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小川一水のデビュー作『まずは一報ポプラパレスより』シリーズ全二作を読む

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実は乙一と同期だった小川一水

本日は『まずは一報ポプラパレスより』シリーズを二作まとめてご紹介したい。

まずは一報ポプラパレスより(1)

本作は、エスエフ作家、小川一水のデビュー作だが、デビュー当時は河出智紀という筆名で刊行されていた。今は亡き新書サイズの「JUMP jBOOKS」レーベルからの登場であった。当時の集英社は、JUMPブランドでのライトノベルレーベルを作りたかったんだと思うけど、これ、結局あまりうまくいかなかったよね。

1996年刊行。第六回のジャンプ小説ノンフィクション大賞の大賞受賞作品。

小川一水(河出智紀)は、この時21歳。奇しくも同じ回の大賞を乙一の『夏と花火と私の死体』が受賞している。小川一水と、乙一、この二人実は同期生だったのだ。

まずは一報ポプラパレスより (JUMP jBOOKS)

まずは一報ポプラパレスより (JUMP jBOOKS)

 

ジャンプ小説・ノンフィクション大賞(現在はジャンプ小説新人賞)は、1991年から始まった、集英社系の公募系新人賞タイトルで、村山由佳、乙一、そしてこの小川一水を世に出したあたりが功績って感じかな。

電子書籍版が2014年に刊行されており、こちらは小川一水名義で刊行されている。  

まずは一報ポプラパレスより(1)

まずは一報ポプラパレスより(1)

 

「JUMP jBOOKS」のインタビュー記事はこちら。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

小川一水、デビュー当時はどんな作品を書いていたのか興味のある方。架空王国系の物語がお好きな方。瑞々しいボーイミーツガール的なストーリー展開を楽しみたい方におススメ。

ここからネタバレ

 『まずは一報ポプラパレスより』のあらすじ

デューイ=トランスはウルムスター王国の王宮長官秘書官。しかしそれは世を忍ぶ仮の姿。彼の正体は大陸の列強イウォーン帝国の情報部員だった。微妙な政治バランスの上に独立を維持してきた小国ウルムスターであったが、世界情勢は風雲急を告げる。大侵攻を前にして王女グリーナの暗殺を命じられたトランスの決断は如何に。

小川一水お得意の架空王国モノ

架空世界の話だが、超科学も魔法もファンタジーも出てこない。SF臭もしない。小国にスパイとして送り込まれた主人公が、奔放なお姫様に振り回されながら頑張るお話。ウルムスター王国の設定はそれなりに考えて作っているようだけど、誌面に限界があるせいもあってか、小川一水らしい設定マニアぶりは仄かに感じる程度。

同時に大賞を受賞した乙一作品『夏と花火と私の死体』の驚くべきトンデモ度に較べるとかなり地味な作品だと思う。まあ、この作家は書く度にゆっくりと練度をあげていくタイプの作家だったので、この時点では致し方無しか。

『まずは一報ポプラパレスより2』

そして1998年に登場した第二作がこちら。まだこのころまでは、河出智紀名義で出ている。

架空の王国ウルムスターシリーズの二冊目。河出智紀名義ではこれが最後の作品となる。本作が出て四ヶ月後、同年の8月にはソノラマ文庫から『アース・ガード』 が出ているがこれはもう小川一水名義となっている。どうしてペンネーム変えたんだろう。

 

まずは一報ポプラパレスより 2 (JUMP jBOOKS)

まずは一報ポプラパレスより 2 (JUMP jBOOKS)

 

こちらも2014年に電子書籍が版が出ていて、名義は小川一水になっている。

まずは一報ポプラパレスより(2)

まずは一報ポプラパレスより(2)

 

 『まずは一報ポプラパレスより2』のあらすじ

大国イウォーンを裏切り弱小国ウルムスターの主席秘書官の道を選んだトランスだったが、その実情は単なる何でも屋だった。グリーナ王女の気まぐれに振り回される日々が続く。しかし列強諸国は豊富な地下資源を持つウルムスターを諦めては居なかった。襲い来たる暗殺者の影。そして騒乱の火の手は国外だけでなく、国内にも上がりつつあった。

二作目が短編集という意外性

今回は短めのお話が二編。王女の酔っぱらい飛行が原因で国内の自治領ハイマーラ高原に墜落した二人が思わぬ騒動に巻き込まれるお話「あなたに木陰の思い出を」。

そして隣国のナンパ王子の求婚話と刺客に狙われるトランスの苦悩を描く「Crossing Letter」。以上二編を収録している。

デビュー二作目が外伝ノリの短編集というのは、ちょっと違和感がある。長編が書けなかったのか、書かせてもらえなかったのか悩ましいところ。

「デビュー作にはその作家の全てが盛り込まれている」とは良く言われる話で、作り込まれた骨太な架空世界設定とか、濃厚なキャラクター造形とか、後々の小川一水を特徴づけている「らしさ」はそこはかとなく感じさせてはくれるけれども、まだまだこれからという感じ。

これが、あと5年も経つと『導きの星』『復活の地』みたいな凄い話を書いてしまうのだから、作家の評価と言うものは難しいものである。

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