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『ノッキンオン・ロックドドア2』青崎有吾 御殿場倒理と片無氷雨、二人の過去が明らかに

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ノッキンオン・ロックドドアシリーズの二作目

2019年刊行作品。徳間書店の小説誌「読楽(どくらく)」に2017年~2019年にかけて掲載されていた作品と、ネット掲載されていた作品、更に書下ろし一編を加えて単行本化したもの。『ノッキンオン・ロックドドア』に続く、シリーズ第二弾である。表紙イラストは前巻同様に、有坂あこが担当している。

徳間文庫版は2022年に刊行されている。解説はミステリ作家の東川篤哉(ひがしがわとくや)が書いている。

ノッキンオン・ロックドドア2 (徳間文庫)

ちなみに表紙に登場しているクルマは日産の懐かしの名車パオ。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/1/11/Nissan_Pao_001.JPG

日産・パオ - Wikipediaより

1980年代に後半に登場。かなり昔の車種だが独特のデザインで人気のあるクルマで、普通に探すと中古でもけっこうなお値段がする。

15秒CM動画はこちら。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

個性の異なる探偵キャラがコンビを組む、バディで謎を解いていくタイプのミステリ作品がお好きな方。青崎有吾のミステリ作品に興味のある方。ドラマ版が放映される前に予習しておきたい方におススメ。

あらすじ

「不可能」犯罪専門の探偵御殿場倒理と、「不可解」犯罪専門の探偵片無氷雨がタッグを組む、探偵事務所ノッキンオン・ロックドドア。今日も二人の元には、さまざまな難事件が持ち込まれる。そして、彼らを長い間呪縛していた、大学時代の事件の謎が、遂に解き明かされる時がやってくるのだが……。

以下、各編ごとにコメント。

ここからネタバレ

穴の開いた密室    

初出は『読楽』2017年12月号。

ドアは施錠。窓は嵌め殺し。閉鎖された自宅の離れの中で殺害されていた男。これは密室殺人か!?しかし離れの壁には巨大な穴が穿たれていた。犯人はどうしてこのような状況を作り上げたのか?そして犯人は誰なのか?

今回の事件の関係者はこちら。

  • 石住茂樹(いしずみしげき):被害者
  • 石住多香子(いしずみたかこ):被害者の妻
  • 石住奈保(いしずみなほ):被害者の娘
  • 石住芳樹(いしずみよしき):被害者の弟
  • 石住健斗(いしずみけんと):芳樹の息子。被害者の甥
  • 志田(しだ):依頼人。被害者の友人

視点人物は御殿場倒理(ごてんばとうり)。密室殺人の現場に大きな穴が開いていたら?という設定が楽しい。

あんまり突っ込んではいけないのだろうけど、このシリーズ依頼人の動機?がいまいちよくわからない。探偵の相談料ってけっこうバカにならないと思うのだけど、これ払えるのかな?少し待てば警察が解決してくれたような気もするのだけど……。

駄菓子大好き、穿地さん。今回のお気に入りはキャベツ太郎。コーンを原料としたスナック菓子。これ昔、よく食べてたな。

時計にまつわるいくつかの嘘    

初出は『読楽』2018年2月号。

殺害された女性がつけていた時計は、とある時間で止まっていた。正確無比を誇る、特殊な時計が指し示しているのは真実の犯行時間なのか?

今回の事件の関係者はこちら。

  • 奥森涙(おくもりるい):塚越大悟の恋人。今回の被害者
  • 塚越大悟(つかこしだいご):インディーズ系バンド九十九インフィニティのギターボーカル
  • 水木里資(みずきさとし):奥森涙の同僚。ぬいぐるみ修理業を営む

視点人物は片無氷雨(かたなしひさめ)。まさかのお誕生日イベント。氷雨のバースディは美輪明宏(みわあきひろ)と同じとあるので、5月15日ではないかと思われる。っていうかこの二人、事務所に一緒に住んでるのね。御殿場選んだ腕時計のビジュアルを見てみたい。ドラマでは再現されるだろうか。

本編における穿地さんの駄菓子は、懐かしのチョコバット。現在はチョコバットエースという名前で売られているみたい。

穿地警部補、事件です  

初出は 『読楽』2018年7月号。

元新聞記者で、現在はニュースサイトの代表として知られる著名人が謎の死を遂げる。自殺か事故か?はたまた他殺だったのか。捜査の過程で、過去に関係があった女性が容疑者として浮上してくるのだが……。

今回の事件の関係者はこちら。

  • 武藤勢一(むとうせいいち):元新聞記者。現在はニュースサイトの代表。今回の被害者
  • 湖山小百合(こやまさゆり):容疑者。美容品メーカ勤務
  • 砂貝(すながい):参事官。穿地の叔父。

視点人物は穿地決(うがちきまり)。穿地さんが、警察の中でも暗然たる勢力を誇る大派閥、砂貝一族の係累であることが明らかになる。警察一家なんだねこの人は。女性の味方ではなく正義の味方でありた。そんな彼女の信条が明らかになる一編。

今回の駄菓子は「くるくるぼーゼリー」。複数のメーカーからいくつか商品が出ているみたい。毒々しい原色がいかにも駄菓子って感じ。

そして本編では駄菓子がもう一つ。梅ジャム懐かしい!

