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『夜勤~夜に産まれた者だけが戦う世界~』友浦乙歌の三作目はバトルアクション

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友浦乙歌の商業出版第三作

2021年の8月にご紹介した『雨の庭』に引き続き、著者である友浦乙歌(ともうらおとか)さんより作品をご恵贈頂き、レヴューを書かせていただきました。友浦さん、今回もありがとうございました!

夜勤 ~夜に産まれた者だけが戦う世界~ (文芸社セレクション)

『夜勤~夜に産まれた者だけが戦う世界~』は2022年に刊行された作品。『四次元の箱庭』『雨の庭』に続く、商業出版第三作となる。あとがきによると、初出は2013年。今は亡き、某小説投稿サイトに発表されたものであるとのこと。現在は小説投稿サイトの「カクヨム」にて読むことが出来る。

今回も出版実現に際しては、クラウドファンディングの仕組みを活用しており、多くの支援者の協力を得て、本作が刊行されていることがわかる(クラファン初期の時点だとイラストのタッチが全然違うね)。

著者自身による作品の公式ページはこちら。

さらに公式PVも上がっていたのでご紹介。

公式ページといい、クラウドファンディングの試みといい、PV制作までと、売るための努力を惜しまない行動力はいつもながらスゴイ。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

「夜生まれ」か「昼生まれ」で人生が分かれてしまう世界。そんな設定に興味を持たれた方。タイトルから、どんな内容なのか気になる方。バトルアクション物がお好きな方。変わらない、先の見えない毎日うんざりしている方。消極的な自分をちょっとだけ変えてみたいと思っている方におススメ。

あらすじ

生まれた時間帯によってその後の運命が決まってしまう世界。昼に生まれた人間は、何の気兼ねもなく人生を謳歌し、夜に生まれた人間は兵士として否応なく戦場に送られる。「夜生まれ」の少年滝本一琉は、ある日、「昼生まれ」の少女、野々原まひるに出会う。記憶を失っている彼女を一琉はやむを得ず保護する。まひるの正体は何者なのか?そして彼女がもっている秘めた力とは何なのか……。

ここからネタバレ

戦場バトルアクション×群像劇

なんと今回の友浦作品は、戦場バトルアクション物であった。前作とはまったくトーンの異なるハードな世界観で衝撃を受けた。本作は、数多くのキャラクターが登場する群像劇の側面も強い。ということで、最初にキャラクター一覧。

  • 滝本一琉(たきもといちる):「夜生まれ」。主人公。夜勤軍一斑所属
  • 野々原まひる(ののはらまひる):「昼生まれ」。記憶を失っている謎の少女
  • 寺本和美(てらもとかずみ):委員長。「昼生まれ」でありながら夜勤兵に身を投じている。一斑所属
  • 棟方法子(むなかたのりこ):「夜生まれ」。一斑所属。寺本和美の信奉者
  • 加賀谷彰太(かがやしょうた):「夜生まれ」。一斑所属。ムードメーカー
  • 有河七実(ありかわななみ):「夜生まれ」。一斑所属。怪力女子
  • 野並宏平(のなみこうへい):「夜生まれ」。一斑所属。お笑い担当
  • 佐伯良二(さえきりょうじ):「夜生まれ」。一琉の叔父
  • 滝本丈人(たきもとたけひと):「夜生まれ」。寺本の保護者。夜勤軍大佐
  • 貝原(かいばら):「夜生まれ」。居酒屋鬼怒屋(きぬや)店主
  • 蔵力時江(ぞうりきときえ):「夜生まれ」。夜勤軍元中尉

こうして書き出してみると、かなりの人数である。だが、キャラクターの書き分けはしっかりされているので、読む側として混乱することはなかった。

夜に産まれた者だけが戦う世界

『夜勤』の最大の特徴は、独特の世界設定にある。夜間に生を受けた人間は、先天的に日光(紫外線)への耐性が無く、昼間帯の行動が大きく制限される。彼ら「夜生まれ」は「昼生まれ」からは差別を受け、強制的に徴兵され兵役につく義務がある。

この世界では、夜になると謎の生命体「死獣(しじゅう)」が出没する。「夜生まれ」はこの死獣と戦う宿命を背負わされている。死獣の力は強大で、「夜生まれ」の死亡率はきわめて高い。「夜生まれ」は日光に弱いので、昼の間は出歩けない(フードなどで紫外線対策をすれば出来ないことはない)。

彼らは基本的に昼眠り、夜に働く。ということでタイトル『夜勤』なのだが、この題名から、あの内容はなかなか想像ができなかった。

好きだと思うものを守るために戦いたい

「夜生まれ」として若くして戦場に立たされ、「昼生まれ」からは差別を受ける。自由も無ければ、未来の希望もない。諦めの中で生きてきた。そんな主人公、滝本一琉が、ヒロインの野々原まひると出会うことから、少しずつ変わっていく。一琉と行動を共にしている、夜勤軍一斑のメンバーにも変化が訪れる。

また、少年少女たちだけでなく、大人の視点が存在することで、物語に重層感が生まれている。かつて世界を変えようとして失敗した。まさに「死んだように生きてきた」、一琉の叔父である佐伯良二の存在が、作品に奥行きを与えているのだ。

かつて失敗したことがあるからこそ言える、佐伯の言葉「自分で自分を殺すな」が、やがて一琉の心の支えになっていく。終盤の一琉の決意「俺はもう、死んだようには生きない」に繋がる展開は熱い。まっとうな大人がしっかりと描かれていることは、本作の魅力の一つなのでないだろうか。

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