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『アンデッドガール・マーダーファルス1』青崎有吾 怪物専門の探偵“鳥籠使い”が謎を解く

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「アンデッドガール・マーダーファルス」シリーズの一作目

2015年刊行作品。書下ろし。作者の青崎有吾(あおさきゆうご)は1991年生まれのミステリ作家。本作は裏染天馬シリーズに続く、青崎有吾としては第二のシリーズ作品。講談社のライト文芸レーベル、講談社タイガからのリリースだった。表紙イラストは大暮維人(おおぐれいと)が担当している。

アンデッドガール・マーダーファルス 1 (講談社タイガ)

ラインナップは以下の通り。

「アンデッドガール・マーダーファルス」シリーズは、2023年7月よりフジテレビの『+Ultra』枠他でのアニメ版放映が確定している。

アニメ版のサイトは、トップ絵がいきなりネタバレなので、未読の方は注意。

TVアニメ『アンデッドガール・マーダーファルス』公式サイト

わたし的には静句ちゃんのビジュアルを、大暮維人タッチに寄せなかったアニメ版のキャラデザが謎でしかない。何故変えたし!

ちなみにタイトルにある「ファルス」とはこんな意味。

笑劇(しょうげき、farce: 英語よみ:ファース、フランス語よみ:ファルス、道化芝居とも訳される)とは、観客を楽しませることを目的とした、演劇または映画のために書かれた喜劇の1形態。

笑劇 - Wikipediaより

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

19世紀末のヨーロッパを舞台としたミステリ作品を読んでみたい方。不死の存在、吸血鬼や人造人間が登場。伝奇要素が強めのミステリがお好きな方。特殊設定のミステリが好物の方。アニメ版が気になって、原作も押さえておきたいと思っている方におススメ。

あらすじ

19世紀。科学文明が発達し、古きものたち、異形の存在は世界から駆逐されていく。「怪物一掃」が進められている欧州世界で、吸血鬼や人造人間たち、人外の存在は次第に行き場を失っていく。「怪物専門の探偵」を名乗る、輪堂鴉夜、真打津軽、馳井静句の三人は、“鳥籠使い”として各地で起こる怪物に関する事件を解決していく。しかし彼らには真の目的があって……。

ここからネタバレ

主要キャラクターはこの三人

まず最初に“鳥籠使い”一行の皆さんを確認しておこう。

  • 輪堂鴉夜(りんどうあや):怪物専門の探偵。不死の存在にして絶世の美女。とある事情で生首だけの存在となっている。鳥籠に収納されて静句に運搬される。
  • 真打津軽(しんうちつがる):鬼殺し。怪異を殺す力を持つ。半人半鬼の存在
  • 馳井静句(はせいしずく):鴉夜に仕えるメイド。高い戦闘力を誇る

彼らにはまだまだ多くの秘密が隠されているようだけど、本巻はまだ序盤ということで、明かされない設定が多数ある様子。

以下、各編ごとにコメント

序章 鬼殺し

10ページにも満たないプロローグパート。真打津軽、輪堂鴉夜にスカウトされるの章。この時点では、鴉夜は鳥籠には入っておらず、風呂敷包にくるまれているところがちょっとかわいい。薄暗い月明かりの中で、露わになる鴉夜の生首。キメのセリフ「私を殺してくれ」もしっかり決まって、導入パートとしては満点。

アニメ版ではこの、原作では数ページしかない部分を膨らませて第一話としており、その分、作品の全体像がちょっとわかりやすくなったかな。説明シーンが多いので単調が画面になるかと思ったけど、演出でうまく見せていて飽きない絵面になっていた。

第一章 吸血鬼

舞台は1898年のフランス。このパートの登場人物はこんな感じ。

  • ジャン・ドゥーシュ・ゴダール:吸血鬼。人類との共存を望む「人類親和派」
  • ハンナ・ゴダール:吸血鬼。ゴダールの妻。元人間
  • クロード・ゴダール:吸血鬼。ゴダールとハンナの長男
  • ラウール・ゴダール:吸血鬼。ゴダールとハンナの次男
  • シャルロッテ・ゴダール:吸血鬼。ゴダールとハンナの娘
  • アルフレッド:ゴダール家の執事
  • ジゼル:ゴダール家のメイド
  • アニー・ケルベル:パリの新聞社の記者

