旬のタイミングを逃した感がスゴイけど、毎年書いているので今年も書く。おススメ小説の12選!「2023年に読んだ本」が対象であって、2023年に刊行された本ではないのでその点はご注意を。読了直後のTwitterコメントと併せてどうぞ!
ちなみに、非小説部門のベスト記事はこちら。
そして、これまでの「面白かった小説約10選」系の記事はこちらから。
- [少女庭国]/矢部嵩
- 魔女の子供はやってこない/矢部嵩
- 成瀬は天下を取りにいく/宮島未奈
- 光のとこにいてね/一穂ミチ
- アリアドネの声/井上真偽
- 残月記/小田雅久仁
- 爆弾/呉勝浩
- 王朝奇談集/須永朝彦・編訳
- ねじの回転/ヘンリー・ジェイムズ
- 停電の夜に/ジュンパ・ラヒリ
- ナイフ投げ師/スティーヴン・ミルハウザー
- ハイファに戻って/太陽の男たち/カナファーニー
- 年間ベストの過去記事を読む
[少女庭国]/矢部嵩
矢部嵩『少女庭国』#読了
— ぬぬに@毎晩20時🕗本感想ブログ更新 (@nununi) October 23, 2023
すんごい奇書だった
各部屋に少女がひとり。部屋の数をnとし、死んだ少女の数をmとする時、n -m=1とせよ
女子中学生たちのバトルロワイアル、壮大な思考実験、仄かな百合テイスト
矢部作品毒強すぎ。
読む人をメッチャ選ぶ話ですが、わたし的には最高の作品でした。 pic.twitter.com/YNCJrqkYPw
矢部嵩(やべたかし)を知ったのが、2023年最大の収穫だったかもしれない。超寡作作家で、既刊が四冊しかないのが切ない。
『[少女庭国]』はホラーとかエスエフだとか、百合的ななにかだとか、一般読者の安易な予想の遥か斜め上にものすごい剛速球が来た感があって、読み手としては唖然と見送るしかなかった。名状しがたい読書経験が味わえるので、奇書好きのあなたにおススメ。ただし強烈に人は選ぶ。
魔女の子供はやってこない/矢部嵩
矢部嵩『魔女の子供はやってこない』#読了
— ぬぬに@毎晩20時🕗本感想ブログ更新 (@nununi) February 5, 2023
暗黒系ガールミーツガールの怪作。
第1話:ああなるほどねー
第2話:幻想的な作風
第3話:趣味悪いな
第4話:目が醒める。ここからが本番。
第5話:単話としての完成度はこれがピカイチ
第6話:何この名作!
将来的には角川つばさ文庫入りを目指して欲しい! pic.twitter.com/wI0s1pPAVv
「〇〇年に読んで面白かった小説」シリーズは、基本的に一作家一作にしているのだけど、矢部嵩作品は例外にしちゃう。『魔女の子供はやってこない』は戦慄の暗黒系ガールミーツガールだ。こんなにどす黒い作品なのに、読後には一抹の抒情性が漂っちゃうあたり、ただごとではない作品だと思う。ただ、重ねて言っておくけど、強烈に人は選ぶ。
成瀬は天下を取りにいく/宮島未奈
宮島未奈『成瀬は天下を取りにいく』#読了
— ぬぬに@毎晩20時🕗本感想ブログ更新 (@nununi) May 23, 2023
濃密な滋賀県と西武大津店への愛に包まれる。感動的なエピソードはないのに、強く感情を揺さぶられる物語。
成瀬と島崎の関係性が良すぎて、この先が読みたくなるけど、ここで終わってるからこそ良いのかもしれない。 pic.twitter.com/Zi3POsmqbA
2023年にブレイクした作家と言えば宮島未奈だろう。爽やかな青春小説であり、地元大津への愛に満ち満ちたご当地小説であり、コロナ禍の世相を描いた社会派小説でもある。奇しくも続篇の『成瀬は信じた道をいく』が本日発売となっている。早く読みたい!ちなみにタイトルは『成瀬は天下を取りにいく』であり「行く」ではないので注意が必要(新作も同様)。
光のとこにいてね/一穂ミチ
一穂ミチ『光のとこにいてね』#読了
— ぬぬに@毎晩20時🕗本感想ブログ更新 (@nununi) January 7, 2023
生まれも育ちも、性格も正反対。そんな二人の女の、7歳で出会ってから29歳までの物語。
