シリーズ累計100万部突破!
2022年刊行作品。『後宮の烏』『後宮の烏2』『後宮の烏3』『後宮の烏4』『後宮の烏5』『後宮の烏6』に続く、『後宮の烏(こうきゅうのからす)』シリーズの七作目、遂に最終巻の登場である。
表紙に描かれているのは後宮の外に出ている寿雪、白銀の髪を衆目に晒している。舞い散る烏の羽は、呪縛からの開放を表しているかにも見えて、このシリーズを追いかけてきた読み手としては、なかなかに感慨深い。
第七巻の帯によると、シリーズ累計で100万部を突破したとのこと。スゲー。本シリーズは、作者の白川紺子(しらかわこうこ)としても最大のヒットシリーズになった。2022年10月からアニメ化されるので、更に発行部数は増えるはず。どこまで売れていくのだろうか。
100万部突破&完結&アニメ化記念!ということでチラシと、栞が入っていた。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★(最大★5つ)
中華系ファンタジーを読みたい方(この巻から読む人はいないと思うけど)、『後宮の烏』シリーズの最後を見届けたい方。高峻と寿雪がどうなったのか気になる方。沙那賣ファミリーのファンの方。令孤之季のその後を知りたい方におススメ。
あらすじ
失われた烏漣娘娘の半身を求めて、寿雪は界島へ渡ろうとするが、海神の怒りにより海底火山が噴火。一行は、足止めを余儀なくされていた。たちはだかる鼈の神。噴火に巻き込まれた董千里と令孤之季は無事なのか。一方で、沙那賣晨は、父、朝陽の下を去り、弟、亘は北辺山脈へと旅立つ。鼈の神との対決を前に、寿雪は何を思うのか……。
ここからネタバレ
以下、各編ごとにコメント。
暗雲
界(ジェ)島の海底には烏漣娘娘の半身である黒刀が沈んでいる。島の目前まで迫った寿雪(じゅせつ)たちだったが、海底火山の噴火に行く手を阻まれてしまう。そして、沙那賣朝陽(さなめちょうよう)が、北辺山脈へ送った沙那賣亘(こう)の活動を、羊舌慈恵(ようぜつじけい)が抑えようとするのだが……。
時系列が前巻ラストの「血の鎖」のエピソードよりも少し前に遡って、寿雪一行が界島へ旅立つまでのやりとりが描かれる。「あんたがすべての烏妃のかなしみを晴らしてくれる」。紅翹(こうぎょう)や桂子(けいし)とのやりとりが泣ける。結局、九九(ジウジウ)は同行することに。
沙那賣家関連のやりとりとしては、高峻が遂に動いて朝陽の蟄居引退を晨(しん)に命じる。朝陽の企ては高峻にも明らかとなっている。明確な皇帝に対する叛意に対して、族滅までしないのは、皇帝の子を産む娘、晩霞(ばんか)への配慮なんだろうな。
烏は自身の半分を取り戻したい。半身は界島にある。しかし噴火で界島には渡れない。噴火を収めるには海神の怒りを解く必要がある。そしてそのために鼈の神を倒す必要がある。でも、鼈の神を倒すには烏の半身を手に入れる必要がある。
堂々巡りの解決策ループに陥っていたところを救ってくれたのが、花娘(かじょう)の父である雲知徳(うんちとく)。って、皇妃の父親なのに海商やってるんだこの人?
