恒例の「〇〇年に読んで面白かった」シリーズ。今年はマンガ編からスタートである。コロナ禍のおかげで、今年はネットカフェに籠ることがほとんど出来ず、結果として影響を受けたのがマンガ本の読了減少であった。その分、一般書籍の読了数は増えたのだけど。
よって、今年のチョイスは9作とやや少なめ。例によって「2020年に読んだ本」であって、「2020年に発売された本」ではない。古めの作品も混ざっているがその点はご容赦を。なお、紹介順に特に意味はなく順不同ね。
- 水は海に向かって流れる
- バーナード嬢曰く。
- 銀河の死なない子供たちへ
- 乙女文藝ハッカソン
- 国境のエミーリャ
- 惑星9の休日
- エーゲ海を渡る花たち
- 高丘親王航海記
- 戦争は女の顔をしていない
- おわりに
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水は海に向かって流れる
それぞれの両親が不倫で家出。父に去られた直達と、母に去られた榊さん。微妙な間柄の二人の進みそうで進まない恋愛関係を描いた作品。
『子供はわかってあげない』以来、久しぶりの新作に田島列島ファンとしては期待で胸が高鳴る!全三巻(完結済)。
田島列島『水は海に向かって流れる』最終回やっと読んだ(余韻に浸り中)。榊さんの「ぐぅ」が最高過ぎる。コミックスの最終三巻は9月発売みたい。
— ぬぬに@毎晩20時🕗本感想ブログ更新 (@nununi) August 9, 2020
こじらせ年上女子の榊さんの可愛さをとにかく愛でる作品。1巻、2巻の表紙絵では、ずっと視線を逸らしてきた榊さんが遂に直達クンを見るようになる。重いテーマを描きながらも、ほんわかしたキャラクターたちと、柔らかなタッチの絵柄で優しい読後感に浸れるシリーズ。超おススメ。
バーナード嬢曰く。
もはや読書人必読マンガとなってしまった感のある施川(しかわ)ユウキの『バーナード嬢曰く。』。今年は第五巻が登場。刊行ペース的に二年に一冊しか新刊が出ないのがもどかしい。
ド嬢こと、町田さわ子と、ガチのエスエフオタク神林しおりの女子高生コンビを軸に展開されていく「読書家あるある」マンガ。適度な微百合感もいい。
巻末の参考文献は読書リストとしてメチャお役立ちなので必見である。『死に山』や『ハローサマー、グッドバイ』はこの作品が無ければ読んでいなかったと思う。
施川ユウキ『バーナード嬢曰く。』② #読了
— ぬぬに@毎晩20時🕗本感想ブログ更新 (@nununi) July 30, 2020
本好きあるあるマンガの第二弾。
魅惑のブックガイドとしても、メチャ面白い。
何よりも昔の自分を見せられてるような、ちょっと背伸びして、本読んでる感が懐かしくてウルウル来る。
こういう感性ではもう読めないもんね。#読書好きな人と繋がりたい pic.twitter.com/CJsu9miDoc
このシリーズで何よりも好きなのが、10代の頃の少し頑張って読書していた頃のメンタルを気恥しくも思い出させてくれるところ。こういう感覚は大事にしたい。
銀河の死なない子供たちへ
施川ユウキ作品からもう一作。施川ユウキ凄いと感嘆させられた作品。上下巻。
人類滅亡後の地球で生きている不死の一族。姉のパイと弟のマッキが、人間の赤ん坊を拾うお話。 永遠を生きる存在と、死すべき定めの者。その対比が切なく描かれた傑作。
施川ユウキ『銀河の死なない子供たちへ 上』#読了
— ぬぬに@毎晩20時🕗本感想ブログ更新 (@nununi) October 1, 2020
文明崩壊後の地球で、不死の姉弟が、人間の赤ん坊を拾う。永劫を生きる存在と、死すべき定めの者との交流
冒頭の10ページで、姉の不死性、永劫性を説明的な台詞なしで表現してるページがあっていきなり痺れる。センス凄い#漫画好きと繋がりたい pic.twitter.com/juRL4JSTg2
