今年ギリギリになってしまったが、恒例の年間ベスト企画、昨日のマンガ編に続いて小説編をお届けしたい。「2020年に出た作品」ではなく、「2020年に読んだ本」が対象なのでその点は注意。また、特に順位などはつけていない。
このページに関してはネタバレなしで書いているので、未読の方も安心してお読みいただければと。
今年は読了時のTwitter投稿も入れ込んでみた。時間を置いてから読むと気恥しい部分もあるのだが、初読時のテンションが出せるかなと思ったのでご容赦頂きたい。
※関連
- 白の闇(ジョセ・サラマーゴ)
- 宇宙へ(メアリ・ロビネット・コワル)
- 三体2 黒暗森林(劉慈欣)
- ザリガニの鳴くところ(ディーリア・オーエンズ)
- ハローサマー、グッドバイ(マイクル・コーニー)
- 天盆(王城夕紀)
- ピエタ(大島真寿美)
- 線は、僕を描く(砥上裕將)
- 教室が、ひとりになるまで(浅倉秋成)
- 処女のまま死ぬやつなんていない、みんな世の中にやられちまうからな(葵遼太)
- おわりに
- その他の「2020年読んで面白かった」シリーズはこちらから!
白の闇(ジョセ・サラマーゴ)
ポルトガルのノーベル賞作家、ジョセ・サラマーゴによる感染症パニック小説。コロナ禍の今だからこそ読みたい作品である。
ジョセ・サラマーゴ『白の闇』#読了
— ぬぬに@毎晩20時🕗本感想ブログ更新 (@nununi) June 29, 2020
視力を奪う謎の感染症。
隔離された患者たちは眼が見えない中、自力での生活を強いられる。
悪化する衛生状態。飢餓。増え続ける患者。疑心暗鬼に囚われる人々。そして暴力による支配。
極限状態で人間の尊厳は保たれるのか?#読書好きな人と繋がりたい pic.twitter.com/1dJYhhDpFM
この病気の怖ろしいところは「死なない」ところ。感染率と発病率は極めて高いが、致死率はほぼゼロ。ただ視力だけが奪われていく。感染拡大を怖れた政府は、患者たちを施設に隔離。目の見えない者たちだけの社会では何が起こるのか。剥き出しにされていく人間の生存欲求がエグい。
宇宙へ(メアリ・ロビネット・コワル)
架空の1950年代アメリカが舞台。巨大隕石によって地球環境が激変し、宇宙開発を加速せざるを得なくなった人類。圧倒的な男社会の中で、女性として自己実現を図っていくヒロインたちの姿を描いた大河小説。
メアリ・ロビネット・コワル『宇宙へ 上』#読了
— ぬぬに@毎晩20時🕗本感想ブログ更新 (@nununi) October 8, 2020
1950年代の宇宙開発を描いた、歴史改変エスエフ。起動計算とか手計算なんだ!
優れた女性の才能を認めず、受け入れようとしない男性社会。
天才であるが故に、虐げられてきたヒロインがこの先どうなるのかが気になる。#読書好きな人と繋がりたい pic.twitter.com/3dEGdhcMct
女性や、有色人種たち、マイノリティの権利がより低く抑えられていた時代のアメリカで、女性である主人公がいかにして自分の居場所を作り上げていくか。宇宙開発モノが好きな方であれば刺さりまくる一作。シリーズ作品が他にもあるようなので、邦訳を待ちたいところ。
三体2 黒暗森林(劉慈欣)
昨年の『三体』に続いてランクイン。前作で凄まじいレベルで物語の風呂敷が広がっていて、こんなに壮大な話キチンとまとめられるの?と、少々心配していたのだが、まったくの杞憂であった。失礼しました。ホントにスゴイ!!
