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『つきのふね』森絵都 空から救いの船は降りてこない

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マイファースト森絵都作品

1998年刊行作品。野間児童文芸書受賞作品。わたし的には本作が初森絵都(もりえと)であった。たくさん作品が出ているので、どれから読むべきか迷ったけど、一番ページ数が少なそうなものからチャレンジしてみた次第。

つきのふね

角川文庫版は2005年に登場している。わたしが読んだのはこちら。カバーのデザイン、単行本版と全然変わっちゃったけど、断然こっちの方が良いように思える。

つきのふね (角川文庫)

森絵都は1968年生まれ。1990年に『リズム』で講談社児童文学新人賞を受賞してデビュー。その後児童文学系の賞を片っ端から取りながら一般向けの作品も書き始め、2006年に『風に舞いあがるビニールシート』で直木賞を受賞している。

世の中的には、映画化されて、二度もコミカライズされた『DIVE!!』シリーズ、NHKにてテレビドラマ化された『みかづき』あたりが有名かな。

ちなみに一時期、森福都(もりふくみやこ)とゴッチャになっていたのは秘密である(わたしだけか?)。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

思春期の少女が主人公の作品を読んでみたい方、心理描写が巧みな作品に興味がある方、90年代の雰囲気にもう一度浸りたい方、初期の森絵都作品を読んでみたい方におススメ。

あらすじ

1999年。世紀末の日本を生きる女子中学生さくら。彼女は将来に対しての希望を持てず、鬱屈した日々を過ごしていた。万引きグループに引き込まれた挙げ句、親友の梨利とは断絶状態。心の救いであった智さんは次第に精神を病に蝕まれていく。街で頻発する放火事件と、梨利がハマった売春疑惑。ままならない日々の中で、懸命に生きていこうとする少女の魂の軌跡。

ここからネタバレ

物語は綺麗に閉じても人生は続く

いい話だ。しかしやりきれない話でもある。最後に俄然うわっと盛り上がって、美しく物語は閉じたかに見えるけど、智さんみたいな人は何度でも死にたがるだろうし、梨利みたいな子はこの先どんな誘惑に屈するかわからない。聡明なヒロインにしても、この閉塞的な環境の中でいつまで心折れずに頑張れるかなんて判らない。感動的なイベントのあとも、山あり谷ありで人生は延々と続いていくし、これから先も問題は次から次へと出てくるだろう。

決してめでたしめでたしでは終わっていない。ハッピーエンドかというとそうでもない。ずいぶんと含みを持たせた幕の引き方だけど、読後感は不思議に爽やかだった。どんなにつらくても空から救いの船は降りてこない、でも身近な地上に救いは残されているのだ。

壊れたバレッタを最後に見出すのが智であったのは、微かな救いの兆しなのだろうと思う。象徴的に使われていた銀のバレッタを通してのメッセージは、この作家が物語に託した想いだ。完全な救いなどはありえない、だがそれでも希望はあるのだ、と。

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