先日書いた『悪霊なんかこわくない』のレビューに引き続き、小野不由美「悪霊(ゴーストハント)シリーズ」の新旧読み比べレビューを継続中。「十二国記」シリーズの感想を書いているうちにメディアファクトリー版の文庫版(KADOKAWA)が出始めてしまったので、もうすこしペースを上げていくつもり。
ゴーストハント(悪霊)シリーズの全巻レビュー始めるよ!
あまりに昔なので、既にご存じない方もおられるかと思うが、「ゴーストハント」シリーズはもともとは「悪霊シリーズ」と呼ばれていた。その第一作目が『悪霊がいっぱい!?』である。
『悪霊がいっぱい!?』は1989年刊行。小野不由美の四作目であり、「悪霊シリーズ」の記念すべき第一巻でもある。今は亡き講談社X文庫のティーンズハートレーベルからの登場であった。イラスト担当は中村幸緒
「悪霊シリーズ」は1989年から1994年にかけて、講談社X文庫ティーンズハートから全七作(八冊)が刊行された。その後、ティーンズハートレーベルの終了もあり、2000年代に入ると入手困難な時期が続く。
2010年に入って、メディアファクトリーから全面改稿となる新装版のリリースが、「ゴーストハント」とシリーズ名を改め開始された。この際に、イラストはコミカライズを担当したいなだ詩穂に変更されているが、表紙部分のみであり、本文中のイラストは全てカットされている。登場人物の紹介コーナーも無くなっている。初めて読まれる方は、人物関係を把握するのに少し手間取るかもしれない。
メディアファクトリー版は2010年から2011年にかけて全七巻が刊行され、現在では「悪霊(ゴーストハント)シリーズ」は手軽に読むことが出来るようになっている。

- 作者: 小野不由美
- 出版社/メーカー: メディアファクトリー
- 発売日: 2010/11/19
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当ブログでは、ティーンズハート版、メディアファクトリー版で、新旧双方を読み比べた上での感想を今後随時アップしていく予定である。
なお、2020年、角川文庫版が出てしまったのでお知らせしておく。角川版の内容はメディアファクトリー版に準拠するが、池澤春菜の解説がついてくるのはお得。なお、サブタイトルはメディアファクトリー版から変わらず「旧校舎怪談」である。
2020年12月にAudible版の配信が開始!朗読は安國愛菜が担当している。AudibleはAmazonが提供する書籍の音声配信サービス。無料お試しもやっているので興味のある方はどうぞ。なお、朗読時間は8時間40分もあるぞ(朗読する方も大変そう)。
あらすじ
麻衣の通う学校の旧校舎は呪われていると評判のいわくつきの建築物だ。事態を打開すべく、学校側は霊能関係のスペシャリストたちを召還する。現れたのは17歳にしてゴーストハンターを自称する美形の少年ナル。麻衣は不本意ながらもナルに協力し、旧校舎に秘められた謎に迫っていくのだが……。
ここからネタバレ
シリーズスタート!顔見せ巻
ナルことゴーストハンター渋谷一也や、ヒロインの谷山麻衣。その他の、主要登場人物、巫女の松崎綾子、僧侶の滝川法生、エクソシストのジョン・ブラウン、霊媒の原真砂子、そして助手のリン(彼の出番はちょこっと)まで、本シリーズのメインキャストがほぼ出そろう。それぞれのキャラクターや、得意分野などが順を追って紹介される。いきなり多数の登場人物が出てくるが、それぞれ個性が描き分けられており、混乱するようなことはないだろう。
強烈なパーソナリティを持つ、超常現象の専門家たちが繰り広げる丁々発止は、本シリーズの持つ魅力の一つであり、多くのファンに支持された、成功要因の一つと言えるだろう。
超常現象を科学的に読み解く
ナルが所長を務めるSPR(Shibuya Psychic Research)は、超常現象に対して、ビデオの映像解析や各種センサーを用いた、科学的なアプローチを行っていく。地域の歴史や、地理的な特徴にも目を向けており、何が事実で、何が事実でないのか。科学で分析できるのはどこまでなのかを明確にした上で事態を把握しようとする。
噂や憶測、思い込みを排したうえで、人智を超えた部分に向き合っていこうとする姿勢が個人的には大好きで、X文庫ティーンズハートのような若い女性向けのレーベルから登場した本作が、広い層に支持された原因の一つなのではないかと考えている。
旧版との違いは?
