小川一水の第5作品
2000年刊行作品。『まずは一報ポプラパレスより(河出智紀名義)』、『アース・ガード』『マリアロード・ストーリー』『こちら、郵政省特別配達課』に続く、小川一水の五作目にあたるお話。
相変わらずソノラマのカバーデザインは渋い(というかちょっと怖い)。ソノラマ的に、ライトノベルレーベルという認識は無いのだろうな、ってまあ、そこがソノラマのいいところなのだけど。イラストは大本海図が担当している。
その後、毎日新聞出版(インプレス)による、ライトノベルレーベル「μNOVEL(ミューノベル)」から、加筆修正が施された新装版が2015年に刊行されている。イラストはゆうきまさみになり、グッと砕けた印象のカバー絵になった。
μNOVELは2015年10月に創刊されるも、翌2016年12月には息絶えてしまった短命レーベル。こういう謎のレーベルが2010年代はけっこうあったよね。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★(最大★5つ)
デビュー間もないころ、小川一水の最初期作品を読んでみたい方。1990年代末期~2000年代初期のソノラマ文庫がお好きな方。人間が空を飛べるようになったらどうなるの?そんなテーマが気になる方におススメ。
あらすじ
人類にいつの頃から一定の確率で誕生するようになった翼あるものたち"イカロス"。彼らは通常の人類と同一の遺伝子を持ちながら、背に一対の翼を持ち空を飛ぶことが出来た。自由奔放な気性を持つイカロスに対して政府は法規制を開始、遂には不穏分子として弾圧、迫害を開始する。追い詰められたイカロスは団結し抵抗を開始するが……。
ここからネタバレ
翼をもった人類が生まれたら?
10万人に一人の割合で生まれてくる翼を持った人類イカロス。どう見ても物理的に飛べそうも無い翼なのに、彼らは空力を無視して飛翔することが出来る。どうして彼らは生まれてきたのか、そしてその存在意義はという展開になっていくのだけど、これって岩本隆明の『星虫』とコンセプト的に被っているような気が。正直あちらの方が遙かに出来が良いだけにあとから読むと見劣りがするのが残念。
惜しむらくは尺が足りない……
他のレーベルと違って一冊で完結しなきゃいけないので、相変わらずソノラマの小川作品は展開が急ピッチ。それ故にテーマを丁寧に掘り下げたり、キャラクター描写を深めるために適切なエピソードを用意したりする余裕が絶望的に足りていない。
ヒロイン以外のサブキャラについてはもう少し書き込みが欲しかったよなあ。壮大なテーマを謳い上げるには分量、筆力共に足りなかった印象。この人はこれ以降どんどん上手になっていくだけどね。