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『数の女王』川添愛 「不思議な数の世界」のファンタジー

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言語学者が書いたファンタジー小説

2019年刊行作品。作者の川添愛(かわぞえあい)は1973年生まれの言語学者、小説家。

数の女王

津田塾大学女性研究者支援センター特任准教授、国立情報学研究所社会共有知研究センター特任准教授を経て、小説家として独立。小説家としてのデビュー作は2013年の『白と黒のとびら: オートマトンと形式言語をめぐる冒険』である。

白と黒のとびら

白と黒のとびら

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おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

ちょっと変わったファンタジー作品を読んでみたい方、独特の「不思議な数の世界」に触れてみたい方、王道の成長物語を読んでみたい方、数学が大好きな方におススメ。

あらすじ

全ての人間が「運命数」を持つ世界。十三歳の少女ナジャは、メルセイン王国王妃の養女となる。義姉であるビアンカとの幸せな日々が始まるが、それは長く続かなかった。呪詛によって他者の数を奪い、不老の存在になろうとする王妃。その欲望が頂点に達した時悲劇は起こる。事態を打開するため、妖精メムと共に、ナジャは冒険の旅に出るのだが……。

ここからネタバレ

「運命数」に支配される不思議な世界

この世界ではすべての人間が生まれながらに「運命数」を持っている。その数によってその人間の性質や特徴が定められるのだが、ほとんどの人間は自身の「運命数」を知ることは出来ない。

本作では悪役として登場する王妃は、他者の「運命数」を知る手段を持っている。相手の「運命数」がわかると、その数を素因数分解して呪詛を送ることできる。素数が小さければ小さいほど呪詛は送りやすく、結果として「運命数」が大きな素数であればあるほど呪われ難かったりする(笑)。

素数の中でも、メルセンヌ素数は「宝玉」と呼ばれ珍重され、一方でピタゴラス素数は「刃」と呼ばれ呪詛に抗う力を持つ。

この物語では不思議な数についてのマニアック要素が全編に散りばめられており、独特なファンタジー世界が構築されている。

文系人間でも読める!

以下が、本作で登場する「不思議な数の世界」の要素である。

  • 約数・素数、合成数
  • 素因数分解
  • 過剰数、不足数、完全数
  • 友愛数
  • フィボナッチ数列
  • フェルマーの小定理、擬素数、カーマイケル数
  • 素数を生成する式
  • カプレカ数
  • 三角数
  • 巡回数
  • メルセンヌ数、メルセンヌ素数
  • ピタゴラス素数
  • リュカ数列
  • コラッツの予想

既に何を言っているか意味不明の方が大多数かと思われるが、全部巻末に用語解説があるから大丈夫!私立文系大学出身で、高校二年生以降数学の世界から離れていたわたしでも、十分楽しく読めたのでこの点はご安心頂きたい。

本作ではこうした「不思議な数の世界」が実に魅力的に物語の中に取り入れられている。数学用語として考えると一般人にはチンプンカンプンだが、しっかりと物語の世界に組み込んでみると、ファンタジーの要素として輝いてくるのだから面白い。

王道の少女の成長ストーリー

『数の女王』は世界観は独特ではあるものの、メインストーリーは王道の少女の成長物語である。主人公のナジャは幼くして両親から引き離され、とある理由でメルセイン王国王妃の養女として迎えられる。血のつながらない姉ビアンカとのひと時のふれ合いと離別。残忍で野心家の王妃の企み。そしてすべてを陰で操っていた「影」の存在。

自分に自信が持てず、自虐的に生きてきたナジャ。特に優れた「運命数」を持つわけでもない平凡な少女が、幾多の体験を経ることで成長していき、遂には世界を救うために動き出す。平凡な人間であっても、出来ることはある。

「自分の中の恐怖を見つめ、何が出来るかを考える」。自分の中にある不安や恐怖を客観視することで、いま出来る最適解にたどり着くことが出来る。これは普遍的な人生訓でもあり、このナジャの気付きに救われる読者は多いのではないだろうか。

数の女王

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ブックレコメンドさんで紹介して頂きました!

『数の女王』の紹介記事をブックレコメンドさんで掲載して頂きました。

『数の女王』の女王の次に読む本として、向山貴彦『童話物語』をレコメンドしています。こちらも超おススメの傑作ファンタジー!

ブックレコメンドさんは、掲載されると報酬がもらえるブックレビューサイトです。

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