千秋だけは巻き込みたくないと画策するキャットと明拓だったが、二人の懸念を余所に、究極のトラブルメーカー山崎ひろふみを巻き込みつつ、事態は混迷の度合いを増していく。

リアルタイム読者、20年の歳月を振り返る

最初からの読者がもうキャットの歳を越えている(笑)。当初は千秋的な被保護者の目線で読み始めていたのに、シリーズを通して読み終わってみれば、キャットや明拓よりも更に上の年代の目線で物語を俯瞰していた感覚なのである。完全に想定読者年齢を超えている。いやはや歳は取りたくないものである。

ここまでのほほんと進んできた作品だけに、ラストでいきなりシビアな展開にはならないだろうと予想はしていたけど、予定調和とでも言うべきか、このシリーズらしい温かみのある終わり方で、まずまずの読後感。なんにせよ、ちゃんと完結したことは評価すべきであろう。

本作は、新井素子の他作品に比べると、特に強いテーマやメッセージが込められているわけでもなく、比較的気軽にサクっと読み切ってしまえるタイプである。それ故に、あまり印象に残らないのか、他文庫への展開や、電子書籍化の流れからも取り残されている感があってちょっと哀しい。