繰り返し提示される(カノンだよね)タイトルワードが、少しづつその意味を変えて、二人の関係性を照らし出していく構成が巧すぎる。 pic.twitter.com/DMZXg7ypoJ
少女時代から30歳直前まで。全く異なる性格、まるで違う境遇で生きてきたふたりの女がどうしようもなく惹かれあい。出会いと別れを繰り返しながら業を深めていくお話。タイトルがほんとうに秀逸で、読み進むにつれてその意味が「変奏」されていく構成がメッチャ巧い。終わり方も素晴らしい。その先をあれこれ妄想してしまう。
アリアドネの声/井上真偽
井上真偽『アリアドネの迷宮』#読了
— ぬぬに@毎晩20時🕗本感想ブログ更新 (@nununi) December 19, 2023
今年のミステリ系各賞で上位にランクイン。
巨大地震が発生し地下に取り残された、目と耳が不自由な女性をドローンを使って救出する
魅力的なテーマながら、これミステリなの?と不審に思いつつ最後に提示されるアレの、一瞬で腑に落ちる物凄い納得感! pic.twitter.com/z89ASYN7Nc
ガーン、Tweetしたときのタイトル間違ってる(ごめんなさい)。
ビックリ度としては2023年の読書体験で、いちばん驚かされたのはこの『アリアドネの声』だと思う。あと残り少ししかページ数がないけど、これでちゃんと解決できるの?説明できるの?読者を納得させるオチが提示できるの?と、読む側を不安にさせておいて、あまりに鮮やかな解決展開に愕然とさせられた。一瞬で「わからせる力」に脱帽なのであった。
残月記/小田雅久仁
小田雅久仁『残月記』#読了
— ぬぬに@毎晩20時🕗本感想ブログ更新 (@nununi) February 21, 2023
月=非日常、真逆の世界、ダークサイド、夜、闇。
月をテーマとしたオムニバス作品集。短編二本と中編一本。
エスエフ的であり、ファンタジーであり、ピュアっピュアな恋愛小説で、ディストピア小説の側面もありと、さまざまな要素のごちゃ混ぜ感が良いですね。 pic.twitter.com/tDMym02gHD
小田雅久仁(おだまさくに)も2023年に初読みだった作家。なんだか、日本ファンタジーノベル大賞っぽい作風だな?と思ってたら、やっぱり日本ファンタジーノベル大賞出身の方であった。三編の作品を集めた作品集。なんともいえない、余韻を残す印象的な物語ばかり。本作は、吉川英治文学新人賞と日本SF大賞を受賞。小田雅久仁のブレイク作品となった。
爆弾/呉勝浩
呉勝浩『爆弾』#読了
— ぬぬに@毎晩20時🕗本感想ブログ更新 (@nununi) April 12, 2023
2023年版「このミス」国内編第1位作品
読み始めたら止まらない〜
都内で起きた爆発事件。早々に確保された容疑者は、第二、第三の事件を仄めかす
息詰まる取調室での密室劇と、爆弾探しに奔走する現場の警察官たち。
容疑者の男の不気味なまでの存在感。無敵の人感が強烈。 pic.twitter.com/YhEfCZcPBR
スズキタゴサクの得体の知れなさが最高。犯人VS刑事。取調室での息詰まる戦い。物語のかなりの部分を取調室のシーンに費やしていて、ただならぬ心理戦に読む側のテンションも上がっていく。サスペンスミステリとしては出色の完成度で、2023年版の「このミス」国内編では第一位に輝いている。映像化されそうな気がするので、今後に期待。
王朝奇談集/須永朝彦・編訳
須永朝彦編訳『王朝奇談集』#読了
— ぬぬに@毎晩20時🕗本感想ブログ更新 (@nununi) May 18, 2023
「日本霊異記」「今昔物語」「大鏡」「古事談」「宇治拾遺物語」等など、王朝時代の説話集から、不思議な話、奇妙な話、クスっと笑ってしまう話まで、筆者独自のセンスで選び抜かれた82編を収録。
これ、メッチャ、おーもーしーろーい~ pic.twitter.com/LQDEuLDv3L