烏漣娘娘の半身である黒刀はこともあろうに、宿敵白雷(はくらい)が入手。阿兪拉(あゆら)は衣斯哈(いしは)を人質にされ、鼈の神の依り代となっているもよう。重要なキャストが続々と界島に集い、クライマックスへの期待が高まっていく。
炎
梟は自らを質として海神の怒りを鎮める。烏を救うために。噴火が一時的に収まり、寿雪は遂に界島へとたどり着く。そこで寿雪は、鼈の神に支配された阿兪拉に出会い襲撃を受ける。賀州に帰った、沙那賣晨は、父、朝陽との対面を果たし、皇帝、高峻の命を伝える。そこで朝陽が選んだ行動とは……。
一気に、鼈の神との対決パートに入るのかと思いきや、沙那賣家の話がけっこう入る。父の意を受けて、身の破滅も顧みず、北辺山脈での工作活動を続ける亘を、羊舌慈恵が救う。一方で、賀州では、晨と朝陽の最後の親子対決が行われる。結局、朝陽は自らの抱えた闇の重さ故に自壊したような印象。子どもはいい迷惑だよなあ。
最終決戦に入る前に、もう一人、トラウマを解消しなくてはならない人物がいる。令孤之季(れいこしき)だ。最愛の女、小明(しょうめい)の死の原因となった、白雷を之季は赦すことが出来ない。しかし、小明は之季の魂がいつまでも自分に囚われていることを望んでいない。白雷があっさり黒刀を手放したのはちょっと意外。之季も積年の執着を手放す。小明はもう之季の袖を引くことはない。ここもかなり泣けるシーン。
半身
鼈の神の襲撃から辛うじて生き延びた寿雪たち。黒刀を得、失われた半身を取り戻した烏は鼈の神と対決する。界島で繰り広げられる神々の戦い。鼈の神は退けられ、烏が勝利する。永劫とも思われた烏妃の呪いから解かれた寿雪は、この先何を願うのか。そして、高峻と寿雪の関係の行き着く先は……。
遂に最終エピソード。鼈の神がいろいろとアレ過ぎて、結局白雷にも見捨てられる始末。烏側と違って、憑依するばかりで、まっとうな人間関係を築けてこなかったことが原因か(烏の方も決して良好な関係とは言えなかったけど)。半身を取り戻してから先は神さま同士の戦いで、寿雪もようやく一般人の側に戻ってきた感じ。烏の声が聞こえなくなる寿雪がちょっと切ない。鼈の神は幽宮(かくれのみや)へ、そして回廊星河(かいろうせいが)へ。長い年月をかけて新しい命に転生していく。
大ラス。読者として気になるのは、高峻と寿雪の関係性の決着がどうなるか。互いに、絶望的な孤独を生きてきた高峻と寿雪にとって、お互いは唯一の同胞であり理解者であったのだと思う。あくまでもこの二人は「友」のままであることを選ぶんだよね。男女の愛とか恋みたいな関係性を選ばない。
烏妃の呪縛が解かれたといっても、寿雪が欒(らん)王朝の遺児であることには変わりがないわけで、皇帝としてはうっかり手が出せる相手ではなかったのか。白銀の髪を持つ寿雪を、後宮に置いておけないのはわかるけど、甘々エンド期待派としてはちょっと(というか、かなり)残念。
沙那賣家にもっていかれた感
気になったのは、物語の後半以降、かなりの部分が沙那賣家のエピソードに割かれてしまった点だろうか。沙那賣家は、当主、朝陽の呪われた過去話に、息子(晨、亘、亮)と娘(晩霞)たちが巻き込まれて、後半パートでは準主役級の立ち位置になっていた。
沙那賣家のキャラクターたちは魅力的に描かれていたし、個々のエピソードとしては決して悪くないのだが。シリーズ全体のバランスを考えると、『後宮の烏』の物語の重心がブレてしまったように感じて残念。作品の中心軸は、高峻と寿雪からズレずにいて欲しかったのだけど。
今後アニメ化もされるようなので、外伝なり続編なり、新たな仕掛けが始まってくれることを期待したい。
アニメ版『後宮の烏』の放映は2022年10月から
なお、アニメ版『後宮の烏』の公式サイトが出来ていたのでリンクしておく。
現時点で公開されているキャストは以下の通り。
- 柳寿雪:水野朔
- 夏高峻:水中雅章
- 衛青:八代拓
- 九九:高野麻里佳
原作のどこまで消化するつもりなのか。全七巻の原作ボリュームを考えると2クールあれば、最後までいけそうな気もするけど、果たしてどうだろうか。
「後宮の烏」シリーズ既刊分の感想はこちらから!
第一巻『後宮の烏』の感想はこちらから。
第二巻『後宮の烏2』の感想はこちらから。
第三巻『後宮の烏3』の感想はこちらから。
第四巻『後宮の烏4』の感想はこちらから。
第五巻『後宮の烏5』の感想はこちらから。
第六巻『後宮の烏6』の感想はこちらから。