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『イクサガミ 地』今村翔吾 明治のバトルロワイアル「蟲毒」、侍たちの最後の戦い

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「イクサガミ」の第二巻が登場!

2023年刊行作品。講談社の小説誌「小説現代」の2022年4月号に掲載された「壱ノ章 仏性寺弥助」に、残りの八章分を書き下ろしで追加して上梓された作品。

2022年の『イクサガミ 天』に続く、「イクサガミ」シリーズの第二巻となる。天→地と続いてきたので、次は「人」であり、これが最終巻になるのではないかと思われる。毎年一冊ペースみたいだから、『イクサガミ 人』は2024年中の発売だろうか。

イクサガミ 地 (講談社文庫)

表紙イラストは前巻に続いて石田スイが担当。今回は双葉?

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

バトルロワイアル系のお話が気になる方。幕末~明治前半にかけての日本史がお好きな方。伝奇小説、剣と剣の戦い、能力バトル系の作品を読みたいと思っている方。今村翔吾によるエンタテイメント作品を堪能したい方におススメ。

あらすじ

幕末を生き延びた剣豪たちが、殺し合いを続けながら、一路、東京を目指す。その最中、愁二郎の隙を衝き、双葉を攫ったのはかつての兄弟弟子、祇園三助だった。逃れられぬ京八流継承者の宿命。そして継承者候補をつけ狙う、朧流の遣い手岡部幻刀斎。新たな敵、そして見えてきた「蟲毒」の主催者とその真の目的。愁二郎と若葉は、果たして生き残ることが出来るのか。

ここからネタバレ

続々と強キャラが登場

「イクサガミ」第二巻の「地」は450頁の大長編。中間巻ってことで、ちょっとは中弛みするかしら?なんて心配したりもしたのだけれど、それは全くの杞憂に終わり、今回も圧倒的なスピード感と、巧みなストーリーテリングで読者を飽きさせない。エンターテイメント作家としての今村翔吾、熟練の筆って感じがする。

第二巻に入っても、次々と魅力的なキャラクターが登場する。本巻で気になったのはこちらの皆さん

  • 岡部幻刀斎(おかべげんとうさい):朧流(おぼろりゅう)の遣い手。京八流の継承を監視
  • 仏性寺弥助(ぶっしょうじやすけ):長州側の剣客
  • 仏性寺刀弥(ぶっしょうじとうや):弥助の子
  • 狭山進次郎(さやましんじろう):元御家人。無類のガンマニア
  • 秋津楓(あきつかえで):会津藩婦女(娘子)隊出身
  • ギルバート・カペル・コールマン:元英国軍人。クリミア戦争、南北戦争に従軍 
  • 桐野利秋(きりのとしあき):旧名、中村半次郎(人斬り半次郎)。西南戦争で死んだはずだったが……

「天」で登場していた怪しい老人が、やはり岡部幻刀斎であることが判明。強さ的にはラスボス級と思われる。仏性寺弥助は既に個人だが、息子の刀弥に凄みを出させるために出てきたキャラかと想像。刀弥が、今後本編にどう絡んでくるのかが気になる。狭山進次郎も前巻から出ていたキャラだけど、当初のちょい役レベルのポジションから、今回の中盤以降でにわかに存在感を増した。元御家人なのに異常なまでのガンマニア。ただものではないような気がする。新登場の秋津楓とギルバートもキャラが立っていて良いね!そして、まさかの桐野利秋の登場。ラスボスは幻刀斎ではなくこっちのほうかもしれないね。

京八流の奥義をまとめた

「イクサガミ」を伝奇バトルっぽく見せているのは、京八流の奥義の数々だろう。一子相伝の京八流には八つの奥義がある。それは八人の弟子に一つずつ継承されているが、京八流の真の継承者になるには兄弟弟子全てを倒して奥義を奪わなければならない。

八つの奥義はこちら。

  • 北辰(ほくしん):相手の攻撃を予測する
  • 武曲(ぶきょく):攻防一体の足技
  • 禄存(ろくぞん):地獄耳。自身の音も消すことが出来る
  • 破軍(はぐん):武器破壊
  • 巨門(きょもん):筋肉を硬化させる防御系の奥義
  • 貪狼(とんろう):不明
  • 廉貞(れんじょう):一時的に身体能力を飛躍的に高める呼吸法
  • 文曲(ぶんきょく):攻撃の軌道を曲げる奥義

「地」終了時点での奥義継承状況は以下の通り。

  • 嵯峨愁二郎(さがしゅうじろう):北辰・武曲
  • 化野四蔵(あだしのしくら):破軍・巨門・廉貞
  • 蹴上甚六(けあげじんろく):貪狼
  • 衣笠彩八(きぬがさいろは):禄存・文曲

各奥義には相性のようなものもあって、同時には繰り出せないものがある。岡部幻刀斎が化け物じみた強さを発揮している中、京八流の面々がいかに共闘し、奥義をうまく使って対峙していくのかに期待したい。

意外なラスボスの登場?

「地」の終盤では「蟲毒」を主宰していた意外な人物が明らかとなる。なんと日本警察の創設者として知られる川路利良(かわじとしよし)の登場である。薩摩閥でありながら西郷の西南戦争には与せず、大久保利通の暗殺まで企てるダークな川路像がちょっと新鮮。創設間もない、日本警察(警視局)と、逓信省(駅逓局)が対立構造にあったとする設定も面白い。ラストのド派手な浜松バトルは熱かった。

そしてまさかの登場を果たすのが、史実では西南戦争で死んだことになっている桐野利秋だ。幕末の著名人物は説明不要で強キャラとして出して来れるから便利だな。京八流の三つの奥義を持っている四蔵ですら互角以下の戦いしか出来ないみたいだし、岡部幻刀斎と並んで、これから厄介な敵になっていきそうだ。

『イクサガミ 地』までの進行状況

前回同様に、最後にこれまでの「蟲毒」進行状況(生き残り人数)をまとめておこう。()内の数字はチェックポイントの通過に必要となる札の数ね。

  • 第1チェックポイント/天龍寺の総門(2):292人⇒129人
  • 草津:115人
  • 鈴鹿峠:101人
  • 第2チェックポイント/関(3):91人
  • 宮:84人
  • 鳴海:76人
  • 戦人塚:68人
  • 第3チェックポイント/池鯉鮒(5):54人
  • 赤坂/御油間:35人
  • 第4チェックポイント/浜松(10):28人
  • 第5チェックポイント/島田(15):次巻以降到着
  • 第6チェックポイント/箱根(20):次巻以降到着
  • 第7チェックポイント/品川(30):次巻以降到着

四蔵が先に東京に入ってしまい、響陣が富士山麓に向かったりと、各人が別行動になってきたので島田、箱根、品川はスルーされちゃうのかな?そのあたりは次の「人」で明らかになるだろう。

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