第九回ファンタジーノベル大賞受賞作
1997年刊行。かれこれ四半世紀前に書かれた作品。第九回ファンタジーノベル大賞の大賞受賞作品に加筆修正したもの。単行本版のみで、残念ながら文庫化はされなかった。ファンタジーノベル大賞系はこういう事例がけっこう多い。
作者の井村恭一(いむらきょういち)は1967年生まれの小説家。本作『ベイスボイルブック』で作家デビューを果たしている。
その後は文藝春秋の文芸誌『文學界』で作品を数作発表している。いずれも書籍化はなされていない。2004年の「不在の姉」が第132回の芥川賞候補となっている。
- 竜巻乗り(『文學界』1998年11月号)
- ココホレ(『文學界』1999年4月号)
- 睡眠プール(『文學界』2002年8月号)
- 不在の姉(『文學界』2004年9月号)
- フル母(『文學界』2008年5月号)
- 妻は夜光る(『文學界』2010年5月号)
ちなみにこの年のファンタジーノベル大賞の優秀賞は佐藤茂の『競漕海域』。良作なのでこちらもおススメ。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★(最大★5つ)
とにかく不思議な世界観。突拍子もない設定の小説を読んでみたい方。「乾いたファンタジー」というキーワードに惹かれる方。「不在の姉」から井村恭一作品に興味を持った方。日本ファンタジーノベル大賞系の作品に関心がある方。
あらすじ
とある南の島で続けられる野球試合。たった2チームだけで延々と続けられるこの試合は何故か一方のチームが常に勝ち、もう一方は常に敗れることになっていた。「海上委員会」からの依頼を受け、この島に渡りただひたすら試合を観戦し続けることを強いられたわたし。この島でかつて何があったのか。そしてこれから何が起こるのか。
ここからネタバレ
「乾いたファンタジー」
ネタの秀逸さといい、帯に書いてある椎名誠、荒俣宏、井上ひさしら審査員の絶賛ぶりといい、読む前から期待は高まっていたのだが、物語の世界に入り込めずにいるような虚しさを終始感じさせられ、結局のめり込むことが出来ずに読了。妄想と現実の境を行ったり来たりしながら、自分自身さえも突き放した目線で進んでいくストーリー。
荒俣宏言うところの「乾いたファンタジー」という例えはまさに正しくて、この乾きっぷりを愛せるかどうかが本作の評価の分かれ目だろう。