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『変な絵』雨穴 あなたにはこの絵の「謎」が解けますか?


9枚の「図絵」がからみあうスケッチ・ミステリー

2022年刊行作品。前作『変な家』40万部超の大ヒットとなった雨穴(うけつ)の第二作である。本作『変な絵』も発売早々に、発行部数20万部を超える売り上げをたたき出しており、雨穴は僅か一年で、ヒットを連発する人気作家になってしまった。

変な絵

ちなみに、前作『変な家』は飛鳥新社から発売されているが、今回から版元が双葉社に移っている。

なお、筆者の雨穴は、性別、年齢不詳の覆面作家。Webライター出身で、Youtuberでもある。2022年11月時点で、チャンネル登録者は70万人を超えている。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

雨穴の一作目『変な家』にハマった方。ミステリ小説を読んでみたいけど、文字ばかりの本は苦手だなと思っている方。絵を見ながら、自分でも謎について考えてみたい方。ちょっと怖いタイプのミステリ作品がお好きな方。気軽に短時間で読み切れるミステリ本を探していた方におススメ。

あらすじ

とあるブログに綴られた、家族崩壊の記録。そこには不可解な五枚の絵が(風に立つ女の絵)。行方不明となった男児が遺した奇妙な絵(部屋を覆う、もやの絵)。山中で惨殺された美術教師、彼が死の直前に描いた絵の謎(美術教師 最期の絵)。そしてすべての発端となった最初に描かれた一枚の絵の秘密(文鳥を守る樹の絵)。九枚の絵の秘密をすべて解き明かしたとき、怖ろしい真実が明らかとなる。

絵から読み解く事件の謎

作家デビューとなった『変な家』は、「間取り」をビジュアル的に読者に提示、読む側に考えさせながら謎を解いていく構成を取っていた。今回の『変な絵』でも、ビジュアルありきの創作技法が用いられている。作中には何枚もの「奇妙な絵」が登場し、読者の好奇心を否が応にもかきたてていく。

昔ながらのミステリ読みとしては、実際に絵を読み解きながら楽しむ作品として、飛鳥部勝則の『殉教カテリナ車輪』あたりが思い浮かぶ。『変な絵』とも共通しているのだけれど、こうしたタイプの作品に出てくる絵画は、パッと見、絵面がちょっと怖くて、想像力が刺激され、読む前からワクワク、ドキドキさせられてしまう。手間暇はかかると思うのだけれど、効果的な手法ではあると思う。

ここからネタバレ

第一章 風に立つ女の絵

オカルトサークルに所属する佐々木修平は、後輩の栗原から「変なブログ」があると教えられ、興味半分でサイトを閲覧する。そこにはとある家族に起きた悲劇が綴られていた。アップロードされていたのは五枚の絵。その絵にはどんな意味が隠されているのか。

この章に登場するブログ「七條レン、心の日記」は、ご丁寧にも実際にブログが用意されている。記事数も146もあって、凝ってるなあ。

「五枚の絵」は雨穴のTwitterから引用させていただくとこんな感じ。

絵に番号がついているので、順番に意味があるところまでは想像がついたけど、縮尺や角度までは想像が付かなかった。

ユキは何故死んだのか?誰が殺したのか?「罪」とは何なのか。この章だけでは、まだ謎が残っている。これらの秘密については最終章まで読み進める必要がある。

雨穴のYoutubeチャンネルでは第一章の動画が公開されていたので、こちらもご紹介しておく。

 

第二章 部屋を覆う、もやの絵

父親である今野武司(こんのたけし)が死に、ひとり息子の優太(ゆうた)が遺される。今野直美(なおみ)は、懸命に優太を育ててきたが、日々の生活は厳しい。謎のストーカーに付きまとわれる直美。そして、ある日、優太が失踪してしまう。

保育園で優太が描いた絵が謎を解くカギとなる。当該画像は下の左の方の絵ね。マンションの、直美と優太の住む部屋だけがもやで覆われている。これには何の意味があるのか?