王朝時代に書かれた説話集の中から、選り抜きのエピソード82本を須永朝彦(すながあさひこ)ならではのセンスで現代語訳した作品集。よくぞこれだけ変な話を拾い集めてきたものだと、筆者の取捨選択の妙に驚かされる。各作品は長くても10頁程度と、気軽に読めるので、スキマ時間読書にも最適。同様の趣旨でピックアップされた『江戸奇談怪談集』も出ているようなので、今年はこちらも読むつもり。
ねじの回転/ヘンリー・ジェイムズ
ヘンリー・ジェイムズ『ねじの回転』#読了
— ぬぬに@毎晩20時🕗本感想ブログ更新 (@nununi) November 16, 2023
ヴィクトリア朝時代のイギリス。曰く付きのお屋敷。住み込みの家庭教師として働くことになったヒロインが遭遇した怪異。
ラスト、抜群の切れ味と、複数の解釈を許容する懐の深さ。再読したいので次は他の訳で試してみるつもり。 pic.twitter.com/Plm5lgReIE
ここからは外国文学編。
『ねじの回転』はよく聞くお話ながら、いちども読んだことがなかったので、昨年ようやく手に取った次第。250頁程度と、外国文学としては短めのボリュームなので、手に取りやすい作品だと思う。英国の片田舎にある古いお屋敷。孤独なヒロイン。訳アリの美しい兄妹。ヘンリー・ジェイムズならではの、複数の解釈を許す曖昧な筆致が、読者の想像力を刺激する(もやもやする読後感ではあるのだけど)。
停電の夜に/ジュンパ・ラヒリ
『停電の夜に』#読了
— ぬぬに@毎晩20時🕗本感想ブログ更新 (@nununi) March 16, 2023
インド系アメリカ人、ジュンパ・ラヒリのデビュー作。
夫婦の間の微妙な感情。インドに残った者とアメリカで生きることを決めた者との超えがたい温度差。異国で移民として生きること。
言語化しにくい、モヤモヤとした想いを、的確に物語化する能力の高さに驚かされる一冊。 pic.twitter.com/HPevE64iw2
インド系アメリカ人、ジュンパ・ラヒリのデビュー作にして代表作。2000年のピューリッツァー・フィクション賞を受賞。インドとアメリカ。ふたつの国を出自とする移民二世でなければ持ちえない、独特の価値観が作品には強く滲み出ている。日本人の目線で読むと、未知の世界の情景や、人々の考え方の相違など、新鮮な気持ちで読むことができた。
ナイフ投げ師/スティーヴン・ミルハウザー
『ナイフ投げ師』#読了
— ぬぬに@毎晩20時🕗本感想ブログ更新 (@nununi) April 21, 2023
アメリカ人作家スティーヴン・ミルハウザーの第三短編集。
とある遊園地の栄枯盛衰や、デパートの改装後の様子、謎の街の生態とか、人間メインではなく架空の歴史事象をつぶさに綴っていく不思議な物語の数々。
読むとだんだんクセになってくる。他の作品も読んでみよう。 pic.twitter.com/NO5mQqLXAB
スティーヴン・ミルハウザー面白い!知らない街のデパートがあれこれ改装されていく話が延々と書かれていたりする。これ小説なの?なんだこれ?と読者を混乱にたたき込む、めくるめく「架空史」の世界。それでいて「月の光」みたいな、エモーショナルで美しい話もあったりして、底知れぬ作風の奥深さを感じる。今年も継続して読む。
ハイファに戻って/太陽の男たち/カナファーニー
ガッサーン・カナファーニー『ハイファに戻って/太陽の男たち』#読了
— ぬぬに@毎晩20時🕗本感想ブログ更新 (@nununi) December 9, 2023
作者はパレスチナ人で、若くして爆殺された人物。パレスチナ難民の姿を綴った作品集。
住む場所がない。職もない。移動の自由がない。常に生命が脅かされている。行間から無常感、怒り、悲しみが強烈に滲み出ていて圧倒される。 pic.twitter.com/k9pQmMa7EP
パレスチナを代表する作家のひとりガッサーン・カナファーニーの作品集。イスラエルの独立によってどれだけのパレスチナ人が故郷を追われ難民となったのか。そして各地で弾圧され、虐殺されてきたのか。いかに、わたしたちがパレスチナ問題に無知であったかを気付かせてくれる。永らく絶版状態だったが、昨今の世界情勢を踏まえ、再版されているのでこの機会に是非。