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『果しなき旅路』ゼナ・ヘンダースン ひっそりと暮らす異能の人々の物語

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往年の名作、連作エスエフ短編集

作者のゼナ・ヘンダースン(Zenna Chlarson Henderson)は1917年生まれ、1983年に亡くなられたアメリカ人エスエフ作家である。

教職の傍ら執筆を続けた極めて寡作な作家で、この作品は1952年から1959年にかけてアメリカの「ファンタジー・アンド・サイエンス・フィクション」誌に書かれた短編をまとめたものである。原題は「Pilgrimage」。

果てしなき旅路 (ハヤカワ文庫 SF ヘ 8-1 ピープル・シリーズ)

日本では1978年に早川書房より文庫化されたが、長らく絶版となっていた。しかし2000年に入って早川書房が企画した「読者アンケートで選ばれた読んでみたいハヤカワ文庫の名作」企画で堂々の第一を獲得。晴れて重版となった。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★★(最大★5つ)

往年の超名作エスエフを読んでみたい方。心温まるエスエフ作品を読んでみたい方。異能者がひっそり隠れ住む系の作品が好きな方。恩田陸作品『光の帝国』シリーズのルーツを知りたい方におススメ!

あらすじ

クーガー峡谷はさびれた鉱山町。外部との接触を極度に嫌う人々が住み着き、閉鎖的な生活を送っている。そんな町へ赴任してきた女性教師ヴァランシー。子供たちと触れ合ううちに、彼女はやがてこの町の住民の持つ驚くべき秘密に気付くことになる。人智を越えた特殊な能力を持ちながら、決して他と交わらずひっそりと暮らす人々。異種族「同胞(ピープル)」たちを描く連作短編集。

ココからネタバレ

八編の短編を収録しているけど……

解説を読む限りでは八編の短編が収録されているらしいのだが目次にはそれを伺わせるような記載は無い。不思議に思って読み始めるがやがて納得。狂言回し的な存在として一人の少女を立て、彼女のエピソードを八編の間にプロムナード的に挿入、全体として一本筋の通るような構造となっているのだ。

最初の作品「アララテの山」、これがいきなり泣かせにかかってくる。息を潜めるように目立たぬようにひっそりと暮らしている人々の間にやってきた若い教師ヴァランシー。種族の秘密をひたすら隠そうとする彼らだったが、実は彼女にも決して人に言えない秘密が……。ネタはとっとと割れてしまうんだけど、孤独な人生を歩みながらも凛とした気概を忘れないヴァランシー。その魂の高潔さが涙を誘う。掴みの一作目としては最適。これで一気に最後まで引き込まれてしまう。

時間の洗礼を経ても、なお色褪せない名作

いずれも珠玉の名作揃いだけど、あと一つ挙げるとすれば「囚われびと」。虐げられてきた子供のただ一つの望みは音楽を奏でること……。子供と音楽。この二つを同時にネタにしてくるなんて反則だってば。幻想的な深夜の演奏シーンは屈指の名場面。これだけでも十分読む価値はある。

ちなみに恩田陸作品『光の帝国』はこの「ピープル」シリーズにインスパイアを受けて書かれた作品。

さてオリジナルの方はいかがなものかと思って読んでみたけれど、さすがはオリジナル。時の洗礼を経てなお色褪せない名作シリーズなのだった。

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