劉慈欣『三体2 上』#読了
— ぬぬに@毎晩20時🕗本感想ブログ更新 (@nununi) August 26, 2020
物語の立て付けが判らないところが魅力だった一巻。
これに対して、今回は立て付けが判ったうえで、無理無理な状態からどう難題に立ち向かうのか。
これでもかと投入されるアイデアが面白い。
続いて下巻に行きます。#読書好きな人と繋がりたい pic.twitter.com/F5wgvhE8N1
異質な思考パターン、圧倒的な技術格差、誰にも助けを求められない孤独。四面楚歌の状況下から、主人公がどう巻き返していくのか。極上の頭脳バトルで本当に面白かった。来年にでる『三体3』が本当に楽しみである。
ザリガニの鳴くところ(ディーリア・オーエンズ)
1950~1970年代のアメリカが舞台。家族に捨てられ、貧困の中で孤独に暮らす少女の物語。成長小説であり、恋愛小説であり、極上のミステリでもあるという贅沢な作品。
ディーリア・オーエンズ『ザリガニの鳴くところ』#読了
— ぬぬに@毎晩20時🕗本感想ブログ更新 (@nununi) September 27, 2020
1960年代のアメリカ。親兄弟に捨てられ、幼くして孤独な日々を過ごすカイア。
「湿地の少女」として、蔑視と偏見に晒されながらも、強く成長していく姿を描いた一作。
タイトルに込められた複数の意図が深い。#読書好きな人と繋がりたい pic.twitter.com/KVobloT5Z7
アメリカ東海岸の湿地帯の自然描写がとにかく美しい。生活は貧しくても、前を向いて進んでいこうとするヒロインの姿が健気で応援したくなる。全世界800万部も納得のクオリティなのであった。
ハローサマー、グッドバイ(マイクル・コーニー)
今回紹介する中ではもっとも古い。1975年に書かれた作品。もはや古典とも言える作品だが、未だ瑞々しさを失わない青春エスエフの傑作である。
マイクル・コーニー『ハローサマー、グッドバイ』#読了
— ぬぬに@毎晩20時🕗本感想ブログ更新 (@nununi) January 14, 2020
父の仕事の都合で田舎の港町にやってきた主人公が、地元の少女と恋に落ちる。青春恋愛SFのオールタイムベスト
いい話だけどこれSF設定の意味あるの?って思ってたら、最後に凄い超展開来た!ラストの一行に戦慄走る#読書好きな人と繋がりたい pic.twitter.com/7EXPGWXfEe
恥ずかしながら最初はオチの意味がよくわからなかった。何度も読み返してジワジワと真相が判明して来た時のカタルシスが半端ない。最初から最後まで、細部の描写を楽しんでいただきたい作品。青春エスエフとしても、相当にキュンキュン来るのでその点もおススメ。
天盆(王城夕紀)
ここからは国内作品。
「天盆(てんぼん)」は将棋のような盤上遊戯。架空の中国風王朝「蓋」では「天盆」が強ければ出世の道が開ける。「天盆」に生涯を懸けた人間たちの、熱量の高い戦いが繰り広げられていく。
王城夕紀『天盆』#読了 #寝読部
— ぬぬに@毎晩20時🕗本感想ブログ更新 (@nununi) August 9, 2020
架空中華王朝ファンタジー。天盆と呼ばれる盤戯の強さで立身が決まる世界
30年ぶりに平民出の征陣に挑む少年と、それを支える家族の物語
名セリフのオンパレードで、語り口の名調子が心地よい大傑作!これは泣く。そしてラストの1頁!#読書好きな人と繋がりたい pic.twitter.com/ALwUXUWbHB
貧しい平民出身の主人公が、家族や仲間たちの助けを得て、強大な国家権力に対峙していく。次から次へと表れる個性的なライバルたち。痺れる名セリフのオンパレード。読む側もとても熱い気持ちになってしまう名作。
ピエタ(大島真寿美)
18世紀ヴェネツィア、高名な音楽家ヴィヴァルディの教え子だった女性を軸に展開されていく群像劇。彩り豊かに描かれていくヴェネツィアのカーニバル。その喧騒の中に垣間見える人生の哀歓。
大島真寿美『ピエタ』#読了
— ぬぬに@毎晩20時🕗本感想ブログ更新 (@nununi) May 6, 2020
18世期ヴェネツィア。ピエタと呼ばれる孤児院の付属音楽院「合奏・合唱の娘たち」の物語。
ヴィヴァルディの教え子であった女性たちの、中年期以降の人生を暖かな筆致で描く。
素晴らしい時間もいつかは終わる、それでも人生は続いていく。#読書好きな人と繋がりたい pic.twitter.com/JXM6mF2oCv
