菅浩江版ダーティペア?「センチメンタル・センシティブ」シリーズ
本日は平成初期のライトノベル作品をお届けしたい。
菅浩江(すがひろえ)の「センチメンタル・センシティブ」シリーズは1990年~1991年にかけて、角川スニーカー文庫から刊行された作品群である。『歌の降る惑星(ほし)』と『うたかたの楽園』の二作。今回はまとめて両作品をご紹介する。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★(最大★5つ)
超能力を持った美少女コンビが活躍するライトノベル作品を読んでみたい方。バディモノがお好きな方。1990年代のスニーカー文庫作品に興味がある方。最初期の菅浩江作品を読んでみたい方におススメ。
ここからネタバレ
『歌の降る惑星』
1990年作品。菅浩江としては『ゆらぎの森のシエラ』『〈柊の僧兵〉記』に続く、三作目の長編作品。超能力者であるナツノと亜美の冒険を描いた作品で、この作家にしては珍しいコミカル路線のシリーズだ。イラストは大野安之が担当している。
パワフルな二人の女性主人公二人のキャラクターから、高千穂遙の『ダーティペア』を想起してしまうのは仕方の無いところか。
あらすじ
ナツノと亜美はセンシティブ(超能力者)。能力者センターを辞め気ままなジャンク屋暮らしを楽しんでいた二人だったが、巨大企業シンシア・コンツェルンの研究島で事故が発生。不本意ながらも救助に向かう羽目になってしまう。現地では実験用のアンドロイドが暴走中。その場はなんなく治めたものの、それはより大きな事件の前兆でしかなかった。
コメディタッチではあるのだれど
慣れていないのか、得意でないのか、コメディタッチがいまひとつしっくりこない。会話がぎごちなく、ギャグシーンもストンストンとテンポ良くはまってくれないので読んでいてちょっと辛い。しかし初期作品でありながらも後々の菅作品に出てくるような、エスエフでしか出来ないような美しい情景を現出させる手腕は既に健在で、終盤の「歌の降る星」の描写は実にお見事なのである。
『うたかたの楽園』
1991年作品。センチメンタル・センシティブシリーズの第二作。菅浩江としては四作目の長編作品である。
あらすじ
南の島ロータス・イーターを訪れたナツノと亜美。楽園として人工的に整備されたこの島では誰もが長閑な時を過ごしていた。快適な休暇となる筈が、偶然滞在していた能力者センターの恩師ゲオルグが誘拐されたことで事態は一変する。現地で知り合った新聞記者マックスと共に事件を追う二人は、この島に隠された恐るべき秘密を知ることになる。
前作に比べるとややパワーダウン?
前作でも感じたのだが、この作品、イラストがあまり作品にマッチしていないような気がする。テイストの合う合わないはあるにしても、口絵の見開き分はあまりに微妙な出来なのである。内容的には前作に比べてややパワーダウン。亜美に「水」を飲ませる展開はちょっと無理やりすぎるのではないかと思ったけど、わたしだけだろうか?
とまあ、初期作品ということもあって、ぎごちなさ、あともう少しといった感の強いシリーズではある。ただ、描き出される情景の美しさには時としてハッとさせられることもあり、菅浩江「らしさ」は随所に感じ取れる。
菅浩江の中期~最近の作品を読んでから、こちらの初期作品群を読んでみると、また別種の感慨が得られるかもしれない。