雑な比較で恐縮だが、X文庫ティーンズハート版のページ数は255頁。そして新装版はなんと362頁である。頁あたりの文字数が違うので正確な比較ではないものの、1.5倍程度に全体量が増えている。
新装版で増えた分はどこなのかと言うと、まず第一に個々の描写が細かくなっており恐怖感がアップしている。それから、ストーリー進行上、重要な部分の描写の追記である(この巻だと超常現象が起こる旧校舎の特定箇所についての言及が増えている)。
その他にも、物語前半、麻衣のセリフの「すいません」が「すみません」に変っていたり、冒頭で語られる怪談の種類が増えていたりと、各所に手が加えられている。
また、核心部分とは異なるのだが、宿直室に関しての記載が何故か大幅に増えていた。これはミスリード狙いかな?
ただ、基本的なストーリーの変更はナシ。麻衣を視点とした、少女の一人称で物語が進行するのも変わっていない。
コミカライズ版は原作に忠実な内容
本作はいなだ詩穂によるマンガ版が存在する。1998年に講談社の女性向けマンガ雑誌『Amie』に『悪霊がいっぱい!?』が連載された。しかし『Amie』の休刊に伴い、1999年以降は『なかよし』に連載が移った。
比較的原作に忠実なコミカライズである。2000年代に入ると、オリジナルのX文庫ティーンズハート版が入手困難となったので、入手が容易であったマンガ版の方が有名になるという逆転現象が生じた。少し以前の方であれば「悪霊シリーズ」はマンガ版がオリジナルと思っている読者がひょっとしたら存在するのではないだろうか?
新シリーズの名称が「ゴーストハント」になったのも、このコミカライズ版の存在が大きかったのではないかと思われる。
講談社漫画文庫版は2004年に登場。
こちらは通常版の2巻に収録されている「公園の怪談!?」が収録されている。「公園の怪談!?」はコミック版オリジナルの内容となっている。
アニメ版はコミック版準拠
せっかくなので、アニメ版についても言及しておこう。こちらは2006年から2007年にかけてテレビ放映された。全25話。制作はJ.C.STAFF。監督は真野玲。
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ゼロ年代に放映された、いかにも低予算な深夜アニメといった印象はあるものの(OPもEDも歌なしでオーブが飛んでいるだけ……寂しすぎる)、おおよそ無難な映像化。文字で読むより、映像で見せられた方が、この手のホラーものは格段に面白く、その意味では原作との相性は良いのだと思われる。
小説の『悪霊がいっぱい!?』『ゴーストハント1』部分はDVDの一巻目、FILE1に全三話で収録されている。原作との相違点はWikipediaから引用させていただくとこんな感じ。
原作では桜が咲いているという描写以外に時期が明示されていないが、アニメでは怪談をしていたのが4月の木曜日の放課後とされている。また、すべての検証が終わったのは日曜日である。
黒田がカメラのデータを操作した日は原作では平日だったので麻衣と黒田は制服を着ていたが、アニメでは土曜で2人とも私服で学校に来ている。
怪談をしていた人数と、綾子の除霊に立ち会った人数が、それぞれ1人少ない。ナルが麻衣に事前調査の結果を説明する際、校庭のベンチのところではなく、ベースを組むための棚を運びながら行っている。
旧校舎にベースを組んだ翌朝の教室での会話がベースを組んだ後の麻衣の帰宅途中になっている。
真砂子の合流前に綾子が教室に閉じ込められていて、その時点で黒田もベースにいる。
ナルが調査結果をまとめた物が、原作では古地図や水脈図といった書類だったが、アニメではパソコンの画面に表示されている。
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