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『嫉妬と階級の『源氏物語』』大塚ひかり

『Q&A』恩田陸 質問と答えだけで物語が進行する不思議な作品

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謎が謎を呼ぶ奇妙な物語

2004年刊行作品。幻冬舎の文芸雑誌「星星峡」の2002年4月号から2004年3月号にかけて掲載されていた作品を単行本化したものである。

単行本版はベージュの地にタイトルと作者名のみと至ってシンプルな装丁で、一瞬どこかの高校の文芸部の作品集かと見間違えそうな程。ただ、本書には全体の2/3を占める程の4色刷りの派手な帯がついており、こちらを見ることで作品の内容がイメージしやすくなるデザインとなっている。

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幻冬舎文庫版は2007年に登場している。解説はつい先日、別ブログの方で紹介した『趣都の誕生』の筆者である森川嘉一郎が担当している。

文庫版ではカバーデザインが一新されていて、こちらはショッピングセンターの群衆たちを思わせるような写真が表紙Qに使われている。

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おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

人間心理、群集心理の不思議さ、怖さについて触れてみたい方、人の心の奥底に潜む暗部を覗き込んでみたい方、ちょっと変わった趣向のミステリ作品を読んでみたい方におススメ。

あらすじ

2002年2月11日午後2時過ぎ。都内郊外の大型ショッピングセンターMにて大規模な死傷事故が発生する。死亡者69名。負傷者116名という大惨事に至ったその原因は未だ不明。事故なのか事件なのか。犯人は存在するのか。誰がいったいどうやって、何のために。現場に立ち会った人々の証言から事件の真相は浮かび上がるかに思えたのだが。

ココからネタバレ

質問と答えだけの物語

タイトルにもあるとおり、本作はQ(質問)とA(回答)だけで構成された異色の作品である。

物語の中心となる大型商業施設での事故は既に起きてしまった後であり、このトラブルに巻き込まれた人々に対しての質問が延々となされていく。質問者も回答者も次々と変わっていき、主人公は存在しない。様々な証言が積み重ねられていくことで、事件のディテールが次第に明らかになっていく。

「わからない」怖さ

この話の怖さのポイントはいくつかある。パニック状態となった群衆心理、平凡に見える人間の心に潜む闇、そして「わからない」ということそのものの怖さだ。本作の面白さとしてはこの三番目の「わからない」恐怖を推したい。あえて主人公を立てず、明快な結末を提示しなかったことで、抜群にこの怖さが引き立っている。

恩田作品の中には明確な着地点を示さない、オチがイマイチと言われがちなものも時として散見されるのだが、本作に関してはこの終わり方が正解であろう。

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