もう若くない。人生の後半に入り、選べる生き方も限られてくる。選ばなかった人生への後悔。これから先の不安。もう会えない人々への追憶。中年期を迎えてから読むと、いろいろと身につまされて、しみじみと読めてしまう良作。BGMとして是非ヴィヴァルディの「調和の霊感」を聞いて頂きたい。
線は、僕を描く(砥上裕將)
2020年本屋大賞第三位。というか、第59回のメフィスト賞受賞作でもあるのだが、あまり言及されなくなってきているような(帯にも書いてないし!)。
メフィスト賞らしからぬ?ミステリ要素はほとんどない青春小説にして、成長小説。
砥上裕將『線は僕を描く』#読了
— ぬぬに@毎晩20時🕗本感想ブログ更新 (@nununi) June 26, 2020
2020年本屋大賞第三位。
水墨画を描くことで人間としての輪郭を取り戻して行く。
唯一無二、全てを賭けて向き合える存在に出会えた青年の物語。
水墨画の描写がわかりやすくて驚く。
『羊と鋼の森』あたり好きな人には刺さりそう。#読書好きな人と繋がりたい pic.twitter.com/bT7CfQhAoE
とある事情で人生を見失っていた青年が、水墨画に出会うことから変化を遂げていく。善き師に出会うこと、同好の士と競い合えること、そして全てを忘れて没頭できる「何か」に出会えることの幸せを、静謐ながらも暖かな筆致で描いた良作。
教室が、ひとりになるまで(浅倉秋成)
浅倉秋成の出世作。わたし的な嗜好のツボをぐいぐい押してくる「学園の不思議」系作品。ミステリ的な要素に、青春小説ならではの苦味成分がほどよくブレンドされていて、終盤の展開にはゾクゾクとさせられた。
浅倉秋成『教室が、ひとりになるまで』#読了
— ぬぬに@毎晩20時🕗本感想ブログ更新 (@nununi) December 2, 2020
「私は教室で大きな声を出しすぎました。調律される必要があります」同じ文面の遺書を残し自殺した三人の高校生
彼らは本当に自殺したのか?
個人的に大好きな、学校で起きる不思議な事件系のお話。苦味成分強めなのも◎#読書好きな人と繋がりたい pic.twitter.com/PvdiJMs4JP
ちなみに、この作品は1/22に文庫版が出るようなので興味がある方はそれまで待った方がいいかも。ただ、表紙イラストは単行本版の方が好みだったかなー。裏表紙のあの人は、文庫版ではどうなるのだろうか。
処女のまま死ぬやつなんていない、みんな世の中にやられちまうからな(葵遼太)
とある事情で、高校を留年してしまった主人公のお話。世の中には音楽から離れていても、どうしようもなく音楽に戻ってきてしまう人間がいる。青春小説にして、音楽小説。そして巨大な愛の物語。
葵遼太 『処女のまま死ぬやつなんていない、みんな世の中にやられちまうからな』#読了
— ぬぬに@毎晩20時🕗本感想ブログ更新 (@nununi) July 11, 2020
今朝の #寝読部活動 買ったばかりのHONTO枕を涙で濡らすことに……。外では絶対読まないように
喪失から恢復へ。大切な存在を亡くしてからの再生物語。TLで評判良い本はだいたい名作#読書好きな人と繋がりたい pic.twitter.com/T4MQLkLe2e
タイトルだけで32文字。長すぎる。ツイッターの年間ベストに作者名が入れられなくなるのは、だいたいこの作品のせいである(笑)。タイトルで惹かれるひとも居れば、逆に引いてしまう人も居そうな気がする。ホントにいい話だったので、もっと多くの方に読まれて欲しい作品である。
『処女のまま死ぬやつなんていない、みんな世の中にやられちまうからな』の詳しい感想はこちらからどうぞ
おわりに
10年近く続いた小説読めない病から回復したようなので、ことしは海外モノも多めに読んでみた。結果として10選のうち半分が海外作品となってしまった。翻訳の壁を乗り越えて来ているだけに海外作品は邦訳されている時点で一定のレベルが担保されている。来年も海外モノには引き続き手を出していく予定。
今年は新しい作家に数多く手を伸ばしてみた反面、もともと好きだった作家の既刊にまで手が回らなかった反省もある。この辺は、読書時間をどう割るかにもよるのだけど、もうすこしバランス良く読んでいきたいところ。
以上、2020年に読んで面白かった小説10選をお届けした。本年は大変お世話になりました。2021年もどうぞよろしくお願いいたします!
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なお、新書、一般書部門のベストチョイスは、別ブログで別途(たぶん来年)お届けする予定なので、もうすこしお待ちを!
その他の「2020年読んで面白かった」シリーズはこちらから!