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『コンビニなしでは生きられない』秋保水菓 第56回メフィスト賞受賞作品


秋保水菓のデビュー作

2018年刊行作品。筆者の秋保水菓(あきうすいか)は1994年生まれのミステリ作家。本作『コンビニなしでは生きられない』で、第56回のメフィスト賞を受賞し、作家としてデビューしている。

講談社ノベルス版の表紙イラストはukiが担当。

コンビニなしでは生きられない (講談社ノベルス)

講談社文庫版は2021年に刊行されている。表紙のビジュアルが変わってしまって残念。作品のタイプ的に、講談社タイガで出した方が良かったのではとも思ってしまう。

ちなみに、秋保水菓の第二作『謎を買うならコンビニで』は2021年刊行。『コンビニなしでは生きられない』同様にコンビニエンスストアを舞台とした作品で、こちらは講談社タイガから刊行されている。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

コンビニでアルバイトをしていたことがある。現在働いている、もしくはコンビニで働いてみたいと思っている方。日常の謎系のミステリ作品がお好きな方。メフィスト賞関連の作品を読んでみたい方におススメ。

あらすじ

白秋は19歳のフリーター。大学での人間関係に馴染めず中退。現在は、近所のコンビニ、ソンローで働いている。この店に、女子高生の黒葉美咲が研修生としてやってきたことから、白秋の平穏な日常が変わり始める。犯行後も店から立ち去らない強盗。何度も買い物を繰り返す客。店内から消えた少女。次々に現れる謎、そして謎。白秋と美咲は事件に巻き込まれていくのだが……。

ここからネタバレ

居場所を探す物語

『コンビニなしでは生きられない』の主人公、白秋(はくしゅう)は19歳のコンビニ店員。少し前まで大学生だったが、人間関係にうまくなじむことが出来ず中退。以後、鬱屈とした思いを抱えながら日々を過ごしている。同居している家族は、大学を辞めた白秋に対しても何ら変わることなくやさしく接してくれる。だが、それが逆につらい。

空虚な毎日を過ごす中で、たまたま働いていたコンビニ店が、白秋にとっての唯一の居場所。存在価値を発揮できる場所となっていく。

個人の話で恐縮だが、この主人公とは状況が違うものの、わたしは諸般の事情でバイト生活が長かった(留年しまくっていただけなのだけど)。そのため、主人公の抱えている、不安定な状態に身を置いた時の焦燥感。むなしい気持ち。周囲から取り残されていく恐怖については、身につまされる思いで読むことが出来た。あのころの感覚は、もう味わいたくないよなあ。

コンビニを舞台としたお仕事小説の側面

白秋の働く、コンビニエンスストアチェーン「ソンロー」に、研修生として黒髪清楚系の女子高生、黒葉美咲(くろはみさき)がやってくるところから物語は始まる。

コンビニ店で働く人はさまざまである。美人女子大生の石国絵美(せっこくえみ)。石国にべたぼれの店長。訳アリの飲んだくれ中年会谷計(かいたにけい)。主婦の原瀬道子(はらせみちこ)。エリアマネージャの灰野霧枝(はいのきりえ)。彼らはそれぞれの属性、立場、考え方を持っており、仕事に対してかける思いも当然違う。

同一年代、比較的均質的な属性を持った人々の集まりである学校とは異なり、コンビニ店に集う人々のキャラクターはバリエーション豊かだ。こうした人々との出会いが、社会に出る魅力でもあり、厄介な点でもある。

作者の秋保水菓は、七年間コンビニで働いていたとのことなので、本作では社会の縮図としてのコンビニの姿が、リアルに描かれている。コンビニで働いていたことがある方としては、「あるある!」と楽しく読み進んでいける作品だろう。

コンビニを舞台とした日常の謎?と思いきや

本書の構成は以下の通り。

  • 第一章:コンビニ強盗から始めましょう
  • 第二章:傘は返さないといけなにんです
  • 第三章:このコンビニから消えた女の子を覚えている
  • 第四章:モノクロコビニズム
  • 第五章:黒幕の向こうの会計
  • 第六章:黒白の時間
  • 第七章:コンビニなしでは生きられない

第一章では、強盗に入ったのに、金を奪ってからも何故か店内から立ち去らない犯人の謎。第二章では、同じ日に少額の買い物を執拗に繰り返す老婆の謎。第三章では、コンビニ店内から消えてしまった少女の謎が描かれる。

ここまで読むと、これはコンビニを舞台にした日常の謎系作品なのか?と、読む側としては考えるのだが、第四章から物語は意外な方向に展開していく。

作中全般を通じて描かれる店内での「連続盗難事件」と、かつてこの店で働いていた男子高校生、鈴木大(すずきだい)の死にまつわる謎である。

第五章では「連続盗難事件」の真犯人が判明し、一旦事件は収束するかにみえたが、第六章では事件の黒幕として働いていた、ヒロイン黒葉美咲の真意が明かされる。美咲とその家族の行動が、相当に強引なので、彼らの抱える深刻な事情を勘案しても、ちょっと無理があるのでは……とは思ってしまう。

最終の、第七章はほぼエピローグ的な内容。白秋は、美咲からの好意を感じていながらも、フリーターとしての劣等感。コンビニ以外にも自分の世界を持っている美咲への複雑な気持ちから、彼女をいったんは拒んでしまう。しかし、それでも前を向いて生きようと「黒葉と一緒にいるコンビニで……俺は生きたい」と告げるラストシーンは、王道展開とはいえなかなかのカタルシスなのではないかと思われる。

とはいえ、リアルの人生で、辛く苦しい時期に、「せんぱい!」と慕ってくれる美人女子高生が現れて、助けてくれることはほぼ皆無だと思う。まあ、物語の世界ぐらいは、こういう心洗われる、ハートフルな展開があって欲しいものだけど。

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