双葉社『変な絵』紹介ページより

「ママ」と呼ばれている今野直美が、実際には優太の母親ではなく祖母であること。優太の父母は既に他界していることが伺えるのだが、具体的な真相はまだ見えてこない。直美につきまとっていたストーカーの正体も、現時点では謎のままである。

第三章 美術教師 最期の絵

高校で美術教師を務めている三浦義春(みうらよしはる)が、山中にて惨殺遺体として発見される。容疑者は友人、教え子、妻の三人。三浦を殺すことが出来たのは誰なのか?トリックは?動機は?謎を解くカギは、三浦が遺した一枚の絵にあるようなのだが……。

三浦が遺した絵は上画像の右の方ね。

視点人物となる岩田俊介(いわたしゅんすけ)は、三浦義春の高校時代の教え子で、現在は新聞社に勤務。迷宮入りしている三浦殺害事件の謎を追う中で、三人の容疑者(友人の豊川、三浦の妻、教え子の亀戸)に出会い、遂に真相に到達する。

ミステリ的には相当に無理のある話で、絵を描かせるためにかなり無理をしたなという印象は否めない。寝ているとはいえ、相手に気付かれずに緊縛することが可能なのか?絵にしても、これ描くのが相当難しいだろう上に、描こうという発想にそもそもなるだろうか?

第四章 文鳥を守る樹の絵

裕福な家庭に生まれ、何不自由なく育った直美の人生は、父の死で暗転した。自殺だった。母による虐待が始まり、耐えかねた直美は遂に母親を殺害してしまう。更生施設での日々を経て、社会に出た直美だったが、彼女はそこで美大生の、三浦、豊川に出会う。

「文鳥を守る樹の絵」はパブリックに公開されている画像がなかったので、引用なし(ごめんね)。

最終章は謎解き編。作品全体の謎が明らかとなる。本作の事件を時系列で並び替えてみるとこうなる。

  • 197X:直美、母親を惨殺(第四章 文鳥を守る樹の絵)
  • 198X:直美、三浦と結婚、武史誕生(第三章 美術教師 最期の絵)
  • 1992/9:直美、三浦を殺害(第三章 美術教師 最期の絵)
  • 1995/9:直美、岩田、豊川を殺害(第三章 美術教師 最期の絵)
  • 2007/10:武史と由紀が結婚(第一章 風に立つ女の絵)
  • 2008/12:由紀(ユキ)の妊娠が判明
  • 2009/9:直美により由紀殺害、優太誕生(第一章 風に立つ女の絵)
  • 2012/11:武史、真相に気付き自殺(第一章 風に立つ女の絵)
  • 2014/5:佐々木が武司のブログを知る(第一章 風に立つ女の絵)
  • 2015/4:優太失踪(第二章 部屋を覆う、もやの絵)
  • 2015/4:熊井の訪問、直美逮捕される(第二章 部屋を覆う、もやの絵)

熊井の体を張ったおとり捜査、これを警察が許容するかなあ。事件の関係者である熊井が、犯人の家族である優太を引き取ることが出来るのかも疑わしい。ビジュアルを前面に押し出した物語としての見せ方は面白いのだけど、ミステリとしては隙が多すぎて微妙……。ってまあ、『変な絵』はガチのミステリファンを相手にした作品ではなく、もっとライトな層を相手にした作品なのだとは思うけど。

とはいえ、いわくありげな「変な絵」を何枚も用意して(けっこう手がかかると思うのだ)、読む側の想像力を刺激してくる作風は上手いなと思う。謎解きを図解で見せてくれるのもわかりやすいし、作者にはこのテイストでの次回作に期待したいところ。

ちなみに、「後輩の栗原」って、『変な家』にも登場した栗原だよね。微妙にお話が繋がっているのかな。

変な絵

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