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『死体埋め部の回想と再興』斜線堂有紀 死体埋め部シリーズの追加エピソード&後日譚

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死体埋め部シリーズの完結編?

2000年刊行作品。前年に刊行された『死体埋め部の悔恨と青春』に続く、死体埋め部シリーズの第二弾。2019年~2021年にかけての斜線堂有紀(しゃせんどうゆうき)の量産っぷりはすさまじく、毎年4作以上の作品を上梓している。本作は2000年では四作目の作品になる。

死体埋め部の回想と再興 (ポルタ文庫)

web配信サービスのnoteに掲載されていた一編に、書下ろし三編を加えて文庫化したもの。前作に引き続き表紙イラストはとろっちによる。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

死体埋め部シリーズの一作目『死体埋め部の回想と再興』を読んでいる方(本作から先に読むのは絶対におススメしない)。共依存の関係について考えてみたい方。初期の斜線堂有紀作品を読んでみたいと思っていた方におススメ。

あらすじ

大学生一年生の祝部浩也は、やむを得ない状況下だったとはいえ、襲撃者を殺害してしまった。祝部は「死体埋め部」所属だとうそぶく謎の上級生、織賀善一に救われ、平穏な学生生活を取り戻したかに見えた。しかし次から次へと持ち込まれる殺人遺体に、「死体埋め部」の活動は休むことなく続く。祝部と織賀。誰にも言えない秘密を共有するふたりが最後に行きついた果てとは。

ここからネタバレ

前作『死体埋め部の回想と再興』のネタバレも含むので注意!

追加エピソードとマルチエンディング

死体埋め部シリーズは、実は最初の『死体埋め部の悔恨と青春』で完結している。

祝部浩也(ほふりべひろや)と織賀善一(おりがぜんいち)の関係性には既に決着がついているのだ。そのため、続編があると知ってちょっと意外だった。思っていたよりも人気が出たので、続巻が出せたってことなのかな。

『死体埋め部の回想と再興』は、まず前巻『死体埋め部の悔恨と青春』の最終エピソード「死体埋め部の栄光と崩壊」よりも前の時間軸のお話、つまり、実はこんなお話もあったんですよ!的な「回想」エピソードが二編。そして「死体埋め部の栄光と崩壊」後の、後日譚エピソード「再興」編が二編収録されている。この二編の後日譚は相反する内容となっており、一種のマルチエンディング的な要素を持つ。どちらの真相を「承認」するかは読み手の裁量に委ねられているというわけだ。

それでは以下、各編ごとにコメント。

第一話 死体埋め部と雨降りソリューション

書下ろし作品。

うっとおしい梅雨の季節の「埋め部」活動。今夜の死体は、傘を持っているのに全身がずぶぬれ状態になっていた。被害者はどうして傘をささなかったのか?そして依頼人が一緒に埋めてくれるように頼んださまざまなアイテム。事件の真相は?

ソリューションは解決と解答みたいな意味合いで考えればいいかな?

雨が降って地面がぬかるみ、遺体処理の難易度が格段に上がる梅雨シーズン。不快感も跳ね上がって、こんな時期に「埋め部」の仕事はやりたくないよね。しかし殺人は時と場所を選んでくれない!ってことで、なんともウェットなお話になっている。織賀善一が雨を嫌うのは陰惨な過去の記憶がフラッシュバックするからだろうか。

第二話 死体埋め部の遊行と有業

初出はweb配信サービスのnote。発表時のタイトルは「死体埋め部のと有業と遊行」だった。文庫化に伴い加筆修正されている。100頁近いボリュームを持ち、本巻収録中の最長エピソードとなっている。『死体埋め部の回想と再興』のメインディッシュは、間違いなくこの話だ。

「死体埋め部」北海道に上陸!織賀の強い希望で夏休みの北海道合宿が開催される。北の食を満喫し、観光にも力を入れる祝部と織賀だったが、ここでも死体に遭遇。しかも四体も!彼は何故死んだのか?犯人は誰なのか?祝部は事件の真相を読み解こうと推理を巡らせる。

織賀善一史上、人生最高の夏。幸薄い孤独な人生を送ってきたであろう織賀が、全力で祝部との北海道合宿を堪能しているのがなんとも切ない。今回は別に依頼されているわけではないのだけれど、四体もの死体が目の前に登場。きちんと推理して、しっかり埋めるところまで対応するところは流石プロ。っていうか、死体埋めのスキルメッチャ上がってないか?

第三話(x) 祝部浩也と追走リコレクション Route不在

書下ろし作品。第三話はxとyの二編が収録されていてマルチエンディング構成になっている。いずれも「死体埋め部の栄光と崩壊」後の時間軸のエピソード。

織賀を失った祝部は、遺産である高級車ジャガーの維持に苦悩することになる。車を維持するために休学を強いられ、不毛なアルバイトに精を出す祝部は、江澄(えずみ)と名乗る裏家業の男に遺体の処理を依頼される。

タイトルに「Route不在」とある通り、織賀は死んだまま。虚無の中で生きている祝部が描かれる。強固な共依存の相手を、自らが手を下したに近い形で失った場合、人間はどうなってしまうのか。もう「承認」は得られないけれど、それでも人は生きていく。祝部は「あの暗い夜を知らないふりをして、生きていく」なんて出来ないと思うので、遠くない未来の破滅が予感されて哀しい。

第三話(y)祝部浩也と追走リコレクション Route再会

書下ろし作品。マルチエンディングその2。

死体遺棄に向かうジャガーのトランクに、うっかり乗り込んでしまった男は、遺体を前に推理を巡らせる織賀と祝部の会話に驚愕を覚える。やがて車は、オリガマウンテンに到着。死体埋めの現場で男が見たものとは……。

犯人、彼岸山大成(ひがやまたいせい)の視点で物語はスタート。最後はまさかの倒叙ミステリだ。この短編の尺で、織賀と祝部の話も詰め込まないといけないのによく書いたなという密度の濃い一編。

タイトルに「Route再会」とあるところからわかる通り、このエピソードでは大怪我を負いながらも織賀は復活を果たしている。左目を失い、右手もなく、右足は動かない。こんな状態でオリガマウンテンに行けるとも思えず、この織賀は祝部の脳内が紡ぎだしたイマジナリーな存在なのではないかと思われる。「あんな場所から落下して、無事でいられるはずがないのだ」から。

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