森見登美彦の二作目
2005年刊行作品。森見登美彦の第二作。デビュー作にして日本ファンタジーノベル大賞受賞作『太陽の塔』、そしてブレイク作となった『夜は短し恋せよ乙女』。この二作の間に刊行されたミッシングリンクをつなぐ作品が本作である。暗黒京大生小説の第二弾である。
男汁にまみれた四畳半小説を書くよりも、愛らしくも可憐な乙女を物語の中心に据えた方が、ひょっとして売れるんじゃないのか?森見登美彦はこの一作でそれに気付いてしまったのかもしれない。
角川文庫版は2008年に登場。こちらは中村佑介イラストの表紙に変更されている。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★★(最大★5つ)
森見登美彦の初期作品が気になる方、京都好きの方、非モテ男性の青春時代に大いに共感できる方、アニメ版を見てハマった方、『夜は短し恋せよ乙女』が大好きな方におススメ!
あらすじ
本当の主役は京都という街そのものなのかもしれない
で、本編だが、不毛に陰謀をめぐらす悪友小津に引きずり回され、唾棄すべき学生生活に邁進する主人公の姿を描いていく。非モテの妄執漂う自虐テイストたっぷりの文章は今回も健在過ぎる程に健在。独特の森見文体は冴え渡っていて、ファンとしては読んでいるだけで楽しい。
多少なりとも京都の土地勘があると更に楽しめるだろう。大都市でありながら、徒歩と自転車だけで市中を徘徊出来てしまう、京都の街の適度なサイズが物語のスケール感に実に程よく調和している。この物語のもう一つの主役は京都の街そのものなのだろうと強く感じずにはいられない。ああ、自分も鴨川の土手で女の子とキャッキャウフフしてみたかった(遠い目)。
展開のバリエーションを楽しむ
この作品は四つの章に別れているのだが、実は毎回同じ話のバリエーション違いとして書かれている。おかしなサークルに入った主人公が、紆余曲折の果てに黒髪の美女明石さんのハートを射止めるまでの物語が、都合四回も描かれる。メタなのか、並行世界なのか、夢オチなのか。さすがに同じ話を四回も繰り返すのはやり過ぎなのではないか。四回読まされるとくどいと感じてしまうかと思いきや、何度も読んでいるうちに気にならなくなってくる。恐ろしい中毒性を持った作品と言える。
しかしながら、変人とはいえ、小津を筆頭に個性的過ぎる面々と毎日を面白楽しく過ごし、最終的には明石さんという彼女までゲットする主人公はどう見ても高学歴リア充である。お前全然悲惨な人生じゃないじゃん。なんだか読んでいて腹が立って来たー。微妙に読み手の暗黒面を刺激してやまない作品でもあるのだった(笑)。
アニメ版は小津への偏愛が高まる良作に
なお、本作は2010年のノイタミナ枠でアニメ化されている。こちらは全11回ということで、バリエーションの数はなんと倍以上!さすがに飽きるかと思ったが、アニメオリジナルの追加エピソードが意外にも面白く、原作のテイストを損なわずにいい感じに物語の奥行を広げてくれていた。
加えて、映像で見る小津の愛らしさは名状しがたいものがあるので、小説本編を読んで堪能された方は、是非ともアニメ版もご賞味いただきたい。
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