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『ノッキンオン・ロックドドア』青崎有吾 不可能専門&不可解専門、個性の異なる二人の探偵が謎を解く

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ノッキンオン・ロックドドアシリーズの一作目

2016年刊行作品。徳間書店の小説誌「読楽(どくらく)」に2014年~2015年にかけて掲載されていた作品に、書下ろし一編を加えて単行本化したもの。青崎有吾(あおさきゆうご)のシリーズものとしては、裏染天馬シリーズ、アンデッドガール・マーダーファルスシリーズに続く、第三のシリーズになる。ちなみに英語タイトルは『 KNOCKIN'ON LOCKED DOOR』(そのまんまだ)。

表紙イラストは有坂(ありさか)あこによるもの。

徳間文庫版は2019年に刊行されている。解説は杉江松恋(すぎえまっこい)が担当している。

ノッキンオン・ロックドドア (徳間文庫)

徳間書店による特設サイトはこちら。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

二人の探偵キャラが対等な立場で、それぞれの持ち味を発揮して事件の謎に迫っていくタイプの作品を読んでみたい方。手軽に読める、連作短編形式の本格ミステリを探していた方。ドラマ化前に原作の内容を把握しておきたい方におススメ。

あらすじ

完全な密室状態で発見された他殺遺体。容疑者の全員が堅固なアリバイを持っている。そんな「不可能」犯罪の解明を得意とする御殿場倒理。そして、被害者が残したダイイングメッセージや意図の分からない遺留品など「不可解」な謎を推理するのが得意な片無氷雨。二人がコンビを組む探偵事務所ノッキンオン・ロックドドアには、奇妙な事件ばかりが持ち込まれる。

ここからネタバレ(ドラマ版もネタバレ!)

主要登場人物一覧

最初にメインとなる登場人物をまとめておこう。

  • 御殿場倒理(ごてんばとうり):探偵事務所ノッキンオン・ロックドドア所属。「不可能」専門の探偵。巻き毛と黒のタートルネックの男。言動に配慮を欠く場合も
  • 片無氷雨(かたなしひさめ):探偵事務所ノッキンオン・ロックドドア所属。「不可解」専門の探偵。常にスーツを着用する地味眼鏡キャラ。助手に間違われがち
  • 穿地決(うがちきまり):御殿場、片無と大学のゼミで同期。警部補。駄菓子が好き
  • 薬師寺薬子(やくしじくすりこ):探偵事務所ノッキンオン・ロックドドア所属でアルバイトをする女子高生
  • 神保剽吉(じんぼうひょうきち):探偵事務所に依頼を持ちこむ斡旋業の男
  • 糸切美影(いとぎりみかげ):御殿場、片無、穿と大学のゼミで同期。犯罪者

対称的な性格の二人の探偵が織り成すバディもの

探偵事務所ノッキンオン・ロックドドア(これは事務所の名前である)には、御殿場の趣味によって、インターフォンもドアチャイムもノッカーもない。よって、依頼人はドアをノックするしかない。このドアをノックする時の叩き方で、御殿場は依頼人の特徴が推理できると嘯く。

この探偵事務所には二人の探偵、御殿場倒理と片無氷雨が所属している。御殿場は密室などの「不可能(How)」犯罪を解くのが専門。一方で、片無は遺留品の謎など「不可解(Why)」犯罪を解くのが専門。といった住み分けになっている。御殿場の性格は傍若無人で人の心がわからない系。かたや、片無は生真面目で空気の読める男。

正反対とも言える性格の二人が、どうしてバディを組んでいるかは謎だが、本作ではこの凸凹コンビが、次から次へと持ち込まれる難事件を、お互いの長所を生かしながら解決していくスタイルとなっている。

以下、各編ごとにコメント。

ノッキンオン・ロックドドア

初出は「読楽」2014年10月号。

密室状態で発見された画家の他殺死体。現場には画家の描いた絵が散乱しており、しかもそのうちの一枚は真っ赤に塗りつぶされていた。犯人はいかにして犯罪を成し遂げたのか。そして赤く塗られた絵の秘密とは。