消える少女追う少女    

初出は『読楽』2019年2月号。

親友の目の前で消えた女子高生。果たして彼女はどこに消えたのか?調査をしていく過程で、意外な真実が明らかになるのだが……。

今回の事件の関係者はこちら。

  • 高橋優花(たかはしゆうか):ミゲル女学院二年生。依頼人
  • 潮路岬(しおじみさき):鷺沢女子高二年生。失踪中
  • 本庄真琴(ほんじょうまこと):鷺沢女子高一年生。潮路岬と寮で同室
  • 八島(やしま):水泳インストラクター
  • 天川考四郎(あまがわこうしろう):春望大学教授。御殿場たちの恩師

視点人物は御殿場倒理。人からどう思われているかが気になるお年頃故の、自作自演タイプの事件。終盤では物語のキーとなる天川教授が登場。名探偵気質で、御殿場や片無らはこの人から薫陶を受けたっぽい。最後の片無のセリフ「君がいなくなったら、僕が君を追いかけるよ」が、ちょっとグッとくる。

ちなみに、今回は穿地さんが登場しなかったので駄菓子はなし。

最も間抜けな溺死体  

特設サイトに掲載(ってどこだったんだろう?)。

人気のIT企業社長が死亡した。水の張られていないプールに、誤って飛び込み頭を打って気絶。その後、水位のあがったプールの中で溺死したのだという。最も間抜けなでき死体は事故なのか、それとも仕組まれたものだったのか。

今回の事件の関係者はこちら。

  • 出光公輝(いでみつこうき):IT企業シムライフ社長。今回の被害者
  • 玉超レイア(たまこしれいあ):雑誌モデル。容疑者
  • 橋爪勇気(はしづめゆうき):映画プロデューサー。容疑者
  • 見池初男(みいけはつお):ゲーム会社社長。容疑者
  • 矢沢(やざわ):プール管理人
  • 糸切美影(いときりみかげ):御殿場、片無の大学時代の同期。犯罪プランナー

視点人物は片無氷雨。作中に登場するチープ・トリック(Cheap Trick)の「Downed」はこんな曲。

「最も間抜けな溺死体」はいかにして作られたのか。トリックというか、ネタとしては一番面白かったかもしれない。

終盤には天川教授が再登場。「解かない方がいい謎なんてこの世には存在しない」と言い放ち、御殿場、片無、穿地、糸切らを長い間呪縛してきた、とある謎について、そろそろ解決の頃合いなのではと疑問を投げかけている。

ラストシーンでは依頼人として糸切美影が登場。いよいよ物語も佳境に入ってきた。ここで言及されているチープ・トリックの「ELO Kiddies」はこんな曲。

なお、本編に登場する駄菓子は、オリオンのココアシガレット!これも昔、よく買ってたな。

そして松山製菓のフレッシュソーダは、舐めて美味いし、水に溶かして飲んでも美味しい魔法の白い粉である。

ドアの鍵を開けるとき  

書き下ろし作品。

密室状態のアパートの一室で、御殿場倒理は何者かに首を斬りつけられ重傷を負った。犯行はいかにして行われたのか。そして犯人は誰なのか?四人の同級生たちを呪縛してきた事件の謎がついに解かれる時がやってきた。

今回の事件の関係者はこちら。

  • 御殿場倒理(ごてんばとうり):大学生。製薬会社に内定が決まる
  • 片無氷雨(かたなしひさめ):大学生。卒業後の進路が決まっていない
  • 穿地決(うがちきまり):大学生。警察への就職が決まっている
  • 糸切美影(いとぎりみかげ):大学生。探偵事務所を開設予定
  • 杉好宏伸(すぎよしひろのぶ):楽器店店主。飼い犬を殺害されている
  • 杵塚実(きねづかみのる):輸入商

視点人物は片無氷雨。天川ゼミ時代の四人に起きた事件が描かれる。このシリーズで長らく謎であった、御殿場倒理の首の傷が、いかにして出来たものなのかが判明する。御殿場と片無のこれまでに描かれてきた関係性から、だいたいの展開は予想が着く。しかしこれ、美影が一方的に被害を被りすぎなのでは??ただひとり、真相から遠ざけられた穿地がぶち切れるのもわかるような気がする。

ちなみに、最終回は駄菓子推しではなく、地方の名産お菓子推しである。みずず飴は長野県。信玄餅は山梨県の銘菓である。

本編にて、御殿場、片無、穿地、糸切の因縁の事件については決着が着いたので、いちおうこれで完結なのかな?とはいえ、いくらでも続きが書ける終わり方にはなっているので、ドラマ化にあわせて続編が出てくるのかもしれない。

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