施川ユウキはお世辞にも絵が上手い作家ではないのだけれど、上のツィートにも書いたようにセンスが図抜けている。
乙女文藝ハッカソン
大学文芸部での、集団小説創作システム「文藝ハッカソン」を描いた物語。全三巻。複数の人間が共同で小説を書き上げる仕組みが面白かった。
山田しいた『乙女文藝ハッカソン(1)』#読了
— ぬぬに@毎晩20時🕗本感想ブログ更新 (@nununi) October 31, 2020
大学文芸サークルを舞台に、グループで小説を書いていく集団創作モノ。
小説の書き方が学べるのと、ラノベ、ミステリから、SF、純文学まで、有名作品が多数言及されるのが楽しい。 pic.twitter.com/wx6ft1eNt3
このシリーズの面白いところは「小説の書き方」が学べるところ。プロットの作り方や、初心者が陥りやすいミス等、「書く側」の視点を知ることが出来るのはとても新鮮だった。
肝心の「文藝ハッカソン」が尻切れトンボで終わってしまっており、打ち切りエンドっぽいのが残念。ビブリオバトル編の構想もあったようなので、読んでみたかったなあ。
国境のエミーリャ
鉄道系マンガで多くの実績を残している池田邦彦(いけだくにひこ)による、歴史改変、架空歴史マンガ。既刊二巻まで(来月三巻が出る)。
池田邦彦『国境のエミーリャ①』 #読了
— ぬぬに@毎晩20時🕗本感想ブログ更新 (@nununi) November 14, 2020
戦後、東西に分割統治された日本。「壁」に分断された東京で、亡命請負人として生きる少女エミーリャの物語。
聖橋が国境になってたり、上野駅の前にはレーニン像!
ソヴィエト支配下の東京の描写が面白い。池田邦彦作品らしく鉄道成分も濃厚!いいね〜。 pic.twitter.com/NvEr7A9fHH
朝鮮半島や東西ドイツのように、第二次大戦後の日本が分割統治されていたら?という仮定に基づくお話。東京を東西に分割する「壁」の存在。旧ソヴィエト風の意匠で形づくられた、戦後復興中の東京のビジュアルがツボ過ぎてワクワクする。
池田邦彦作品らしく、鉄道成分も濃厚。広軌化された東北本線とか、東側の鉄道車両が走っていたりするのも楽しい。
惑星9の休日
町田洋(まちだよう)のデビュー作。2013年の作品。Amazonでつらつら見ていてピンと来て、ジャケ買いしたら大正解だった一冊。
辺境の惑星「9(ナイン)」を舞台としたエスエフ連作短編集。単巻完結。
町田洋『惑星9の休日』#読了
— ぬぬに@毎晩20時🕗本感想ブログ更新 (@nununi) August 15, 2020
辺境惑星の日常を描く。エスエフマインドに溢れた連作短編集。
シンプルな線、少ないセリフ、それでいて豊かな叙情性とノスタルジー。コマ間の空気感が堪らなく魅力的。#マンガ好きな人と繋がりたい pic.twitter.com/DTssaiXnXl
お気に入りは非モテの年下男子が、バツイチの不愛想女子に果敢にアタックしていく「それはどこかへ行った」と、人気女優の束の間の里帰りを描いた「灯」。
町田洋は作品の少ない作家で、既刊としては『夜とコンクリート』があるくらい。良い作品を書く人なので、これからの作品にも期待したい。
エーゲ海を渡る花たち
日之下あかめ作の全三巻(完結済)。妹を探して旅をしているオリハと。地元の商家の娘、リーザ。15世紀半ばのイタリア、フェラーラから始まるガールミーツガール物語。
歴史マンガとして、紀行もの、百合もの、グルメマンガとしても楽しめる贅沢な作品。
日之下あかめ『エーゲ海を渡る花たち3』#読了
— ぬぬに@毎晩20時🕗本感想ブログ更新 (@nununi) March 31, 2020
最終巻。15世紀、エーゲ海を旅する二人の少女の物語
