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『近畿地方のある場所について』背筋 見つけてくださってありがとうございます。

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2023年刊行作品。作者の背筋(せすじ)は、KADOKAWAの小説投稿サイトカクヨムを中心に活躍している作家。年齢、性別、属性などは一切公開されていない覆面作家だ。本作『近畿地方のある場所について』がデビュー作ってことでいいのかな?

近畿地方のある場所について

KADOKAWAのトピックス記事はこちら。

カクヨムではホラー小説ジャンルとしては驚異的なPV数をたたき出し、1600万PVを突破。読書好日の記事によれば10月末時点で4刷8万部を突破しているとのこと。書店でも平積みされまくっているので、ご覧になったかも多いのでは?真っ赤な表紙もインパクトがあるよね。

Webメディア発の小説は書籍版が刊行されると、ネットの方は非公開になる場合が多いけど、本作の場合依然としてカクヨムで読めるようなので、すぐ読みたい方はそちらもおススメかと。

紙の書籍版では、『近畿地方のある場所について』応援店にて、作中に登場する「呪いのシール」が配布されている(嬉しくない~)。

『近畿地方のある場所について』応援店配布「呪いのシール」

『近畿地方のある場所について』応援店配布「呪いのシール」

巻末には袋とじもついていてカクヨム版とは差別化を図っているようだ。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★★(最大★5つ)

とにかく怖い話を読んでみたい。そして後悔したい。夜眠れなくなりたい。嫌~な読後感に苦しめられたいと思っている方。近畿地方に憧れと、畏怖を覚えている方。近畿地方に現在お住まいの方。いま話題のホラー作品を読んでみたいと思っている方におススメ!

あらすじ

オカルト系ライターの私は、年下の友人である編集者の小沢と、とある怪異の謎を追いかけることになる。過去に発表された怪談記事や、ネットで語られる噂話。数多の情報の中に見え隠れする「近畿地方のある場所」とはどこなのか?次々に消えていく関係者たち。この場所に秘められたおぞましい秘密とは何なのか?

ここからネタバレ

モキュメンタリー形式が怖い

『近畿地方のある場所について』はモキュメンタリー形式で書かれたホラー小説だ。モキュメンタリー形式とは、Wikipedia先生によるとこんな意味。

モキュメンタリー(英: mockumentary)は、映画やテレビ番組のジャンルの1つで、フィクションを、ドキュメンタリー映像のように見せかけて演出する表現手法である。モキュメンタリーは擬似を意味する「モック」と、「ドキュメンタリー」を合成したかばん語であり、「モックメンタリー」「モック・ドキュメンタリー」ともいう。

モキュメンタリー - Wikipediaより

小野不由美の『残穢』や、雨穴の『変な家』的なアプローチと言えばわかりやすいだろうか。

本作は34の章で構成されている。オカルト雑誌の記事であったり、ネットの書き込み、読者からの投稿、インタビューのテープ起こし、そして作者自身の独白など、さまざまなスタイルの記事が混在している。

どうやら近畿地方のとある場所では、異常な事態が発生しているらしい。34のエピソードを読み解いていくうちに、次第に事象の解像度があがっていく趣向となっている。

近畿地方が怖くなる

最初に書いちゃうけど、近畿地方にお住いの皆さんごめんなさい。

東京に住んでる人間としては、やっぱり近畿地方ってちょっと畏怖を感じてしまう地域だったりするのだ。何しろ歴史が古い。とてつもなく古い。道を歩けば史跡にあたるし、周囲を見渡せばそこかしこに古墳がある。ことばや文化も東とは異なるし、積み重ねてきた歳月の重みが違う。わたしは日本国内、ほぼすべての都道府県を訪れた経験があるのだけれど、近畿地方は「濃さ」が他の地域とは如実に違うと思うのだ(ちなみにホラー作品的に近畿地方の怖さは三津田作品で思い知らされた)。

『近畿地方のある場所について』は、そんな非関西民の、近畿地方に対しての畏敬の念によって更に怖さがブーストされているのではないか。そんな風にも感じてしまう。逆に近畿地方にお住いの方が、本作を読んでどう感じているかは気になるところかな。作中の描写からある程度、場所の見当がついてしまうはずで、よりリアリティをもって恐怖を体感できたりするのかもしれない。土地勘を持ってこの作品を読むと、怖さは倍増するはず。

知られてこその怪異

本作の事件の発端となった場所は、近年過疎化が進み、人々から忘れられようとしている土地だ。古い歴史を持ち、脈々と受け継がれてきた伝承や怪異も、それを知る人がいなければ失われてしまう。怪異、そして神はあくまでもそれを信じ、敬い、畏れる人間がいてこその存在だ。どんなに力を持ったものでも、それを知る人が誰もいないのでは、存在しないことと同じだ。忘却は時として死を意味する。

故に本作で取り扱われる怪異は自らの存在を知らしめようとする。その存在に魅入られた人間を操り、その情報を拡散し、広めようとするのだ。知られてこその怪異。怪異を語ることはその存在を認め、その生き残りに加担していることになる。このおぞましい怪異は、わたしたちがこうして知り、語り、話題にしていくことで命脈をつないでいくことになる。

見つけてくださってありがとうございます。

この言葉は。本作で繰り返し登場するキーワードだ。怪異は見つけられることで拡散し、次代に命を繋いでいく。そう考えるとこの言葉に恐怖だけではない、哀しみのような感情も見えてきてしまうのだが、それは考え過ぎだろうか。

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