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『葬式同窓会』乾ルカ あの頃にはもう戻りたくない青春の後始末

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白麗高校三部作の三作目

2023年刊行作品。書下ろし。作者の乾ルカは1970年生まれの作家。18年のキャリアで、30作近い作品を上梓している。代表作は直木賞候補作にもなった『あの日にかえりたい』、大藪春彦賞の候補作『メグル』、そしてドラマ化された『てふてふ荘へようこそ』あたりかな。

葬式同窓会 (単行本)

以前に紹介した2021年の『おまえなんかに会いたくない』、そして2022年の『水底のスピカ』と共に、白麗(はくれい)高校三部作とされている作品の三作目。

っていうか、そうなんだ(巻末の広告を見て初めて知った)!深く考えずに読んでしまったけど、二作目の『水底のスピカ』を先に読むべきだったかも。。

表紙イラストはすっかり売れっ子になってしまった感のある雪下まゆによるもの。白麗高校三部作は、全部雪下まゆイラストで統一されているんだと思う。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

学校時代の関係者の葬儀後、流れで同窓会的な飲み会に参加したことがある方。学生時代にトラウマがある方。後悔が残っている方。あの時代には戻りたくないと思っている方。人と人との相互理解について考えてみたい方。ほろ苦テイストな青春小説がお好きな方におススメ。

あらすじ

高校を卒業して七年。かつてクラスの担任だった水野が死んだ。葬儀に集った当時のクラスメイトたちは思い出話で盛り上がる。高校時代、激昂した水野は、ひとりの生徒を執拗に追い詰め、登校拒否に追い込んでいた。あの日の水野は何故そのような行動を取ったのか?七年の歳月を経て、真相を追い始めた彼らの前に、残酷な真実が明らかとなっていく。

ここからネタバレ

登場人物一覧

今回も登場するキャラクターについて最初にまとめておく。

  • 柏崎優菜(かしわざきゆうな):元白麗高校3年6組。母校で非正規の司書教諭として勤務
  • 碓氷彩海(あやみ):元白麗高校3年6組。優菜の親友。大学院生
  • 北別府華(はな):元白麗高校3年6組。作家志望。かつて優菜を虐めていた
  • 一木暁来良(いちきあきら):元白麗高校3年6組。市役所勤務
  • 望月凛(もちづきりん):元白麗高校3年6組。銀行勤務のYoutuber
  • 吉田和輝(よしだかずき):元白麗高校3年6組。都市銀行勤務。意識高い系
  • 船守(ふなもり):元白麗高校3年6組。不登校となり高校を中退
  • 水野隆信(みずのたかのぶ):教師。元白麗高校3年6組クラス担任。死去
  • 水野思(みずのおもい):水野隆信の娘。現役の白麗高校生

葬式のあとは同窓会になりがち

『葬式同窓会』の序盤に印象的な描写がある。

皆、オーバーコートを脱げば黒々とした服装である。おしぼりを運んできたアルバイトらしき若者が、おっという顔になった。

『葬式同窓会』p22より

同年代の集まりに見えるけど、属性がバラバラっぽい社会人グループが来店する。どんな集まりなのかと思っていると、彼らがコートを脱いだら全員が喪服だった。本作が映像化されることがあるのだとしたら、この瞬間にタイトルを出したくなるくらい絵的にインパクトのある場面だ。

卒業して何十年も経過すると、かつての恩師や、同級生の訃報に接することがどうしても多くなる。葬儀には当時の関係者たちが多く集まるから、式が終わると臨時の同窓会が発生しがちだ。あらかじめ日程を決めて開催される同窓会と異なるのは、集まるメンツに想定外の要素が出てくる点だろう。仲の良かった相手が来るとは限らないし、気まずい関係の相手、できれば会いたくないなと思っている相手だって来るかもしれない。

主人公の柏崎優菜は、かつて自分を虐めていた北別府華に再会する。何事もなかったかのように優菜に対して自然に話しかけてくる華。『葬式同窓会』はそんな、絶妙な居心地の悪さからはじまる物語だ。

生きづらさを抱えて生きる

高校を卒業して七年余り。社会人になった優菜たちはそれぞれの人生を歩んでいる。念願の司書教諭にはなれたものの非正規雇用の優菜。パートをしながら作家デビューを夢見る華。Youtuberとして脚光を浴びたい望月。大学院で研究を続けながらも病を得る彩海。他者を愛することが出来ないことを気に病む一木。そして人生を終わらせる決意を固めた者も……。

一見すると順風満帆そうに見える人生でも、当人はその裡に闇を抱えていることもある。彼らはそれぞれに自分の人生を歩むのに精いっぱいで、かつてのクラスメイトで、不登校の果てに退学へと追い込まれた船守の存在を気にも留めていない。

また、作品の序盤からなんども繰り返し登場する、風冷尻(フレシリ)山での遭難コンビは、読んでいくうちに船守と一木であることがわかってくる。不幸なめぐり合わせ続き、とうとう生きる気概を失ってしまった船守と、十代の頃から他者との間の距離を感じ緩慢な自死を望んでいた一木。死に引き寄せられた二人が目指したのが、かつて水野が愛し憎んだ風冷尻山だった。それぞれの水野への想いは別として、結果として水野が二人を引き合わせ命を救ったことになるわけで、なんとも皮肉なめぐり合わせを感じる。この二人がふたたび生きる気力を取り戻せたのは本作の僅かな光だ。

青春の後始末として

本作のラストで、優菜、彩海、華、そして望月の四人は、白麗高校を再訪する。彩海は在学時代の心残りとなっていた、船守が書いた可能性がある「オレ死ね」の落書きに「生きろ!」と七年越しのアンサーを返す。居合わせた三人もそれに倣うのだが、優菜はともかくとして、最終的に船守に死を決意させた配信を行った華と望月にも「生きろ!」と書かせるところに、作者の底意地の悪さを感じるのだけど、わたしだけ?

これ、当人たちはサッパリするかもしれないけど、あくまでも自己満足、欺瞞の域を出ない。この後、船守と一木のコンビは白麗高校にやってくるので、この「生きろ!」を目にすると思われるのだけど、彼らは既に風冷尻山の一夜で救済されているのでこの「生きろ!」はおまけみたいなもの?

加虐はあくまでも不可逆なので、いちど歪んでしまったものはもとに戻らない。かつての船守を誰も救うことできなかったし、優菜の感情を華は理解できない。それぞれに歪んだ状態を抱えて生き続けるしかない。このかみ合わない感じ。互いを理解することは出来ないんだなと思わせるところは、いかにも乾ルカ作品って感じがする。

葬式同窓会 (単行本)

葬式同窓会 (単行本)

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