ソノラマ文庫版とデュアル文庫版がある
1990年刊行作品。最初はソノラマ文庫からの登場。この時の表紙イラストは加藤洋之(かとうひろゆき)&後藤啓介(ごとうけいすけ)。『ゆらぎの森のシエラ』に続く、菅浩江(すがひろえ)の第二作である。ちなみに『<柊の僧兵>記』は「ひいらぎのそうへいき」と読む。
その後、10年の歳月を経て、2000年に徳間デュアル文庫にて新装版が登場した。徳間デュアル文庫はこの年に創刊されたばかりで、タマ不足もあってか、他社レーベル作品のリバイバル刊行を精力的に行っていた。
こちらの表紙イラストは、緒方剛志。しっかり当時の売れっ子イラストレータを起用してきた。そして、ソノラマ版にはなかった解説(鏡明が書いている)まで入っている。理由はどうあれ、こうしたリヴァイバル出版は、かつての良作に再度脚光を当てる試みであり、十分に意義のあったことだと思う。
もっとも、徳間デュアル文庫もその後長続きはせず、2010年以降ほぼ沈黙状態なのが悲しい……。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★(最大★5つ)
少年の成長物語をベースとした、ジュブナイル要素を持つファンタジー作品を探している方。デビュー当時の菅浩江作品を読んでみたい方。今は亡きソノラマ文庫や徳間デュアル文庫の作品に興味がある方におススメ。
あらすじ
ミルンは砂漠の民の間に生まれる出来損ない「白い子供」だ。体力に劣り、自然の猛威を事前に察することの出来ない彼は村の厄介者でしか無かった。しかし突然現れた未知の来襲者の前に村は全滅。唯一生き残ったのはミルンとそして同じ白い子供であるアジャーナだった。二人は事件の真相を<柊の僧兵>を探す旅に出る。
ここからネタバレ
エスエフとファンタジーの混淆作品
菅作品では多くの場合ファンタジーの殻をかぶりながらも、物語の根幹をなしているものは紛れも無くエスエフマインドである。次第に物語の真相が明らかにされていく中で剥き出しになっていくエスエフの魂。来るぞ来るぞと判っていてもエスエフ好きに取っては嬉しい作品なのである。
もちろん、描き出されるファンタジックなイメージの数々も秀逸。王道を行く、清く正しく美しい正統派少年成長譚の側面もあり、読み手を飽きさせない構成となっている。
ご都合主義的な展開もまあご愛嬌ということで
とはいいながらもエスエフとミステリは再読には向かないジャンルであることは言うまでも無く、ネタが割れている分あまりに都合の良すぎる展開(すぐに僧兵に会えてしまう。いきなり宇宙船も操縦出来ちゃう等々)は、もう少しなんとかならなかったのかとツッコミたくなる部分はある。
なお、徳間デュアル文庫での菅浩江作品リヴァイバルとしては、もう一作『メルサスの少年』がある。こちらも、いずれご紹介出来ればと考えているので、少々お待ちを。