今回の事件の関係者はこちら。

  • 霞蛾英夫(かすみがひでお):画家。今回の被害者
  • 霞蛾水江(かすみがみずえ):英夫の妻。今回の依頼人
  • 霞蛾竜也(かすみがりゅうや):英夫と水江の息子。美大生
  • 三越(みつこし):英夫と懇意にしていた画商

視点人物は片無氷雨。犯行現場が密室ということで、どちらかというと御殿場向きの事件?と、思わせておいて片無にも活躍の場が与えられており、二人の探偵が競い合いながら謎を解いていくスタイル。この二人のやりとりが面白いね。

ヒロイン(なのかなあ?)の穿地決は、大学では、御殿場と片無とゼミの同期生。警察に奉職しており階級は警部補。事件の部外者を、現場に入れちゃったり、情報をガンガン外部に流しちゃってるけどいいの?って、そこはツッコんではいけない世界観なのだと思う。穿地は駄菓子マニアで、現場ではいつも何かしら食べている(これもいいのか?)。今回登場するのはシャンペンサイダー餅である。この食べ物とは思えない毒々しい青色が懐かしい!

ドラマ版ではあろうことか穿地さんが駄菓子を食べない!!ショック……。犯人に謎のバスケ歴属性が付与されていたり、母親役に高畑淳子を起用しただけあって、+αの仕込みが入り、より闇の深いオチになっている。これは良いね。あと、序盤から天川先生が出てくるのも、渡部篤郎クラスを起用してしまった故の配慮かな。

髪の短くなった死体

初出は「読楽」2014年12月号。

劇団員の女が、稽古場で殺害される。死因は絞殺。なぜか犯人は被害者の長い髪を切断し、しかもそれを現場から持ち去っていた。容疑者は三名の団員に絞られるが、果たしてなぜ、犯人は髪を切る必要があったのか?

今回の事件の関係者はこちら。

  • 善田ミカ(ぜんだみか):劇団キクラゲの役者。今回の被害者
  • 西辺憲(にしべけん):劇団キクラゲの役者。遺体の第一発見者
  • 古井戸さわ子(ふるいどさわこ):劇団キクラゲの役者
  • 奥寺幸次(おくでらこうじ):劇団キクラゲの役者。被害者の交際相手
  • 小坪清太郎(こつぼきよたろう):穿地の部下。

視点人物は御殿場倒理。前の話とは逆で、片無向けの事件かと思わせておいて、実は御殿場向けの案件だったという内容。御殿場は基本的に失礼な奴なので、死者に対しての礼や敬意を書いており、読んでいてちょっともやもやする。

ちなみに穿地が食べているのは宮田製菓のヤングドーナツではないかと思われる。

ダイヤルWを廻せ!

初出は「読楽」2015年3月号。

亡き祖父の残した金庫の鍵を開けて欲しい。暗号を残して死んだ祖父の意図はどこにあるのか。そして謎の死を遂げた父親、事件の犯人を見つけて欲しいと依頼する女。二つの事件は意外なところで繋がっていて……。

今回の事件の関係者はこちら。

  • 長野崎仁志(ながのさきひとし):依頼人。祖父の残した金庫を開けて欲しいと依頼
  • 島津奈津子(しまざきなつこ):依頼人。父親の死の謎を解いて欲しいと依頼
  • 川藤晴雄(かわふじはるお):長野崎仁志の叔父

御殿場と片無、それぞれの視点で物語が進行する。バディものの特性を上手く活かしたお話。二人の依頼人が登場し、まったく別の事件かと思わせておいて、実は根っこは繋がっていたという構成。

今回登場した駄菓子は、あまりに有名なうまい棒である。ちなみにわたしは、めんたい味が好き。

チープ・トリック

初出は「読楽」2015年4月号。

個人情報流出事件を起こした会社の、悪名高い役員が狙撃され殺害される。警戒心が強く、襲撃を予期していた被害者は、いかにして殺害されたのか。事件の背景には、御殿場、片無、そして穿地とも関係のある過去の因縁が横たわっていて……。

今回の事件の関係者はこちら。

  • 湯橋甚太郎(ゆばしじんたろう):大手通信教育企業、花輪ゼミの役員。被害者
  • 湯橋佳代子(ゆばしかよこ):甚太郎の妻
  • 近衛(このえ):湯橋家のメイド

視点人物は片無氷雨。狙撃の可能性を考慮し、自宅に引きこもり、窓側にも出ないようにしていた被害者。にもかからず、彼は心臓を正確に撃ち抜かれて絶命していた。

タイトルにもなっている「チープ・トリック(Cheap Trick)」は実在するアメリカのロックバンド。作中に登場した「今夜は帰さない(Clock Strikes Ten)」はこんな曲。

御殿場、片無、穿地と、大学(天川ゼミ)で因縁があったらしい糸切美影が登場するも、当時の因縁の詳細は明らかにされない。「フルハウス」事件って何なんだよ!

