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『山ん中の獅見朋成雄』舞城王太郎が描く異界往還譚

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ミステリの制約から解き放たれた舞城王太郎作品

2003年刊行作品。講談社の文芸誌「群像」の2003年7月号に掲載された作品を単行本化したもの。舞城王太郎(まいじょうおうたろう)としては、七作目の作品。一つ前に刊行された『阿修羅ガール』は三島由紀夫賞を受賞しており、活動のベースがミステリから、ブンガク寄りに移っていこうかという頃合いの作品である。

ちなみにタイトルの読みは「やまんなかのしみともなるお」である。

講談社ノベルス版は2005年に登場。

そして、講談社文庫版は2007年に刊行されている。単行本、ノベルス、文庫で表紙のテイストが見事なまでにバラッバラッである。

山ん中の獅見朋成雄 (講談社文庫)

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★★(最大★5つ)

舞城作品ならではの独特の異界を覗き込んでみたい方、ドライブ感に溢れた舞城文体を味わってみたい方、人知れず存在するかもしれない「別の世界」への扉を開いてみたい方におススメ。

あらすじ

獅見朋家の男には鬣(たてがみ)がある。中学生の成雄の背にもとうとう鬣が生える時がやってきた。学校をサボリ、奇人の書家杉美圃モヒ寛と山野を駆け回る日々を送る成雄だったが、一頭の馬が目の前に現れたその日から平穏な生活は音を立てて崩れていく。謎の襲撃者によって重傷を負ったモヒ寛。異界への入口は眼前に迫っていた。

ココからネタバレ

今回も福井県が舞台

舞城作品の例に漏れず、今回も福井県西暁が舞台。山野を縦横に駆け回る闊達な少年成雄と孤高の変人モヒ寛。学校教育から離れた自然のフィールドで伸び伸びと育っていく主人公の姿を時にはダイナミックに、ある時はリリカルに叙情性豊かに綴っていく成長物語である。

って、嘘。いや、でも最初はあまりに展開が長閑なので、ひょっとしてこのままのノリで最後までいくのか?舞城作品なのに誰も死んでないし、そもそも全然エロくない。ただならぬ違和感を覚えながら読み進めていたのだが、瀕死のモヒ寛が発見された辺りから事態は急変。読み手は怒濤の勢いで異界に引きずり込まれていく。この疾走感はやっぱり舞城ならではだね。

せっかくの異界往還譚なのに……

舞台となる異世界が『千と千尋の神隠し』の戯画を見せられているようで正直、この点はかなーり微妙。いくらでも舞城オリジナルの異界を創造することが出来たであろうに、わざわざ誰もが知っているような有名作品からネタを引っ張ってこなくてもいいのに。執筆時期的に「千と千尋」ブームの頃だったのか。せっかくの異界往還譚が安っぽくなってしまったのはあまりにも惜しいように思える。

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