この物語では、人類だけではなく怪物が当たり前のように存在している設定となっている。しかし人類勢力が伸長する一方で、能力は高いものの絶対数の少ない怪物側は劣勢に回っている。本章に登場するゴダールは生き残り策として人類との共存を望んでいる。しかし人類側、怪物側それぞれに、共存を望まない勢力が存在する。

不死であるはずの吸血鬼が殺害されてしまう。不死のはずの吸血鬼はいかにして殺されたのか。驚異的な生命力を誇る吸血鬼にも弱点はある。それは銀製品や聖水に弱いこと。限定された状況下で、誰が吸血鬼を殺すことが出来たのかという展開。吸血鬼のような異能者が存在する特殊設定ミステリ。だが、ミステリ的にはあくまでもロジカルに謎は解決されていく。顔見せの第一話だけあって、真打津軽の鬼殺しの能力は圧倒的でその無双ぶりが気持ちいい。

章の後半部分では輪堂鴉夜と真打津軽の秘密の一端が明らかとなる。九百四十七年間、十四歳と三か月のまま不死の存在であり続けている輪堂鴉夜。そんな彼女は半年前に首から下を失ってしまう。そして元は人間でありながら、怪異を殺せる鬼の力を植え付けられた真打津軽。彼らが現在の状況に陥った元凶は、正体不明の謎の異国人にありそう。今後はこの謎の異人をふたりが追いかける展開になるのかな。

アニメ版では第2話~第4話までが「吸血鬼」エピソードに充てられている。アニメでは単調になりがちな推理パートも、演出を工夫していて、飽きさせず、なおかつわかりやすい見せ方になっていて、さすがと感じた。

第二章 人造人間

舞台は1898年のベルギー。このパートの登場人物はこんな感じ。

  • ボリス・クライヴ:人造人間の研究に明け暮れる研究者。
  • リナ・ランチェスター:ボリス博士の助手
  • ヴァン・スローン:ボリス博士の指示で死体を調達していた男
  • ヴィクター:ボリス博士が生み出した人造人間
  • グリ警部:ベルギー警察の警部

人造人間ヴィクターが誕生したその場所で、生みの親であるボリス・クライヴ博士が殺害されていた。密室状態の状況下でいったい誰が、何のために博士を殺したのか。ベルギー警察、灰色の脳細胞、連発される「モナミ」のセリフ。グリ警部はどう考えてもエルキュール・ポアロだろ。って、アガサ・クリスティの死後から70年が経過していないから、そのまんまだと著作権的に使えないってことね。

ともあれ、輪堂鴉夜と真打津軽を、同時代に活躍した名探偵と共演させていくスタイルは魅力的!ボリス・クライヴが、かつてはフランケンシュタイン博士によって生み出された怪物自身だったという設定も面白かった。

真打津軽に与えられた鬼の力は圧倒的だが、その能力を発揮すればするほど、人間の部分を鬼に奪われていく。やがては彼の人格は鬼に呑まれてしまう。悲惨極まりない状況下でも「どう死んだら面白いかを考えて芸人をやっていた」と嘯く、この男のメンタルの危うさが気になる。どうしてこうなった?

不死者、輪堂鴉夜の体液は、そんな真打津軽の鬼化を遅らせる効果があるようで、定期的に唾液の摂取が必要らしい(なにそれ、素敵!)。全然関係ないけど、唾液で始まるラブロマンスといえば植芝理一の『謎の彼女X』を思い出すね。

大ラス。孤独な存在となったヴィクターが敵対勢力である「教授」一味に合流。配下のカーミラ、アレイスター、ジャックの三人が登場。この五人との戦いが、今後、お話の中心になってくるのかな。19世紀末の探偵小説世界で「教授」といえは、あの人だよねね。となると、ライバルキャラのあの名探偵も出てきそうだな。

なお、本エピソードはアニメ化されていない。1話と2話の間に本エピソードはあった前提になっている。尺の問題か?内容的に地味だから見送られたか?

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