駄菓子大好き、穿地さん。今回、登場したのは明治チューインガムのガブリチュウ。これ知らなかった。ハイチュウ(こちらは森永製菓)とはまた違うんだね。

いわゆる一つの雪密室

初出は「読楽」2015年11月号。

岩手県の山奥にある研磨工場。社長と従業員二人だけの小さな会社で起きた殺人事件。被害者である社長は、雪の中で息絶えていた。雪に閉ざされた密室で、果たしていかにして犯行は行われたのか?

今回の事件の関係者はこちら。

  • 茂呂田勝彦(もろたかつひこ):研磨工場の社長。今回の被害者
  • 茂呂田俊彦(もろたとしひこ):勝彦の弟
  • 与島哲史(よじまてつし):勝彦の会社の従業員。第一発見者
  • 大友盛夫(おおとももりお)勝彦の会社の従業員

視点人物は御殿場倒理。神保の斡旋で、岩手まで行くのはいいとしても、この事件の依頼人って誰??お金もらえるの?これ、そもそも仕事として成り立っているのか?なんで現場に警察が居ないの?謎は尽きないのだが、こういうところに突っ込んではいけないのだろうなあ。

十円玉が少なすぎる

初出は「読楽」2015年12月号。

「十円玉が少なすぎる。あと五枚は必要だ」。この言葉を発した男は、十円玉を何に使うつもりだったのか?どうして十円玉なのか。何故あと五枚必要なのか。何気ない一言から、意外な事件の真相が明らかになっていく。

今回は事務所の中だけで完結する、現場に行かない安楽椅子探偵ものである。

視点人物は、探偵事務所の女子高生アルバイト薬師寺薬子。炊事洗濯、掃除に買い物と家事全般を担当。って、探偵事務所のバイトというよりは、ハウスキーパー的なお仕事。というか、この二人、ここに住んでるのかな?

ノッキンオン・ロックドドアで、薬子ちゃんと雇うだけの利益が出ているのか謎だけど、女性キャラの少ない作品だから、華を添えるキャラは必要だったのだろうと推測。

なお、事務所に泊まりに来た穿地さんが持ってきた駄菓子、蒲焼きさん太郎はこちら。

限りなく確実な毒殺

書下ろし作品。

高級ホテルのパーティ会場で元代議士が毒殺される。犯人はどうやって、被害者に毒の入ったグラスを取らせることが出来たのか。事件の裏には、またしても「あの男」が関与しているようで……。

今回の事件の関係者はこちら。

  • 外様寛三(とざまかんぞう):元衆議院議員。今回の被害者
  • 浦和(うらわ):外様の秘書
  • 川岸(かわぎし):ホテルの給仕係
  • 香山(かやま):ホテルの給仕係

視点人物は片無氷雨。今回も糸切美影関連の事件。ロックバンド「チープ・トリック」の楽曲「バステッド(Busted)」が登場する。マジシャンズセレクトとは「自分で選んだつもりでも実は誘導されている」という手口。

終盤の突然のBL展開に驚かされる。あれ、そういう話なの??

ちなみに作中に登場した五円チョコはこちら。正しい商品名は「ごえんがあるよ」。これも懐かしいな。

テレビ朝日系列でドラマ化

ちなみに『ノッキンオン・ロックドドア』は、2023年7月よりテレビ朝日系列でドラマ化が確定している。メイン監督は堤幸彦で、脚本は浜田秀哉が担当。

キャストはこんな感じ。

  • 御殿場倒理:松村北斗(まつむらほくと) ※SixTONES
  • 片無氷雨:西畑大吾(にしはただいご) ※なにわ男子
  • 穿地決:石橋静河(いしばししずか)
  • 薬師寺薬子:畑芽育(はためい)

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