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『エンタングル:ガール』高島雄哉 アニメ『ゼーガペイン』のスピンアウトノベル!


『ゼーガペイン』の語られざるエピソード

2019年刊行作品。もともとはサンライズのWebサイト矢立文庫に『エンタングル:ガール 舞浜南高校映画研究部』のタイトルで、2016年~2017年にかけて連載されていた作品を大幅に加筆修正のうえで単行本化したもの。

単行本発売時にタイトルは現在の『エンタングル:ガール』に改められている。

単行本版は創元日本SF叢書からの登場だった。作者あとがきに加えて、声優の花澤香奈(はなざわかな)による解説文が収録されている。

2022年に創元SF文庫版が刊行された。わたしが読んだのはこちらの版。文庫版では、書下ろしの短編「ホロニックワールド・エンタングルメント」が追加収録されている。

また、単行本版にあった作者あとがき、花澤香奈の解説に加えて、文庫版のあとがきも収録されている。

エンタングル:ガール (創元SF文庫)

作者の高島雄哉(たかしまゆうや)は1977年生まれのエスエフ作家。2018年の『ランドスケープと夏の定理』がデビュー作。本作『エンタングル:ガール』は、デビュー後二作目の作品ということになる。

『ゼーガペイン』を知っているか?

『エンタングル:ガール』を読むうえで、『ゼーガペイン』について語らないわけにはいかない。『ゼーガペイン』は2006年に放映されていたエスエフロボットアニメ作品だ。全26話。よく「作りこまれた」世界観と、魅力的なキャラクター造形で、今でも根強いファンを持つ作品である。

2クール作品なので全部見るのはけっこう大変かもしれないが、ゼロ年代を代表するロボットアニメの傑作なので、未視聴の方は是非チェックしてみていただきたい。

Youtubeでは第一話のみ無料公開中。序盤は静かなスタートでちょっともどかしく感じるかもしれないが、6話目あたりから「化け」はじめるので、じっくりと楽しんでいただきたいところ。

本日紹介する『エンタングル:ガール』は、この『ゼーガペイン』のスピンアウト作品となっている。

ちなみに、『ゼーガペイン』のヒロイン、守凪了子(カミナギ・リョーコ)は高校時代の花澤香奈が演じていて(初ヒロイン作品かな?)、解説を書いているのはそのご縁によるものではないかと思われる。

 

『エンタングル:ガール』は『ゼーガペイン』の世界観をベースに描かれた作品で、ストーリーは異なるが、『ゼーガペイン』の本質に触れる重要なネタバレを含んでいるので、『ゼーガペイン』全26話を視聴後に読んでいただきたい。

って、けっこう大変だと思うけど、『ゼーガペイン』知らない人は、そもそも『エンタングル:ガール』を読もうとは思わないかな。

個人的にはエンディングテーマの『リトルグッバイ』が大好き。作中での使われ方が毎回毎回神がかっていて、ゼロ年代アニソンでも屈指の名曲だと思う。

『ゼーガペイン』の話が長くなり過ぎた!そろそろ『エンタングル:ガール』の話に戻ろう。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

アニメ『ゼーガペイン』を全話見ている方。『ゼーガペイン』ファンの方。『ゼーガペイン』では守凪了子派だった方。アニメ本編を見ていないけど気にしない方(でも、アニメを先に見て欲しい)におススメ。

あらすじ

守凪了子は映画監督志望の高校一年生。活動の盛んな、舞浜南高校の映画研究部に入部した了子は、コンテストに応募するため、仲間たちとの映画撮影を開始する。しかし、部長の河能亨は言う「きみは映画監督になれない」と。この世界は揺らいでる。世界の綻びは繕わなくてはならない。撮影を継続する中で、了子はこの街に隠された謎に気づいてしまうのだが……。

ここからネタバレ(『ゼーガペイン』本編のネタバレも含む)

登場人物一覧

『エンタングル:ガール』文庫版の見返し部分に書かれている、本作の登場人物は以下の通り。

  • 守凪了子(カミナギ・リョーコ):本作の主人公。映研所属。
  • 十凍京(ソゴル・キョウ):了子の幼馴染。アニメ版の主人公。水泳部所属。
  • 富貝啓(トミガイ・ケイ):了子の同級生。映画のヒロイン(笑)。
  • 立花瑞希(タチバナ・ミズキ):了子の同級生。
  • 深谷天音(フカヤ・アマネ):二年生。小説オリジナルキャラ。ドローン部所属。
  • 渦原晋介(ウズハラ・シンスケ):二年生。小説オリジナルキャラ。音楽担当。
  • 飛山千帆(ヒヤマ・チホ):三年生。小説オリジナルキャラ。シナリオ担当。
  • 河能亨(カノウ・トオル):三年生。映研部長。
  • 三崎紫雫乃(ミサキ・シズノ):三年生。アニメ版ではもう一人のヒロイン。

深谷天音、渦原晋介、飛山千帆は『エンタングル:ガール』オリジナルの新キャラクター。河能亨はテレビ版では登場が少なかったものの、映画版では活躍したキャラクター。本作でも重要な役割を果たす。十凍京はアニメ本編の主役キャラクターだが、『エンタングル:ガール』での出番は控え目。守凪了子との関係性も、あくまでも幼馴染の間柄にとどまっている。

「ただ一度の夏」を描く

プロローグ部分での時間軸は八月の終わり、主人公の守凪了子は、コンテストに応募するための映画を完成させようとしている。しかし第一章では四月の入学時点から物語はスタートする。第一章以降で展開されていくストーリーは、プロローグで描かれている内容とは微妙に異なっている。この時点で、勘のいい読者であれば、ああこれはループモノなのかな?と見当がついてしまうかもしれない。

スピオンオフ元の『ゼーガペイン』では、とある理由により主人公たちの暮らす世界では、四月から八月の終わりまでを何度も何度も繰り返している。『エンタングル:ガール』は、おそらくは幾たびも繰り返している『ゼーガペイン』のループの中の、ひとつのエピソードを切り取ったものなのではないかと思われる。

幾たびも幾たびも繰り返される高校時代の夏の五か月間。登場人物のうちの何人かはそのループの存在に気付き始めている。どうせ終わりが来る。未来がないのであれば、自暴自棄に、無気力になってもよさそうなものだが、守凪了子はあくまでも映画撮影に全力をかける。

同じことのような繰り返しに見えても、同じループは二度とない。それぞれのループに、人との出会いがあり、思い出がある。何度目のループであろうが、精いっぱいに映画を撮り続けようとする守凪の姿勢は、『ゼーガペイン』本編における、十凍京にとっての水泳部再建と同じなのだろう。

「ただ一度の夏」を懸命に生きる。それがやがて、ループで閉じたこの世界を救うことに繋がっていくのだ。

ホロニックワールド・エンタングルメント

最後に、文庫版オリジナルのおまけ書下ろし短編の「ホロニックワールド・エンタングルメント」についてちょっとだけ。

この短編は、『ゼーガペイン』本編でもなかなか見られない、三崎紫雫乃×守凪了子エピソードで、ファン的にはかなり嬉しい(ちなみにわたしは、狂信的な三崎紫雫乃派)。紫雫乃先輩は守凪とゼーガペイン・アルティールに乗っても、ウィザードの席は譲らないのね。

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