夢のような時間にも終わりは来る。二人の旅の終わり
「私達は願ってもいい」
女性の人生における選択肢が限られていた時代に、その後の二人がどうなったのか
出来うる限りの最適解がこのラストかな pic.twitter.com/FxjcKtE145
食べ物だけでなく、登場人物たちのファッションや、歴史的な風景、習俗に至るまでよくここまで調べたなという精緻さ。二人の旅に同行しているかのような密度の濃い描写が印象的。
女性に十分な自由が与えられていなかった時代に、自分の意思をどこまで貫けるのか。作中のヒロインの台詞「私達は願ってもいい」の言葉が、読後に重く心に残る作品だった。
高丘親王航海記
澁澤龍彦の遺作『高丘親王航海記』がまさかのコミカライズ化!しかも描き手が近藤ようことあればこれは期待しないわけにはいかないだろう。
高丘(高岳)親王は平城天皇の第三子で、一時は嵯峨天皇の皇太子にまでなるも、父帝が薬子の変で失脚。併せて、親王も皇太子の位を失う。その後仏門に入り空海の高弟となり、晩年には唐へと渡る。
親王の波乱万丈すぎる人生を描く。現在既刊二巻まで。
澁澤龍彦・近藤ようこ『高丘親王航海記①』#読了
— ぬぬに@毎晩20時🕗本感想ブログ更新 (@nununi) September 14, 2020
澁澤龍彦の遺作を、近藤ようこがコミカライズしたもの。
原作で七編ある短編のうち、「儒艮」と「蘭房」の序盤を収録。かなり丁寧に元ネタを拾ってるので、このペースだと完結までかなりかかりそう。#漫画好きな人と繋がりたい pic.twitter.com/MfBZtb3wIJ
エロティカルな話が多いこの作品は、ちょっと間違えるととても生々しい絵面になってしまいそうだけど、近藤ようこの淡白なタッチは、高丘親王の老境を描くにはちょうど良かったのかもしれない。ベストチョイスだと思う。
まだまだ連載は続きそうなので、完結まであと2~3巻はかかるかな。続巻も楽しみ。
戦争は女の顔をしていない
こちらもまさかのコミカライズ作品。Twitterで、12月はこの作品の話ばかりしていた気がする。
旧ソヴィエト出身(現在はベラルーシ国籍)のノーベル賞作家、スヴェトラーナ・アレクシェーヴィチの『戦争は女の顔をしていない』を小梅けいと作画、速水螺旋人の監修で漫画化したもの。既刊二巻まで。
スヴェトラーナ・アレクシェーヴィチ『戦争は女の顔をしていない』 #読了
— ぬぬに@毎晩20時🕗本感想ブログ更新 (@nununi) December 25, 2020
第二次大戦時、旧ソ連では百万人以上の女性が兵士として前線に動員された。
しかし、銃を取った彼女たちは、戦後迫害を受ける。
500人以上の体験談を元にしたインタビュー集。ひとつひとつのエピソードがとてつもなく重い pic.twitter.com/z96xaRVRIe
元がインタビュー集なので、特に一本通ったストーリーがあるわけではない。登場人物も膨大な数に及ぶので、これをどうやってマンガにするのだろうと興味津々で読んだが、これが実に見事な換骨奪胎化で驚かされた。この構成力は凄い。
原作の方の感想は現在書いているところなので、ちょっと待ってね。
おわりに
冒頭にも書いたけど、今年はネットカフェに行けていないので、長編作品の近刊が全く追えていない。『鬼滅の刃』も八巻で止まっているし、『約束のネバーランド』『ハイキュー!!』『あさひなぐ』も完結したのに最後まで読めていない。『ちはやふる』や『機動戦士ガンダム サンダーボルト』は大詰めになっているはずだし、『来世は他人がいい』や『僕の心のヤバイやつ』の経過も気になる!観念して買って読むべきかと思うのだけど……。
ともあれ、「2020年に読んで面白かったマンガ9選」なのであった。2021年も良い作品に出会えますように!