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『競漕海域』佐藤茂 第9回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞作品

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佐藤茂のデビュー作

1997年刊行作品。第9回の日本ファンタジーノベル大賞、優秀賞受賞作品である。作者の佐藤茂(さとうしげる)は1967年生まれ。

ちなみにこの年の大賞受賞作品は井村恭一の『ベイスボイルブック』であった。

競漕海域

なお、文庫化はされていない模様。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

とてもユニークで独創的なファンタジー世界を舞台とした物語に興味のある方。心躍る、少年の成長物語を読んでみたい方。初期の日本ファンタジーノベル大賞関連の作品に興味がある方におススメ!

あらすじ

伝説の大洪水によって地上のほとんどは海中に沈んだ。残された人々は僅かな陸地部分に住み着き、広大な海を生活の糧として新たな歴史を刻み始めていた。この世界ではポッドを最も速く駆ることができる者が王となる。父親を知らずに育った少年駿風は、両親譲りの快速ポッドを操り、次第のその才能を開花させていく。

ここからネタバレ

「ポッド」の設定が面白い

ポッドとは平たく言うとカヌーみたいなものなのだが、実は雌雄のある生命体で生殖して増え子孫を残す。この世界ではポッドと個人の関係が1対ものとして設定されており、男女が子をなす場合は、それと共にポッド同士も交尾をして子をもうける。

ポッドには地域によって特徴的な血統があり、荒波に強かったり、直進性に優れていたりと多種多様。この世界では競漕に勝った者が王になれるので、強いポッドを作り出すために、より良い血統を求めて貴族たちは外婚を繰り返す。この設定だけでも秀逸なのである。

練り込まれた世界観と少年の成長物語

総じて言ってしまえば、少年の成長譚なんだけど、『十二国記』クラスの練り込まれた設定(ほめ過ぎ?)を持つ架空世界に『後宮小説』的な王朝モノの猥雑さがブレンドされ、加えてスピード感に溢れた競漕シーンの数々が独自の魅力を醸し出す。

この物語世界から去りがたく、久しぶりに読み終えるのが惜しいと思えた作品だった。続編とまでは言わないが、この世界を使ってもう一作書いて欲しかったのだけれども、残念ながらその願いは叶わなかった。

競漕海域

競漕海域

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その後の佐藤茂

非常に魅力的な作品世界を築き上げたこの作家だが、残念な事にその後の著作は少ない。1999年~2000年にかけて、「∀ガンダム」シリーズ のノベライズを6冊手掛けている。「∀ガンダム」のノベライズは、福井晴敏も書いているのだが、それとはまったく別の作品である。

そして、現時点で最後の著作となっているのが、2001年に角川スニーカー文庫より登場した『DEKU 親愛なる来訪者』である(未読)。

『競漕海域』がホントに素晴らしかっただけに、作家デビュー後は作品が続かずとても残念。かれこれ20年近く経つので、さすがに新刊を望むのは厳しいかな。。

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