森見登美彦のデビュー作
第15回の日本ファンタジーノベル大賞の大賞受賞作品。2003年刊行。今は説明の必要もないほどの人気作家、森見登美彦のデビュー作が本作だ。当時の森見登美彦は現役の京大生。在学中にこれほどの快作を書きあげていたとは恐るべしなのである。
ちなみにこの年の優秀賞は渡辺球の『象の棲む街』 である。
なお、文庫版は2006年に登場している。現在読まれているのはこちらだろう。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★★(最大★5つ)
京都が大好きな方。京都に行ってみたい方。京都を舞台にした小説を読んでみたい方。デビューしたての頃の森見登美彦がどんな作品を書いていたのか気になる方。非モテ系大学生男子の日常に興味がある方ににおススメ!
あらすじ
京都大学農学部。わけあって五回生在籍中の森本は、今日も「水尾さん研究」のために対象者の尾行を続けていた。彼の貧乏アパートには、その独特の人柄に惹かれるのか、一癖も二癖もあるような奇人変人ばかりが集まってくる。理不尽極まりないクリスマスファシズムに立ち向かうべく、一致団結した彼らは年末の四条河原町へと繰り出していくのだが……。
ココからネタバレ
この時点で既に完成されていた森見文体
その後の完成度が増した森見作品に比べると、粗削りな部分が随所に見られるのだが、本質的な部分はこのデビュー作でもう出来上がっていたように思える。
ネガティブオーラを纏いながら疾走する青春小説の傑作。ともすればほとばしりそうになる怨嗟と呪詛を生真面目な硬い文体で抑え込み、それでも悶々と漏れ出てくる暗黒の波動。とても特徴的なのに、意外に真似するのは難しそうな筆致である。
中毒性の強いこの文体の、虜となってしまった読者は多いのではないだろうか。基本的には徹頭徹尾バカな話なのだが、最後までこの文体で描ききった力はスゴイ。頭がいいのだろうけど、どことなく、いやかなり変、ってノリのキャラクターたちが嫌になるくらい活き活きと書けている。
かくも見事な奇人変人たちを現出せしめただけでも、本作は十分過ぎるくらい見事な「ファンタジー」なのだが、それに加えて断片的に登場する太陽の塔に纏わる挿話が素敵過ぎるアクセントになっていて実に痺れるのである。今すぐ京都に行って叡山電車に乗りたくなるくらいだ。かくも幻想的で切ない、静謐なエンディングがこの話に待っていようとは想像も出来なかったよ。
森見作品を読むと京都に行きたくなる
同様に、読了した直後に京都に行きたくなる小説として『四畳半神話大系』を推しておこう。『夜は短し歩けよ乙女』の感想もそのうち上げる予定なので、しばしをお待ちを。