ネコショカ

小説以外の書籍感想はこちら!
2023年に読んで面白かった新書・一般書10選

『嫉妬と階級の『源氏物語』』大塚ひかり

『傀儡后』牧野修 醜悪さも突き詰めると美に変る

本ページはプロモーションが含まれています


日本SF大賞受賞作品

2002年刊行作品。同年の第23回日本SF大賞を受賞。そして、ベストSF2002では国内部門8位にランクインしている作品である。作者の牧野修(まきのおさむ)は1958年生まれのエスエフ作家。単行本版はハヤカワSFシリーズ Jコレクションの一冊として刊行された。タイトルの『傀儡后』は「くぐつこう」と読む。

ハヤカワ文庫版は2005年に登場している。

傀儡后 (ハヤカワ文庫JA)

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

ダークな近未来史モノ。人間の闇の部分。暗いマイナスの感情に惹かれる方。グロ描写に耐性のある方。伝奇小説がお好きな方。ハヤカワSFシリーズ Jコレクションに興味のある方。ゼロ年代の牧野修作品を読んでみたい方におススメ。

あらすじ

空前絶後の隕石落下災害によって大阪の街は驚くべき変貌を遂げていた。爆心地の半径6キロ圏内は危険指定地域として閉鎖され、皮膚がゼリー化し最後には死に至らしめる奇病「麗腐病」の発生が始まり、凶悪なドラッグ「ネイキッド・スキン」の蔓延により治安は悪化の一途を辿っていた。崩れつつある人類社会の秩序。その渦中で囁かれる「傀儡后」の正体とは!?

ここからネタバレ

ハヤカワSF・Jコレクション

2002年、早川書房からは国内SF作家用の新レーベル「ハヤカワSF・Jコレクション」が創刊されている。東京創元社で言うところのミステリフロンティアみたいな感じかな。本作『傀儡后』もその中の一冊であった。

ハヤカワSF・Jコレクションはこの年のベストSFで、上位10作のうちなんと6作を占めていた。早川でやってる賞だからと言ったら身も蓋もないけど、SF界の老舗出版社の根性を見せたというところだろうか。

でも、2015年以降、ハヤカワSF・Jコレクションは新刊は刊行されておらず、レーベルとしての役割は終わってしまったのかも。ちょっと残念。

壮大なテクノゴシックSFの世界

で、本作だけど、ネクロフィリア、奇形、倒錯した性モラル、猟奇趣味、ドラッグ、異常心理などなど、牧野修的なグロ美学の集大成ともいうべき作品。 そうそう、戦隊趣味も忘れてはならなかった(牧野修はこういうの大好き好きなのである)。

秩序だった起承転結のハッキリした物語を好む向きには合わないと思うけど、万華鏡のように次から次へと映し出されていくおどろおどろしく醜悪な世界は一見の価値有り。醜さも限界を超えると美に変わる瞬間があることをこの作品は教えてくれるのである。

ちなみに、この年の日本SF大賞は『傀儡后』の他にもう一作受賞作があって、それが古川日出男『アラビアの夜の種族』なのである。こちらも良作なので、興味のある方はぜひどうぞ。

牧野修作品の感想はこちらから